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悪役令嬢カレンのシナリオ改変、あれ?他にも転生者がいる??  作者: BIRD


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ep31:陽太視点03

 ソレイユの近衛騎士団長は、オロール王の弟ソワールが務めている。

 小さい頃から身体能力に優れていたソワールは、史上最年少の12歳で剣術大会優勝を果たした天才でもあった。


「叔父上、俺に剣術を教えて下さい」

「おおアストル、身体を動かすのが好きな子だとは思っていたが、私と同じ剣士を目指すか」


 俺は3歳の頃から、叔父にねだって稽古をつけてもらっていた。

 叔父も俺の立場や身体能力に過去の自分を重ねたのか、熱心に教えてくれる。


「ほれアストル、その程度で転がっておっては大会優勝は遠いぞ!」


 叔父の稽古は、騎士団の日々の鍛錬以上に厳しかった。

 毎日何回も転がされる俺を見て、騎士たちが慄いているくらいだ。


「まだまだ!」


 そのくらい厳しくしてもらう方がいい。

 俺は叔父の猛稽古に音を上げることなく、剣の道を極めていった。


「アストルは凄いなぁ。僕はとてもあんな動きについていけないよ」


 稽古を終えた俺に、兄は苦笑しながら治癒魔法を使ってくれた。

 兄のアレクサンドルは、運動はからっきしだ。

 その代わり、彼は5属性の魔法を扱う才能を授かっている。

 特に治癒魔法は奇跡レベルで、欠損した手足を再生させたり、瀕死の重傷でも完全回復させる力を持っていた。


「兄上は魔法の天才だから、剣は苦手でもいいんだよ」


 痣と擦り傷だらけの顔や手足を治療してもらいながら、俺は笑って言った。

 普通の子供は、6歳を過ぎてから魔法が使えるようになる。

 アレクサンドルは、3歳から魔法を使えるようになった。

 前世知識による転生チートを持つ俺とは違い、兄は本物の天才だ。


「はい、治療終わったよ」

「ありがとう兄上!」


 叔父の稽古でできた傷は、兄の治癒魔法でいつも完治する。

 おかげで翌日には元気いっぱいで稽古に励むことができた。



   ◇◆◇◆◇



 5歳の誕生日、運命の時がやってきた。

 この日までずっと平和だったから、魔族が襲ってくるなんて誰も予想していない。


「「「アストル、誕生日おめでとう!」」」


 今年も、父と母と兄が笑顔で誕生日を祝ってくれる。

 けれど、その後に何が起きるか、俺は知っている。


 空が、急に暗くなった。

 月も星も無い、夜空のような暗黒が頭上に広がる。


「母上、兄上、光魔法で防壁を張って下さい。この国全体に」

「「「……え?」」」


 俺は笑みを消して、真剣な顔で頼む。

 空の異変を怪訝な顔で見上げていた父と母と兄が、揃って俺の方を向いた。


「急いで!」


 俺の様子から只事ではないと感じたのだろう。

 母と兄は手を繋ぐと光の魔法を練り合わせ、ソレイユ王国全体を光の防壁で覆った。

 直後、暗黒の空から無数の赤黒い炎の玉が降ってくる。


 ソレイユが島国で良かった。

 巨大な炎の玉は、防壁に阻まれてソレイユ領土には至らず、周囲の海に落下していく。


「……こ、これは……まさか……」


 次々に飛来する炎の玉を見つめて、父が呟く。

 母と兄は、防壁を維持しながら、青ざめた顔で空を見上げた。


「陛下! ご無事ですか?!」

「この防壁は、義姉上たちでしたか」


 異変に慌てて、近衛騎士たちが駆け付ける。

 その中には叔父の姿もあった。


 映画では、炎の玉が地上を火の海にするまで、誰も魔族の襲撃に気づかなかった。

 父も母も兄も叔父も、みんな炎に包まれて息絶えている。

 周囲に黒焦げの遺体が転がる中、秘められた勇者の力に守られて、アストルだけが生き残った。

 魔族から報告を受けた魔王は、アストルを連れ帰るように命じて、魔界で洗脳を施す。


 でも、今は違う。


 赤ん坊の頃から魔力を増やし続け、筋力を鍛え、剣術も磨いてきた。

 映画のアストルには無かった力が、今の俺にはある。


『リゼ、気配探知の拡大を頼む』

「はーい」


 周囲が騒然とする中、俺は攻撃目標に意識を集中させる。

 リゼに範囲を広げてもらった結果、敵は遥か上空にいるのが分かった。

 弓矢は届かない。

 魔族は魔法耐性が強いので、宮廷魔導士たちの魔法もほとんど効かない。


 攻撃手段は、勇者だけが使える光属性攻撃魔法。

 しかし、魔力を上げていたとはいえ、今の俺に使える回数は1回だけだ。


『ポラリス、短剣の姿で出てきて』

「承知」


 聖剣の力を借りよう。

 勝手に持ち出したのがバレたら、叱られそうだけど。

 逆手に持ち、俺の手と腕の下に隠した短剣に、気づく者はいなかった。


 チャンスは1回だけ。

 慌てちゃ駄目だ。落ち着け。


 俺は気配探知の脳内レーダーに映る、大きな赤い光に狙いを定めた。


『リゼ、ロジェ、手伝って』

