第13話 チート無し
朝のお食事を終えると、蓮斗様は訓練所へ向かわれる。
王宮騎士団の訓練所である。
蓮斗様は、日本では武術などなさったことはない。
学校の体育で剣道と柔道を経験された程度だ。
小学校と中学校ではサッカーをしていらっしゃったそうだけれど、高校ではなさっていなかった。
私は蓮斗様に蹴っていただけるサッカーボールが羨ましかった。
蓮斗様は、この世界で初めて本物の剣を手にされた。
鉄の剣というのは、かなり重い。
私など持ち上げただけで腕がぷるぷる震えた。
そんな重い剣を、蓮斗様は毎日何時間も振り続ける。
最初は構えから。
足の運び。
素振り。
ただ、それだけ。
けれど、それだけでも手のひらには大きな豆ができ、それが潰れて真っ赤になっていた。
それを見た時には、あまりのことに目の前が暗くなった。
こんな稽古をつけるだなんて。
騎士団長をブッ殺してやろうかと思った。
けれど。
「少しずつ出来る事が増えていくのが楽しいんだ」
蓮斗様は、そう笑っておっしゃった。
その笑顔を見てしまったら、もう何も言えない。
涙を飲んで堪えた。
……代わりに、騎士団長へ三十分おきにお腹を下す呪いだけは掛けておいた。
この訓練を通して、一つ判ったことがある。
あのキラキラ物体のクソ野郎。
蓮斗様に何の恩恵も付けていない。
普通、ラノベなら勇者には絶大な攻撃スキルとか、超回復とか、絶対防御とか。
何かしらチート能力を授けるのがお約束じゃないですか。
なのに、あのクソ野郎が寄越したのは【勇者】の称号と【異世界言語理解】だけ。
ふざけるのも大概にしてほしい。
剣は一から覚えろ。
体力も自前。
怪我も普通にする。
命懸けで世界樹を切りに行け。
それで勇者?
次に会ったら、マジで消滅させてやる。
それと、後になって判ったことがある。
この世界を蝕んでいる【瘴気】。
あれ、魔力だった。
正確には、あのキラキラ物体のクソ野郎の調整不足で使われずに溢れた余剰魔力。
魔力過多になって、植物は育たず、人は病み、魔獣まで生まれていたのだ。
……仕事が雑過ぎる。
こんなの、魔法を使えば使うほど減る。
だから私は遠慮なく魔法を使う。
おかげで魔力切れなど一度も起こしたことがない。
使っても使っても、外から補充されるのだから。
あと、この世界の魔法。
正直ちゃちい。
火を出す。
水を出す。
風を起こす。
その程度で満足している。
発想力が足りない。
さすがサブカル大国日本。
ラノベ、漫画、アニメ、ゲーム。
あちらの世界で積み上げられた魔法運用や応用の発想は伊達ではなかった。
結界一つとっても、空気は通し、温度と湿度を一定に保ち、物理攻撃を弾き、魔法を無効化する。
影魔法も、隠れる、運ぶ、縛る、探す、守る。
使い方など幾らでも思い付く。
この世界の魔術師たちは、魔法を「術」としてしか見ていない。
私は「道具」だと思っている。
だから応用が利く。
もちろん。
その全ては、蓮斗様の安心安全確保のためである。
私、遂に分身の術を覚えました。
影魔法でドッペルゲンガーを作り【分体登録】。
分身には、お掃除、お洗濯、お買い物、お料理、情報収集、魔法の研究なんかを任せております。
あ〜、便利。
おかげで本体は、常に蓮斗様のお側にいられる。
朝も。
昼も。
夜も。
ずーーーーーーーーっと蓮斗様を拝謁できる幸福。
はぁ〜……。
し・あ・わ・せ♡
ちなみに分身と感覚は共有しているので、お仕事もちゃんと把握しております。
え?
休みはないのか、ですって?
必要ありません。
蓮斗様のお側にいられる事が、私にとって最高の休息ですから。




