第8話 従者
私たちは城の中に部屋を与えられた。
……広い。
私の部屋が、そのまま丸ごと入りそうなくらい広い。
着の身着のまま召喚された私たちには、新しい衣服まで用意されていた。
……が。
「歩きづらいです」
用意されていたのは、ふわふわひらひらのドレスだった。
こんな格好で世界樹を目指すなんて無理である。
なので、私は男性用の従者服を用意してもらった。
後日、私用に仕立ててくれるらしい。
ドレスなんかより、断然こっちの方がいい。
動きやすいし、剣の稽古にも向いている。
最高だ。
私は新しい服を着ると、さっそく蓮斗様のところへ向かった。
「どうですか!」
「どうしたの、それ?」
蓮斗様は目を丸くして驚いている。
「従者服です!」
私は胸を張る。
「動きやすくて最高です!」
そして、ふと思いつく。
……そうだ。
これなら。
私は少し姿勢を正し、アニメで見た執事の真似をする。
腰を折り、できるだけ優雅に。
「蓮斗様。何なりとお申し付けくださいませ」
決まった。
……たぶん。
「え~、なに言ってんの」
蓮斗様は笑った。
その笑顔を見た瞬間。
幸せ。
最高。
尊い!
「えへへ、従者ごっこです」
そう言って誤魔化した。
そう。
これはただの従者ごっこ。
……ということにして。
私は、蓮斗様を「蓮斗様」と呼ぶ権利を公式に手に入れたのだった。
そして、驚くことに。
私は魔法が使えた。
蓮斗様も、かなり驚いていた。
というのも、蓮斗様には魔法の才能がまったくなかったからだ。
……あのキラキラ物体に掴みかかったせいだろうか。
それとも、蓮斗様を日本へ帰すためには異界の門を開かなければならないから、その力を与えられたのだろうか。
どちらなのかは分からない。
まぁ、使えるならそれでいい。
私は毎日幸せである。
朝になれば、蓮斗様が「おはよう」と挨拶をしてくださる。
訓練では剣の教官に何度も吹き飛ばされるけれど、そのたびに「大丈夫か?」と気遣ってくださる。
一緒に朝ご飯を食べて。
一緒に昼ご飯を食べて。
一緒に夜ご飯を食べる。
その日の出来事を話して。
笑って。
そして別れ際には、
「また明日」
そう言ってくださる。
明日も会える。
それだけで十分だった。
幸せだ。
これ以上の幸せなんか無い。