「「いいよ」」


 リゼには速度を、ロジェには筋力を強化してもらう。

 俺は上空の敵めがけて、小さな聖剣を投擲した。

 短剣の投擲も剣術に含まれており、叔父からしっかりと訓練を受けている。

 空が暗く、炎の玉が次々に降ってくるおかげで、飛んでいく短剣に気づくものはいない。

 それは、上空にいる魔族も同じだった。


 降り続けていた火球が、突然消えた。

 防壁に守られながら、怯えた表情で空を見上げていた侍女たちが、何事かと訝しむ。

 火球が途切れたのは、ダメージを受けたことにより、敵の魔力が乱れたことを意味している。


 同時に、俺は敵を射程に捉えた。

 放つのは、風属性を持つ攻略対象が使っていた魔法だ。


 光×風複合魔法:超光速のシュプラリュミニック


 敵は勿論、味方にも目視できないであろう攻撃魔法。

 この魔法は目立たないので、隠れて使うのにちょうどいい。


 ポラリスを通して、敵の様子が視える。

 遥か上空で、魔族は胸に刺さった短剣を抜き取ろうとしていた。

 しかし、魔族には触れるだけでも皮膚を焼かれる聖剣は、掴むのもままならない。


 苦悶に歪む、魔族の顔が視える。

 その額にある赤い宝石を光の矢が貫き、後頭部まで突き抜ける。

 魔族の男は白目を剥き、石像の如く硬直した。


 映画の中で、ソレイユを滅ぼす魔族の名は「ペリル」。

 ゲームの中では、シナリオ後半で主人公たちと戦うボスキャラの1人だ。


 ペリルは俺のシナリオ改変によって、本来の災厄をもたらすことなく、塵と化して消え去った。


 火球はもう降らなくなった。

 黒い空が、青空へと変わっていく。

 人々は何が起きたか分からないまま、青く澄み渡る空を見上げていた。


「……一体、どうなっているの……?」

「分からん……。だが、危機は去ったようだ」


 少々のことでは動じない母も父も、今回のことはさすがに驚いたらしい。

 叔父や近衛騎士たちは、まだ少し警戒しつつ空を見上げていた。


「兄上、もう大丈夫だよ」

「アストル……僕はもう疲れたよ……」


 防壁の維持に全力を尽くしていた兄に声をかけたら、気が抜けてフラーッと倒れてしまった。

 慌てて抱き留めてから振り返って見ると、母が同じように父に抱き留められていた。


「シェリルとアレクサンドルは休ませた方が良さそうだな」

「はい」


 母をお姫様抱っこで運ぶ父の後ろに、兄をお姫様抱っこする俺が続く。

 5つ年上の兄は華奢で小柄で、成長が早い5歳の俺に身長を追い越されている。

 筋力が高いのもあって、運ぶのは余裕だった。


「大きくなったな、アストル。赤ん坊の頃は、毎日アレクサンドルに抱えられていたのに」


 後ろを振り返った父が、笑みを浮かべる。

 映画では、アレクサンドルは大人になれずに逝った。

 こんな風に抱えて運ぶシーンは無かった。

 その悲劇を回避できて、本当に良かったと思う。



 ◇◆◇◆◇



 騒ぎから1ヶ月後。

 兄の誕生日前夜、俺は聖剣の台座がある塔の最上階へ向かっていた。


 長い螺旋階段をひたすら歩く。

 目的は、聖剣ポラリスを台座に戻すこと。

 ソレイユ王族は、10歳の誕生日に勇者か否かを調べることになっている。

 明日は兄10歳の誕生日で勇者チェックの日、聖剣が台座に刺さってないとまずい。


「アレクサンドルは聖者でしょ?」

「勇者じゃないのは明らかじゃない?」

『まだ勇者が現れてないから、王族はみんな儀式を受けるんだよ』


 不思議がるリゼとロジェに、念話で説明しつつ歩く。

 俺は自分が勇者であることを、家族にも明かしていない。

 人知れず葬った魔族のことは、気まぐれで去ったのだろうということになっている。

 それもあって、勇者の出現が待ち望まれていた。


「我は既に主のものなのに、わざわざ儀式を受けるのか?」

『勝手に持ち出したのがバレたら怒られるからね』


 ポラリスとしては、既に台座から抜き取られた上に真名を教えた相手がいるのに、他の者の儀式を受ける意味が分からないらしい。

 俺が4歳で聖剣を抜いたのは魔族の襲撃対策で、儀式は兄の後に改めて受けようと思っていた。


『じゃあ、明日までここにいて』

「主、後ろ……」


 台座に飛び乗り、元の大きさに戻した聖剣を刺そうとしたとき、ポラリスが何か言いかける。

 何だろうと思って振り返った俺は、サーッと青ざめた。

 父と母と兄が入り口付近に立っていて、半目でこちらを見つめている。


「……アストル……?」

「えっ? あ、えっと……」


 ヤバイ。どうしよう。

 俺は思いっきり見られてるのも構わず、両手で刀身を掴んで台座に刺した。

 ちょっと雑だが、気のせいってことにしようと思ったんだ。


「じゃ、おやすみなさ……いっ?!」

「まちなさい」


 退散しようとした俺は、父に後ろ襟を掴まれてしまった。


 その後?


 しっかり怒られたよ。

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