ep34:ルナの変化
(……美月ちゃん、攻略対象に何したのよ?)
レグルスとアルデバランが作ったというクッキーを食べながら、私は心の中で呟く。
ルナに転生した美月ちゃんが、推しキャラのアランと一緒にいたいからって、聖女の力を隠してるらしいのは分かったわ。
でもどうして、メイン攻略対象がスイーツマニアになってるの?
小一時間ほど問い詰めてみたいわ。
「美味しい。食感も味もプロ並みですね。レグルス殿下はどなたからお菓子作りを学んだのですか?」
「料理長のセアンヴレですよ。私は彼の料理が大好きで、ついつい厨房に入り浸ってしまうのです」
アストルがレグルスに聞くと、ゲームのエピソードで見かけた人物の名前が出てきた。
セアンヴレって、レグルスルートに出てくる平民の料理人よね。
幼少期のレグルスが懐いている人物で、誕生日の料理を作ってもらう約束をしていたのに、階段から落ちて大怪我をして作れなくなるっていうシナリオだったわ。
「エトワール城の料理がこんなに素晴らしいなんて驚きましたわ。美味しくて見た目も華やかですのね」
「良い料理長と飾り切り職人がいるおかげですよ」
私は、小皿に盛ったフルーツを見つめて言う。
レグルスは、ゲームでは一度もカレンに向けたことのない笑顔で答えた。
私がシナリオを変えたから、初対面だものね。
嫌われるとか無くてホッとしたわ。
オレンジに似た柑橘系の果物が、薔薇の花に似た形に飾り切りされている。
私も陽太くんも、そのオレンジローズが誰の手によるものか、もう分かっていた。
「料理人たちを呼んでもらえませんか? 素晴らしい料理を作ってくれた礼を伝えたいです」
「分かりました」
アストルが願うと、レグルスは即答で、壁際に待機していた侍女に目配せする。
侍女はすぐにパーティ会場を出ると、厨房へ向かった。
「はじめまして。御来賓の皆様に、御挨拶申し上げます」
しばらくして会場に入ってきたのは、白いコックコート姿の料理人たち。
一同を代表して挨拶したのは、料理長に昇格したセアンヴレだった。
料理人たちの顔ぶれはゲームとは違う。
嫌がらせをしていた先輩料理人たちは誰もいない。
ゲームのシナリオでは高齢化した料理長に代わって厨房の最高責任者となる筈の、副料理長すらいなかった。
それはともかく。
(どうしてルナが料理人になってるの……)
私は、料理人たちの中にいる少女に目を向ける。
白金色の髪をコック帽の中にまとめた、清楚な雰囲気の美少女。
白いコックコートを着ている。
ゲームでは見たことがない服装だけど、間違いなく【星空の彼方】の主人公ルナだった。
「素晴らしい料理の数々、ありがとうございます。美味しく楽しく御馳走になりました」
「ソレイユの王子様にお声をかけて頂けるとは光栄です」
アストルとセアンヴレが話す一方で、私はルナに歩み寄る。
ルナはハッとした顔で、私に目を向けた。
ゲームとは全く違う、【ルナ】と【カレン】の出会い。
大きく改変されたシナリオは、どんな未来に向かうの?




