15 近くて遠い虹ー夢を叶えたふたりの前に現れたミャア
ーー三毛猫は、日本では昔から庶民に親しまれてきたおなじみの猫だ。
だが実は、世界的に見れば非常に珍しく、時に幸運をもたらす招き猫として珍重される存在でもある。
これは、そんな一匹の三毛猫「ミャア」が、とあるWEB小説家(作者)の生み出す物語の世界を気ままに旅していく、少し不思議な物語。
桜の花びらが春風に舞う大通り。
劇場前には『星を掬う少年』の巨大なアニメ化記念ポスターが掲げられ、原作者・相沢文美と、主人公役を演じる声優・神崎天馬が並んで腰を下ろしていた。
「遠回りしたけれど……歩き続けて良かったね、天馬くん」
「おう。文美が書いた物語をオレが演じる。あの幼い頃の約束、ちゃんと叶えられたな」
お互いの夢を掴み取り、万感の思いで春空を見上げる二人。その足元に、ふわりと小さな足音が忍び寄ってきた。
「……にゃあ」
透き通った鈴のような鳴き声。
ふたりが視線を落とすと、そこには見事な白地に黒と鮮やかな茶色の斑模様を持った一匹の三毛猫が座っていた。鍵型に曲がった短い尻尾をパタパタと振り、黄金色の大きな瞳でふたりを交互に見上げている。
「あ……可愛い猫ちゃん。どこから来たんだろう?」
文美が目を丸くして身をかがめると、三毛猫はトコトコと歩み寄り、文美の膝の上に載っていた『星を掬う少年』のBlu-rayパッケージに、自分の頭を「ごん」と愛おしそうに押し当ててきた。
「うおっ! なんだなんだ、人懐こいやつだな!」
天馬が笑いながら屈み込むと、三毛猫はそのまま天馬のジーンズの裾にもすりりと体を寄せ、「ゴロゴロ……」と温かな喉鳴りを響かせた。
「お名前、なんていうのかな?」
文美が優しく問いかけると、三毛猫は胸を張り、はっきりと答えた。
「ミャア」
「えっ……? 今、『ミャア』って言った……?」
天馬が目を丸くして顔を覗き込む。
「ミャア」
もう一度、誇らしげに自分の名前を主張する三毛猫。
「あはは! ミャアちゃんっていうんだ! すごいね、自分で名前が言えるんだね!」
文美が嬉しそうに微笑むと、ミャアは二人の重なりそうな手の甲にそっと前足を重ねてきた。
「文美……このミャア、俺たちの作品のファンなのかな」
「ふふ、そうかもしれないね。なんだか……入園式の日に、怖がっていた天馬くんに声をかけた時のこと、思い出しちゃった」
文美が懐かしそうに目を細める。
「あの時、文美が手を差し伸べてくれたから、俺の物語が始まったんだ。作家と声優、近くて遠かった虹を一緒に追いかけて……今があるんだよな」
「うん。……あきらめないで、歩き続けて本当によかった」
二人が微笑み合う姿を、ミャアは満足そうに目を細めて見つめていた。
ミャアは二人を交互に見つめたあと、桜の木を見上げて小さく鳴いた。
「にゃあ」
「そっか。お前も『旅の途中』なんだな」
天馬が悟ったように優しく微笑み、ミャアの背中を撫でた。
「ミャアちゃん、私たちの物語を見届けてくれてありがとう!」
文美が手を振ると、ミャアは振り返り、鍵型の尻尾をフリフリと振りかえしてみせた。
そのまま、桜吹雪の舞う大通りへと吸い込まれるように、軽やかに去っていく。
ふたりはそっと手を重ね合わせながら、ミャアの小さな後ろ姿をいつまでも愛おしそうに見送った。
「……行ったね、天馬くん」
「ああ。さあ文美、俺たちの新しい『虹』へ向かって、これからも一緒に走ろうぜ!」
春の光のなか、二人の足音と笑い声が、どこまでも爽やかに響き渡っていった。
桜舞う都会を飛び出し、世界の境界をひらりと飛び越えていく三毛猫ミャア。
WEB小説の作者が紡ぎ出す幾つもの世界を巡り、数え切れないほどの絆、希望、そして愛おしい瞬間の「共犯者」であり続けた旅。
公園のベンチ、名探偵の街角、潮風の美浜村、ストリートピアノのモール、南米アンデスの山並み、シロツメクサのグラウンド、朝の病室、夕焼けの渡り廊下、雪降る下町、影追いペアの陽だまり、いじめバスターズの教室、本当の笑顔を取り戻した部室前、そして虹を掴んだ春の大通り——。
ミャアは鍵型の尻尾をゆらゆらと揺らし、また新しい物語のページが開かれるのを待っている。
「にゃーん」
旅する三毛猫ミャアの大冒険は、これからも作者の生み出す無限の世界とともに、どこまでも、どこまでも続いていくのだった。
最近完結した、近くて遠い虹ですが。
ふたりが共に夢を叶えた夢追い物語のラストにミャアが現れました。
これからは、プロの門をくぐった天馬と文美はどうなって行くのか?
ということですが、続きは読者の皆様が自由に考えていただけたらと思います。
私もプロの世界は外野から見ているだけですが、中々厳しい世界だと思います
お客さんではないですからね。




