12 巨悪と戦う高校生たちの物語ー影追いペア…での旅
ーー三毛猫は、日本では昔から庶民に親しまれてきたおなじみの猫だ。
だが実は、世界的に見れば非常に珍しく、時に幸運をもたらす招き猫として珍重される存在でもある。
これは、そんな一匹の三毛猫「ミャア」が、とあるWEB小説家(作者)の生み出す物語の世界を気ままに旅していく、少し不思議な物語。
ときに悩める中学生たちの公園に現れ、
ときに時空を超えた名探偵の街角に佇み、
ときに潮風かおる港町で子どもたちと戯れ、
ときに影と光の狭間で復讐に揺れる少年少女の足元にそっと寄り添う——。
なにしろ、この三毛猫ミャアの旅はとどまることを知らないのだから——。
街の喧騒が遠ざかる夕暮れ時。
瑞希が深い息を吐き出しながら下宿先の門をくぐると、居間からは温かな光と、老婦人の朗らかな声が漏れていた。
「あ、瑞希ちゃん、おかえり。……ちょうど良かった、響くんが来てくれているよ」
一瞬、瑞希は足を止めた。復讐という暗い澱の中で生きる彼女にとって、唯一の聖域であるこの下宿。そこに、同じ「影」を背負う響が座っていた。
居間に入ると、響は差し出された麦茶を手に、ふっと柔らかく笑った。
「何か用?、響」
瑞希が冷徹な声で尋ねる。
「別に。ただ、瑞希が帰ってくるのを待っていただけだ。……ここの麦茶、うまいな」
老夫婦が響に注ぐ慈しみの眼差し。それはあの日、両親を失う前に瑞希が受けていた温もりそのものだった。甘えてはいけない、けれど守りたい——瑞希の胸で激しい葛藤が渦巻いたその時だった。
「……にゃあ」
廊下の向こうから、静かで愛らしい声が聞こえた。
白地に黒と茶色の鮮やかな斑模様。鍵型に曲がった尾をゆっくり揺らしながら、一匹の三毛猫がトコトコと居間へ入ってきた。
「あら、いつの間にか可愛いお客さんだねぇ」
老婦人が目を細める。
ミャアは迷うことなく響の足元へ歩み寄ると、そのジーンズの裾に「ごん」と深く頭を擦り付けた。
「うおっ……! 猫か……? どっから入ってきたんだ」
響がおそるおそる手を伸ばすと、ミャアはそのまま瑞希の足元へと移動し、冷え切っていた瑞希のつま先に自分の温かい体をぴったりと押し当てた。
「あたたかい……」
瑞希がそっと膝をつき、撫でてやると、ミャアは「ゴロゴロ……」と深い喉鳴りを居間に響かせた。
「お名前、なんていうの?」
瑞希が静かに問いかけると、三毛猫は胸を張り、はっきりと答えた。
「ミャア」
「えっ……? 今、『ミャア』って言ったか?」
響が目を丸くして顔を覗き込む。
「ミャア」
もう一度、誇らしげに鳴く三毛猫。
「ふふ……ミャアちゃんっていうんだ。すごく不思議な猫だね」
瑞希の口元から、氷が溶けるように小さな笑みがこぼれた。
響はその柔らかい表情を見つめ、そっと呟く。
「……瑞希。……そんな風に笑えるんだな」
「え……?」
「いや……良かったよ。お前が笑うと、この場所がもっと温かくなる」
響の真っ直ぐな言葉に、瑞希はハッとして視線を落とした。胸の奥がキュッと締め付けられる。
数日後、今度は瑞希が響の自宅を訪ねた際も、玄関の開いた隙間からミャアがすっと顔を出した。響の母親が「瑞希ちゃん、上がって!」と嬉しそうに手を握り、響が照れくさそうにココアを淹れてくれる傍らで、ミャアはソファの上で丸くなり、二人の会話を温かく見守っていた。
(……いけない。この温かさに、甘えてはいけない)
自分に言い聞かせる瑞希。しかし、響の母が涙ぐみながら感謝を伝えてくれた時、冷徹だった瑞希の目から一筋の雫がこぼれ落ちそうになった。
「ここも……壊しちゃいけない場所だね、響」
「ああ。俺たちの『光』だ。絶対、守り抜こう」
二人が静かに誓い合ったその夜。
デーモンの秘密アジトの暗闇で、二人を狙う残酷な悪意の視線が蠢いていることを、二人はまだ知らない。
けれど、二人の絆の間にそっと残された三毛猫ミャアの温かな毛並みの感触は、これから訪れる苛烈な戦いの中でも、決して消えない「光」として二人の胸に灯り続けるのだった。
「にゃあ」
夜の静寂の中、ミャアは響の家の塀からひらりと跳び降りた。
壊してはならない大切な日常と、復讐の影を背負うふたりの誓いを見届けたミャア。
鍵型の尻尾をゆらゆらと揺らしながら、ミャアは次なる舞台——『不法行為につき、即座に駆逐いたします。〜突撃、いじめバスターズ!〜』の陣内蓮たちが待つ、賑やかで熱い学校の教室へと足を向けるのだった。
影追いペアー理不尽を強いる者たちへの反撃ーは、私の作品ではかなりな悪との戦いストーリーです。巨悪デーモンに家族が理不尽な目に遭った瑞希と中学時代にクラスで理不尽な目に遭った響の戦いなので。
そんな2人の休息のひとときに三毛猫ミャアが現れます。
巨悪との戦いは一矢報いたところでこの物語は完結させていますが、果てしないですね。




