ep26:悪夢と幼馴染
私にとって前世で見た陽太くんの死は、思っている以上にトラウマになってるみたい。
アストルが陽太くんの転生者だと分かって凄く嬉しいのに、不安な気持ちが心のどこかにある。
その不安は悪夢となって、私を苦しめた。
(嫌……死なないで……陽太くん……!)
私はまた、列車事故の夢を見て飛び起きた。
静かな夜、窓へと歩み寄れば星空が見える。
護衛騎士や侍女たちが駆けつけてくる気配は無い。
夢の中の叫びが、実際の声にならなくて良かった。
私はそっとガラス扉を開けて、テラスからふわりと飛び立った。
陽太くんがそこにいるのを、確かめずにはいられない。
「華蓮ちゃん?」
転生した陽太くんは、私がテラスに降り立つ前に気づいた。
部屋は暗かったし、寝入っているようだったのに。
彼はまるで誰かに起こされたようにハッとして起き上がり、ベッドから飛び降りると駆け寄ってきて、ガラス扉を開けてくれた。
「どうしたの?」
「……怖い夢を、見たの」
「オバケの夢でも見た? 大丈夫、俺が追い払ってやるよ」
「一緒に寝てもいい?」
「うん。いいよ」
それはまるで、幼い頃の私たちに還ったような会話。
添い寝をおねだりしたら、陽太くんはあっさりと承諾してくれた。
一緒に布団に入って彼の温もりが伝わってきたら、安堵感と共に幸せな気持ちで心が満たされていく。
「いつもなら、美月ちゃんがこっち側にいるのにね」
「代わりに毛布を丸めて置いとこう」
日向家でお泊りするとき、私はいつも真ん中で、左右に陽太君と美月ちゃんが寝ていた。
陽太くんは美月ちゃんの代わりに、丸めた毛布を私の横に置いてくれた。
「ごめんね、寝てるの起こしちゃって」
「気にするなって。怖い夢を見たときは、いつでもここに来ていいよ」
私たちの距離感は、一般的な男女とはだいぶ違う。
赤ん坊の頃から日向家に度々預けられてきた私は、高校生になってからもお泊りすれば陽太くんと並んで寝ていた。
でも、美月ちゃんがいない今、添い寝の仕方がちょっと違うような……?
「華蓮ちゃんは、俺の大切な家族だから」
陽太くんは私の頭の下に片腕を差し入れて、腕枕状態からそっと抱き寄せて囁く。
前世では無かった行動に、私はドキッとした。
陽太くんが言う「大切な家族」って?
今まで家族同様に暮らしてきたからこそ、その意味が分からない。
「安心して。華蓮ちゃんのことは俺が必ず守るよ」
誓いを囁く彼が私の額にキスするのも、前世では無かった行動だった。
唇にしたわけじゃないから、異性に対するものではない気もするけれど。
戸惑いながらも温もりに包まれた心地よさから、私はそのまま眠りに落ちていく。
私も陽太くんもこのとき、自分たちが現世では幼馴染ではないということを、完全に忘れ去っていた。




