ep20:二人だけの秘密
「悲しい夢を見たときは、俺のところに来い。独りで泣くよりは気晴らしになると思うぞ」
私をお姫様抱っこで部屋まで運んだ後、アストルは微笑んでそう言った。
屋根の上から私の部屋まで、誰にも見つからずに移動できたのは、彼も私と同じで姿を隠す闇魔法が使えるから。
アレクサンドル様はアストルが魔法を使っているところを見たことがないと言っていたけれど。
無詠唱で【隠密】や【飛翔】を使えるアストルは、高度な魔法の使い手に見える。
「でも、夢を見るのは多分真夜中だから、アストルの睡眠の邪魔になっちゃうわ」
「問題ない。もともと夜中に魔法の練習を……っと、これは内緒だぞ」
アストルは言いかけてハッとしたように私に口止めをする。
彼はきっと、これまで隠れて魔法の練習をしてきたのね。
どうして魔法が使えることを隠すのかは分からないけれど。
「誰にも言わないわ。その代わり、私が屋根の上で泣いてたことも内緒よ」
「もちろん、誰にも言うつもりはないから安心してくれ」
こうして、私たちの間に「二人だけの秘密」ができた。
ゲームのアストルは魔王に精神を支配されていたせいで冷酷なイメージがあったけれど、この世界のアストルは、やんちゃだけど優しくて頼れる人に思える。
「魔法の練習は、どこでしているの?」
「城の近くの森だ。明日、案内しようか」
「うん」
約束をした翌日の夜。
部屋のテラス側から、ガラス扉を軽くノックする音がする。
開けてみると、アストルが立っていた。
「眠くないか?」
「うん平気」
「じゃあ、行こうか」
アストルは、また私をお姫様抱っこしてテラスからフワリと浮かび上がって空中を進む。
彼のファンなら、嬉しすぎて気絶するかもしれない。
私はアストル推しのプレイヤーではなかったけれど、こうして生身で触れ合うと少しドキドキする。
(やっはり美形だわ。お肌も白くて滑らかそう……)
白磁の肌、黄金の髪、澄んだ青い瞳。顔立ちは整っていて、睫毛が長い。
ファンでなくとも魅了される美少年の顔を生で見られるとは、前世では思ってもみなかったわ。
視線に気づいたアストルが、こちらを見てフッと微笑む。
その笑顔に、また陽太くんの笑顔が被って、心臓が大きく拍動した。
「ここでいつも練習してるんだ」
森の中に降り立ち、アストルは私を抱いたまま大きな岩に目を向ける。
よく見ると、岩はあちこち焦げていて、ヒビも数ヶ所にあった。
私を草の上に降ろすと、アストルは片手をピストルの形にして岩に向けた。
その人差し指の先が赤く光った直後、岩が振動して焦げ跡が増える。
何が起きたかすぐに理解して、私は驚きのあまり固まってしまった。
アストルは、小さく濃縮して高温になった火球を、弾丸のような速度で放ったの。
詠唱なんてない、指先が光った直後に当たってる。
(ゲームのアストルよりも起動が速い!)
彼がハイスペックなのは、ゲームで見て知ってる。
でも、目視できない速度で魔法を撃てるなんて知らない。
それは明らかに、ゲームのアストルよりも高度な技術だった。




