ep32:快適な船旅
月日は流れて、アストルと私は18歳になった。
アストルは騎士養成学校を、私は魔法学園を、それぞれ首席で卒業した。
18歳の3月は、列車事故で死んだときと同じ年齢、同じ月。
この世界の魔族がゲームと同じ行動をとるのなら、そろそろエトワールの王都ウルバンが襲撃を受ける時期だわ。
聖女の力を隠しているヒロインが美月ちゃんの転生者なら、力になってあげたい。
陽太くんも同じ気持ちだったのね。
彼は公務用のテリファヌを使い、現世の私の父・エトワール王国の宰相ミシオン公爵に連絡した。
「お久しぶりです」
「おお、アストル殿下、首席卒業おめでとうございます」
「ありがとうございます。カレンも首席ですよ」
「ええ、知っておりますとも」
テリファヌの鏡面に顔が映った途端、ミシオン公爵は破顔する。
父とアストルは何度か話したことがあった。
父は最初は「可愛い娘をとられた」と言いた気にイジケ顔だったけどね。
10年の付き合いともなれば、親しくなれる。
「卒業旅行を兼ねてエトワールを訪問したいと思っているのですが、公爵家にしばらく滞在しても構いませんか?」
「勿論ですよ。アストル様は当家の家族になるのですから、遠慮なくいつでもいらして下さい」
ということで、あっさりとエトワール訪問中の滞在先が決まった。
あとは国立孤児院の見学を希望すれば、ルナに会えるね。
私とアストルは、滞在中のスケジュールについて話し合った。
「エトワール城へ行ったら、レグルスに会えるかな?」
「そうね。悪役令嬢と婚約してないレグルスがどうなったか、私も気になるわ」
「エトワール騎士団の鍛錬場へ行ったら、アルデバランに会えるかな」
「アルデバラン、黙々と鍛錬に励んでるのかしら」
「国立図書館も行ってみようか」
「メトシェラ商会も行ってみたいわ」
まるで、ゲームの聖地巡礼みたいな気分ね。
陽太くんにとっては、美月ちゃんと私が遊んでいたゲーム画面でしか知らない場所だから。
私も攻略対象を避けていたから、行ったことがない場所ばかりだった。
ルナとの出会いが無かったら、攻略対象たちはどうなっているの?
◇◆◇◆◇
エトワール訪問の準備は順調に進み、私たちは定期航路のクルーズ船に乗り込み、ソレイユ島を出た。
今回も予約した特等船室は、船室というより高級リゾートホテルのスイートルームみたいだとアストルが言う。
全く揺れないし、私たちは船酔いもなく快適に過ごしている。
「ここの眺めが好きなの」
「海は見慣れてるけど、船上から眺めてお茶を飲むのは初めてだよ」
展望ラウンジでお茶を飲みながら、私たちは笑顔で話す。
アストルはソレイユ育ちで海は珍しくないけど、船に乗るのは初めてらしい。
ゆっくりと流れる時間、美しい海と美味しい料理。
二人で過ごす船旅は、幸せな記憶として心に刻まれた。




