第9話 呪詛返し
「勇者様はそこに居てくださるだけで良い」
あれほどそう言っていた。
なのに、1週間も経たずに
「勇者は本当に役に立っているのか」
そんな声が聞こえるようになった。
私は耳を疑った。
……何を言っているのだろう、この人たちは。
勝手に異世界へ喚び出して、勝手に勇者という役目を押しつけて。
「居るだけで良い」と言っておきながら。
今度は「役に立っているのか」だと?
ふざけるな。
蓮斗様は、この世界のために毎日剣を振るい、傷だらけになっている。
それでも足りないと言うのか。
そんなことを口にする者など――。
万死に値する。
私は魔法の勉強もしていた。
昼間は蓮斗様と行動を共にしている。
だから勉強するのは夜。
王城の図書館から借りていただいた魔術書を、部屋の灯りの下で読む。
不思議なことに。
そこに書かれている文字は、見たこともないものなのに読めた。
異世界召喚の影響なのだろうか。
まぁ、読めるなら問題ない。
内容はというと……。
正直、最初は難解だった。
魔力の流れだとか、術式の構築だとか、精神と肉体の関係だとか。
小難しいことが延々と書かれている。
けれど、何冊も読み進めて要約すると。
結局のところ、魔法に必要なのは二つ。
明確なイメージ。
そして、
それを現実にするだけの精神力。
なるほど。
それなら、やることは分かりやすい。
あとは鍛えるだけだ。
私が最初に覚えた魔法は、【呪詛返し】だった。
理由は単純だ。
蓮斗様に【呪い】を送ってくる者がいたからだ。
……本当に、ふざけた話である。
蓮斗様は何も悪いことなどしていない。
ただ、この世界を少しでも良くしようとしているだけだ。
それなのに。
世界樹を切り倒されると困る者がいるらしい。
だから、蓮斗様に呪いを送る。
理解できない。
自分たちの都合のために、他人を傷つけようとするなんて。
そんなもの、許されるはずがない。
だから私は、送られてきた呪いを送り返す。
【呪詛返し】
しかも、そのまま返すだけではない。
十倍にして返す。
当然だ。
蓮斗様を害そうとしたのだから。
後で聞いた話では、呪いを送った者の中には大きな代償を払った者もいたらしい。
手足が腐り落ちた者がいるとか、いないとか。
私は知らない。
ただ一つ言えることは。
蓮斗様に不埒なことをしたのだ。
それ相応の報いを受けただけである。




