ep25:大切な人
アストルの誕生日パーティが終わった後。
夜になり、自室のベッドで横になってみたものの、私は寝付けなかった。
陽太くんに会いたい。
陽太くんと話したい。
今夜は魔法の練習はお休みすると言っていたので、一緒に出かける予定は無いけれど。
陽太くんのことで頭がいっぱいになった私は、勢いよく起き上がるとベッドから抜け出して窓へと歩み寄った。
(陽太くん、まだ起きてるかな……)
いつもの風魔法で身体を浮かせて、テラスから離れる。
アストルの部屋のテラスまで飛んでいって降り立つと、彼はまだ起きていた。
部屋の明かりがついていて、金髪の少年がソファに座っているのが見える。
窓を軽く叩くと、彼は私に気づいて振り向いた。
「……お話、してもいい?」
「いいよ。中に入って」
おねだりしたら、彼はすぐに歩み寄って来てガラス扉を開けてくれた。
室内に入ると、私は迷わず彼に抱きついた。
彼も抱き締め返してくれて、そのまましばらく互いのぬくもりを確かめる。
陽太くんも私も、子供の身体になってしまったけれど。
心安らぐ温かさは変わらない。
「陽太くん……だよね?」
「うん」
「私が誰か、分かる?」
「うん」
「名前、呼んで」
「華蓮ちゃん」
彼が陽太くんなのは、勿論分かってる。
でも、聞きたくて。
もう一度、前世と同じように呼んでほしくて。
私がねだると、彼は優しく微笑んで、名前を呼んでくれた。
もう、日本に帰りたいなんて思わない。
彼がこの世界にいるのなら、私はここで生きていける。
「ねえ華蓮ちゃん、どうやってここに来たの?」
長い抱擁の後、陽太くんは私をソファに座らせてくれて、隣に座ると問いかけてきた。
彼は私よりも先に死んでしまったから、列車がどうなったのか知らない。
「あの後、列車が高架から落ちたみたい。それで死んじゃって転生したんだと思うわ」
「それって、一緒にいた美月も?」
彼は、双子の妹がどうなったのかも知らない。
異国に転生したから、エトワール王国にいるルナの状況も知らなかった。
「うん。美月ちゃんはね、ルナに転生してアランとくっついてるよ」
私も、ルナと直接話してはいないけれど。
アランと仲良く冒険者になるなんて、美月ちゃんしか考えられない。
「欲望に正直過ぎて、あいつの死を惜しむ気にならないな」
呆れたように半目で呟く陽太くんが面白くて、私は吹き出してしまった。
美月ちゃんが欲望に正直な子なのは、私もよく知ってる。
生前あんなに「私ならアランと結婚するのに」って言ってたものね。
ルナに転生して、アランとくっついて、満足してると思うわ。
でも、ルナが主人公の仕事しないと、いろいろ問題があるのよね。
「……っていうか、ルナがアランとくっついたら、誰が勇者になるんだ?」
陽太くんのツッコミの通り。
でも、ルナの恋愛相手を勇者にするには、もうひとつ問題があるような……?
「ねえ陽太くん、アストルって生きてる状態でも誰かに勇者の力を授けられるの?」
「えっ……?」
私が訊いたら、陽太くんはサーッと青ざめる。
ゲームでは、アストル戦で倒されて霊になったアストルが、攻略対象の属性に合わせた力を継承させていた。
それって、生きてるアストルでもできるのかしら。
「……俺、死ななきゃだめ?」
「嫌! せっかく会えたのに……」
顔を引きつらせて訊く陽太くんを、私は慌てて抱き締めた。
力の継承のために彼が死ぬなんて、絶対許さない。
もしも攻略対象が彼を殺しに来たら、私が全力で阻止するわ。
「それだ!」
「え?」
突然、陽太くんは何か思いついたように声を上げた。
「それ」って何?
陽太くんは何を思いついたの?
「力の継承はしない。アストルが元々勇者なんだし、自分でやるよ」
「自分でやる……って?」
「ラスボス戦。ルナとアランだけで倒せるとは思えないから、俺も参加する」
陽太くんが思いついたのは、ゲームでは敵側だったアストルを、味方として参戦させることだった。




