16 おとな未満のステップ 藍(らん)にエールを贈るミャア
ーー三毛猫は、日本では昔から庶民に親しまれてきたおなじみの猫だ。
だが実は、世界的に見れば非常に珍しく、時に幸運をもたらす招き猫として珍重される存在でもある。
これは、そんな一匹の三毛猫「ミャア」が、とあるWEB小説家(作者)の生み出す物語の世界を気ままに旅していく、少し不思議な物語。
10月の終わり。秋晴れの空がどこまでも高く澄みわたる学園祭の日曜日。
2年3組の模擬店テントの隅で、小6の藍は真っ赤な顔をして立ち尽くしていた。
「お釣りはいいよ」
カッコつけて300円の焼きそばに千円札を出し、盛大に滑って亜子やその女子高生グループに大笑いされた直後だった。
「ちょっ……なんで笑うんだよ!」
「だ、だって! お釣りのが多いし、お財布から出てきたのお小遣いでしょ?」
恥ずかしさのあまり地面に埋まりたくなった藍だったが、歯を食いしばって言い放った。
「……笑うなよ。いつか絶対、本当にかっこよく奢ってやるからな」
その震える声を聞いた亜子はふっと笑いを止め、優しく微笑んで藍の目の前までしゃがみこんだ。
「かっこつけようとしなくていいよ。……ただね、そんな風に背伸びして私のこと見て、必死に大人になろうとしてくれる藍の気持ちが……すごく、嬉しかったの」
二人の間に流れる、少し照れくさくて甘酸っぱい空気。
その時だった。テントの裏の草むらから、「にゃあ」と透き通った声が聞こえた。
「……ん? 猫……?」
藍が驚いて足元を見ると、白地に黒と茶色の斑模様を持った一匹の三毛猫が座っていた。鍵型に曲がった尾をパタパタと揺らし、黄金色の瞳で二人を見上げている。
「あ、可愛い! どこから入ってきたんだろう」
亜子が目を細めて手を伸ばすと、三毛猫はしゃがみこんでいる亜子の膝へトコトコと近づき、頭を「ごん」と深く擦り付けた。
「ふふっ、すごく懐っこい……! 藍、見て、全然怖がらないよ」
「な、なんだよその猫……。僕はいま、それどころじゃ……うわっ!?」
藍が焦っていると、三毛猫はすっと向きを変え、藍の長ズボンの裾にぴったりと体を寄せると、「ゴロゴロ……」と喉を鳴らし始めた。
「お名前、なんていうのかな?」
亜子が優しく尋ねると、三毛猫は胸を張り、はっきりと答えた。
「ミャア」
「えっ……? 今、『ミャア』って言った?」
藍が目を丸くする。
「ミャア」
もう一度、自信満々に鳴く三毛猫。
「あはは! ミャアちゃんっていうんだ! 自分で名前が言えるなんてすごいね!」
亜子が楽しそうに笑うと、ミャアは藍の靴の上にちょんと前足を乗せ、まるで「負けるなよ、少年」と励ますかのように短く鳴いた。
「にゃあ」
「……ミャア、か。俺を子供扱いしないのは、この猫くらいだな」
藍がボソッと呟くと、亜子はクスクスと笑いながら藍の手をそっと包み込んだ。
「子供扱いなんてしてないよ。藍は藍のままで、ちゃんと……私の隣にいてよ」
その言葉に、藍の胸の奥で熱い炎が燃え上がった。
「……見ててくれよ、亜子ちゃん。俺が本当に大人になったら……そのときは、もう子供扱いなんて絶対にさせないからさ」
まっすぐな誓いを立てる二人を、ミャアは満足そうに目を細めて見つめていた。
ミャアは二人に向かって最後にもう一度「ミャア」と鳴くと、秋風が吹き抜ける校庭の方へと軽やかに走り去っていった。
「あ……行っちゃった。旅の猫ちゃんだったのかな」
「……うん。でも、僕もいつかあいつみたいに、どこ行っても堂々とした男になってやる」
「ふふ、楽しみに設定しとくね」
秋晴れの青空の下、不器用で甘酸っぱい誓いを胸に刻んだ二人の影が、温かな光のなかでどこまでも伸びていっていた。
学園祭の喧騒をあとにしたミャアは、秋の風に乗るようにして、時空の狭間へと足を踏み入れた。
背伸びする少年の熱い誓いを見届けたミャアが次に降り立ったのは、19世紀末の霧深いロンドン——ベーカー街221Bの石畳の上。
そこでは、未来からやってきた麻子と真司、そして名探偵シャーロック・ホームズたちの新しい冒険が待っていた。
おとな未満のステップ…の藍と亜子の元へもミャアは行きましたね。
小学生男子と女子高生のカップルって異色ですが、プロ作品にもあり中々面白いです。
オトナになる方法ーー山田南平さんーコミック
おいしいコーヒーの入れ方ーー村山由佳さんー小説で小学生のシーンはあまりないかも知れないですが、スタートは男子高校生と美術女性教師です。




