第6話 世界樹
「世界樹とは、本来この世界を浄化する大樹にございます」
王は静かに語り始めた。
「しかし、世界樹にも寿命があります」
「寿命……ですか」
「はい」
神官が言葉を継ぐ。
「寿命を迎えた世界樹は、その役目を終えます」
「本来であれば、その時点で切り倒さねばなりません」
「さもなくば、長い年月をかけて浄化してきた穢れ――滓が逆流し、この世界へ瘴気として溢れ出してしまうのです」
……つまり。
木こりをしろ、と。
頭の中に、蓮斗様が手斧を担ぎ、
『ヘイ、ヘイ、ホー』
と、世界樹を切っている姿が浮かぶ。
……ぷっ。
思わず口元が緩んでしまった。
「どうかなさいましたか?」
神官が不思議そうに首を傾げる。
「い、いえ。何でもありません」
危ない危ない。
今のは絶対に口に出せない。
私は咳払いを一つして気持ちを切り替える。
「でも、どうして勇者しか切れないんですか?」
その問いに王は迷うことなく答えた。
「世界樹は、この世に在って、この世に在らず――そう伝えられております」
「この世界の理から半ば外れた存在ゆえ、この世界の者は触れることすらできません」
「異世界より来られた勇者様だけが、世界樹へ干渉できるのです」
広間は静まり返る。
その説明を聞きながら、私は胸の奥で別の思いが静かに膨らんでいた。
世界樹がどうとか。
瘴気がどうとか。
正直、どうでもいい。
私がここへ来た理由は、一つだけ。
蓮斗様を元の世界へ連れて帰ること。
それ以外は、全部ついでだ。
ただ――。
もし蓮斗様が世界樹を切ると決めるのなら。
私も、そのために全力を尽くす。
邪魔をする者がいるなら排除する。
必要な物があるなら集める。
蓮斗様が望むことなら、私は何だってやる。
それだけだ。




