第5話 誘拐共犯者
私は内心、目の前の王を睨みつけていた。
――こいつが、蓮斗様を攫った張本人か。
神に頼んで召喚した張本人。
私の中では十分に共犯だ。
王は玉座から静かに立ち上がる。
「勇者様方」
厳かな声が大広間に響いた。
「この世界は今、『悪しき瘴気』に蝕まれております」
王は苦しげに目を伏せる。
「瘴気に侵された土地では作物は育たず、病が蔓延し、多くの民が命を落としております」
広間に集う者たちの表情も暗い。
「世界そのものが、ゆっくりと死へ向かっているのです」
一拍置き、王は深く頭を垂れた。
「この『悪しき瘴気』の根源を討てるのは、異世界より召喚された勇者のみ」
「どうか……我らに、お力をお貸しください」
それに続くように、神官、騎士、貴族たちが一斉に頭を下げる。
静まり返った広間。
私はゆっくりと口を開いた。
「あの」
全員の視線がこちらへ向く。
「お力を貸すって、具体的には何をさせるつもりなんですか?」
「私はただの女子高生です」
「剣術も魔法も知りませんし、特殊な力なんて持っていません」
その隣で蓮斗様も静かに頷く。
「俺も同じです」
落ち着いた声で王を見据える。
「戦えと言われても、無理です」
その言葉に、広間の空気がぴたりと止まった。
「戦う必要はございません」
静寂を破ったのは神官だった。
「勇者様方は、そこに居てくださるだけで良いのです」
「……居るだけ?」
思わず聞き返す。
「はい」
神官は穏やかに頷いた。
「勇者様は、この世界に存在してくださるだけで『悪しき瘴気』を浄化してくださいます」
隣で蓮斗様が首を傾げる。
「どういうことですか?」
王が一歩前へ出た。
「異世界から勇者様をお招きすると、世界と世界の狭間に小さな穴が開きます」
「その穴を通り、『悪しき瘴気』が世界の外へ流れ出ていくのです」
「ですから勇者様がこの世界にいてくださるだけで、瘴気は少しずつ浄化されていきます」
私は眉をひそめた。
「でも、さっきおっしゃいましたよね」
王へ真っ直ぐ視線を向ける。
「『悪しき瘴気』の元を倒せるのは勇者だけだって」
王は静かに頷く。
「その通りです」
「瘴気の根源を断つには、『世界樹』を切り倒していただかなければなりません」
「……え?」
思わず聞き返した。
「世界樹を……倒す?」
世界を救う話なのに。
倒すべき相手が魔王でも魔物でもなく――
世界樹?




