ep33:エトワール王国へ
12年ぶりのエトワール王国。
ソレイユ王国の第二王子の訪問に、王都ではあちこちに花飾りが付けられ、歓迎ムードになっていた。
「はじめまして。ようこそ、アストル殿下」
「はじめまして、レグルス殿下。しばらくお世話になります」
港で出迎えてくれたのは、エトワール王太子のレグルス殿下。
ゲームで見慣れた彼とは、何か雰囲気が違うような?
それに、何故かバニラエッセンスの香りがする。
「ミシオン嬢とも、会うのは初めてだね」
「はい。私は社交デビュー前に留学しましたので」
レグルスは穏やかな笑みを浮かべて、私にも話しかけてくる。
その微笑みも、ゲームとは違う。
シナリオ通りであれば、彼は冷ややかな目を向けて婚約破棄を言い渡していた筈。
ゲームではレグルスとカレンが初めて会うのは幼少期で、王家主催のお茶会の場という設定だった。
私はエトワールでの全ての茶会やパーティを欠席していたので、彼に会ったことは無い。
「では、そろそろ行きましょうか」
レグルスに促されて、私たちはエトワール王家の紋章つき馬車に乗り込む。
私は、エトワール城へ行くのも今回が初めてだった。
◇◆◇◆◇
歓迎パーティが始まった。
テーブルに並べられたビュッフェスタイルの料理を見たとき、私はハッとした。
陽太くんも同じことに気づいたのか、驚いた顔で料理を見つめている。
「菊花かぶ……」
陽太くんが呟く声が聞こえたのは、隣にいた私だけかな。
小鉢に入れられてテーブルに並ぶのは、菊の花の形に飾り切りされた白い根菜。
花の中央には、小口切りされた唐辛子が一つまみ乗っていた。
(この切り方、美月ちゃんだ)
私も陽太くんも、すぐに分かった。
美月ちゃんの菊花かぶは、一番外側をちょっと幅広にして、広げるように仕上げる。
テーブルにあるのは、それと同じ切り方だった。
「ルナという料理人が手掛ける【キッカカブ】ですよ」
私たちが菊花かぶをじっと見つめていることに気づいて、レグルスが歩み寄ってくる。
ちょっと待って。
今、「ルナ」って言った?
「美しいでしょう? 私も練習しているのだけど、なかなかこうはいきません」
愛でるように菊花かぶを見つめて、レグルスは語る。
切り方が美しいのは、分かる。
それを王太子が練習する意味が分からない。
「レグルス殿下は、料理を嗜まれるのですか?」
陽太くんが訊く。
彼も私と同じ疑問を抱いたのね。
「ええ、私が作るのはスイーツが主ですが」
そう答えるレグルスに、護衛騎士の青年がクッキーを盛った皿をそっと手渡す。
レグルスは受け取った皿をこちらに見せて微笑む。
それはまるで、事前に打ち合わせていたかのような連携だった。
「どうぞ、召し上がってみて下さい。私とアルデバランが作った菓子です」
なんとなくドヤ顔っぽい笑みを浮かべて、レグルスは私たちに菓子を盛った皿を差し出す。
レグルスってスイーツ男子だった?
ゲームでは、お菓子を作るエピソードなんて無かったけど……。
「ありがとう。いただきます」
困惑しながら、陽太くんが丸い形のクッキーを皿から取って口に運ぶ。
私も四角い形のクッキーをつまんでみた。
それは、バターをたっぷり使った、サクサクで口に入るとほろりとほどける食感のクッキーだった。
砂糖の量がちょうどよく、甘じょっばい風味を出す塩気もいい。
そのクッキーを再現することは、私なら可能だけれど。
驚くところは、そこじゃない。
これを「王族」と「騎士」が作ったというのが、驚きだった。




