17 ホームズ未来からの依頼人ー麻子と真司の前に現れた三毛猫ミャア
ーー三毛猫は、日本では昔から庶民に親しまれてきたおなじみの猫だ。
だが実は、世界的に見れば非常に珍しく、時に幸運をもたらす招き猫として珍重される存在でもある。
これは、そんな一匹の三毛猫「ミャア」が、とあるWEB小説家(作者)の生み出す物語の世界を気ままに旅していく、少し不思議な物語。
小学生男子の藍が幼なじみの女子高生の亜子と対等になろうと背伸びに失敗したところに突如現れた三毛猫ミャアだったが、エールを贈り、次なる物語、ヴィクトリア朝のロンドンへ……
ハドソン夫人に土下座までして、ようやくベーカー街221Bの掃除と窓拭きのお手伝いをさせてもらえることになった次の日の午後のことだ。
わたしと真司は、雑巾を手に2階の居間の窓枠をゴシゴシと磨いていた。
「ふぅ……ハドソン夫人って、毎日これを一人でやってるんだよね。本当に頭が下がるよ」
わたしが汗を拭いながら言うと、暖炉の前のパイプ椅子でバイオリンを奏でていたホームズさんが、ふっと弓を止めた。
「ハドソン夫人の家事の手際の良さは一流だからね。だが麻子、真司、君たちの熱心な働きぶりには彼女も感謝していたよ」
「僕たち、ホームズさんに事件の報酬も払えないし……これくらいしかできることがないですから」
真司が照れくさそうに笑った、その時だった。
トントン、と軽やかな足音が階段から響き、続いてドアの隙間から「にゃあ」という澄んだ声が聞こえた。
「あらあら、どちらのお客様かしら?」
お茶を運んできてくれたハドソン夫人の後ろから、すっと部屋に入ってきたのは——見事な白地に黒と鮮やかな茶色の斑模様を持った一匹の三毛猫だった。
「わあ! 猫ちゃんだ! 可愛い……!」
わたしが思わず声をあげると、三毛猫は鍵型に曲がった短い尻尾をパタパタと振り、黄金色の大きな瞳でわたしたちを見回した。
「ホームズさん、ベーカー街に三毛猫なんて珍しいですね。イギリスだとキャリコ・キャットって呼ばれてるんでしたっけ?」
真司が覗き込むと、ホームズさんはパイプの煙をくゆらせながら、興味深そうに目を細めた。
「ほう……ただの猫ではないな。毛並みの手入れは行き届いているが、首輪はない。そして、19世紀のロンドンには滅多に存在しない東洋独特の鍵尾だ。それに……」
ホームズさんは猫の足元を指した。
「その足についているのは、ロンドンの泥ではない。どこか別の……遠い場所の空気を感じさせるね」
「さすがホームズさん! ……ねえ、君はお名前なんていうの?」
わたしが屈み込んで優しく尋ねると、三毛猫は胸を張り、はっきりと答えた。
「ミャア」
「えっ……? 今、『ミャア』ってしゃべった!?」
真司が驚いて飛び上がった。
「ミャア」
もう一度、自信満々に自分の名前を主張する三毛猫。
「あはは! ミャアちゃんっていうんだ! すごい、自分の名前が言えるんだね!」
わたしが嬉しくなって手を差し出すと、ミャアはトコトコと歩み寄り、わたしの雑巾を持った手に頭を「ごん」と深く擦り付けてきた。さらに、真司のズボンの裾にもスリスリと体を寄せ、「ゴロゴロ……」と温かな重低音を鳴らし始める。
「な、なんだかすごく懐っこいや……。なんだか、見守られてるみたいな不思議な気分になるな」
真司が顔をほころばせると、ホームズさんもパイプを置き、ミャアの前にしゃがみこんだ。
「なるほど。『未来からの依頼人』である君たちを追って、あるいは導くように現れた旅人……いや、旅猫というわけか。幸運をもたらす三毛猫が訪れたとなれば、モリアーティとの決着も近いかもしれんな」
「ミャア!」
ミャアはホームズさんの言葉に同意するように高く鳴くと、ホームズさんの差しのべた長くて細い指に、ちょんと自分の前足を重ねてみせた。
「ふふっ、ホームズさんもミャアちゃん気に入っちゃったみたいですね!」
「ハハ、名探偵と未来の子供たち、そして不思議な三毛猫の共演というわけだ。ハドソン夫人、このお客様にも極上のミルクを用意してあげてくれたまえ」
「はいはい、すぐに持ってきますよ」
ハドソン夫人が嬉しそうに部屋を出ていくと、居間にはなんとも温かく、心強い空気が満ち渡っていった。
窓から差し込むロンドンのやわらかな光の中で、ミャアはわたしたちの足を交互に踏みしめ、「大丈夫、事件はきっと解決するよ」と伝えてくれているようだった。
雑巾がけの疲れなんて、すっかり吹き飛んでしまっていた。
不思議な旅猫、三毛猫ミャア。
WEB小説作者の作品を最新完結作を出発点にして、作者が初めて自力で完成させたこの物語まで、メイン作品を旅してきました。
三毛猫ミャアは、「ミャア」しか言えません。
でも、いろんな登場人物がこのミャアに反応していました。
ホームズまで。ミャアを観て推理していました。
これから、三毛猫ミャアはどこに出没するのでしょうか?
それは、子どもたちの学校帰りの通学路や公園で日向ぼっこをしているお婆さんや不登校で家の軒端に出て庭を眺めている中学生の前かも知れません。
みんなみんな自分の人生の物語の中で生きています。
真司や麻子もーーー
読んでいただき、ありがとうございます。
三毛猫ミャアの物語旅は、このホームズ未来からの依頼人(略)がラストです。
私が初めて自力で完成させた長編小説が終着点ということです。
三毛猫ミャアに私のWEB小説を旅させることで作品を振り返るようになっています。
人はみんな自分の人生の物語では主人公で、他人の人生の物語では脇役です。
そんな人生の物語の一コマに、主人公が気づいたり、触れ合わなくても、犬や猫やスズメやハトなどが入ってくることがあります。
そういう動物や鳥たちを三毛猫ミャアとして、物語で生きる登場人物ー麻子や真司、藍らんや亜子たちの人生の物語の一コマに三毛猫ミャアが現れたわけです。
この三毛猫ミャアとともに、私の作品を振り返っていただき、ありがたいです。
小説のネタが尽きてしまったので、これからは、充電期間に入ります。
いろんな小説を読んでいきたいです。




