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悪役令嬢カレンのシナリオ改変、あれ?他にも転生者がいる??  作者: BIRD


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19/38

ep19:前世の夢

 その夜、私は前世の夢を見た。


 映画の前売りチケット特典が入ったペーパーバッグを手に、楽しそうに笑いながら駅のホームに立つ陽太くんと美月ちゃんがいる。

 私も一緒にいて、2人と話しながら電車を待っていた。

 電車がホームに入ってくる。

 扉が開いて、私たちは中へ入ろうと歩き出す。


(だめ、それに乗らないで!)


 叫びたいのに、私の口は違うことを話してる。

 私の身体は、勝手に歩いて電車に乗り込んでしまった。

 2人をホームに引き留めたいのに、私は眉ひとつ自由に動かせない。


(降りて! お願い!)


 途中の駅に停車するたびに、私は必死で願う。

 だけど願いは届かず、電車は「あの区間」へと進んでいく。

 その先で何が起こるか、勿論知ってる。

 なのに、私は自分の意思で話すことも、動くこともできなかった。


 電車が、大きく揺れる。

 陽太くんが、私と美月ちゃんをまとめて抱き寄せた。


(だめ! 逃げて!)


 私は陽太くんの胸元に顔を押し付けられた体勢のまま、心の中で叫んだ。

 硝子が割れる音がする。

 陽太くんの身体から急に力が抜けて、私達を抱いたまま崩れるように倒れていく。


 その次の場面は、見たくない。

 でも、前世の記憶は残酷にも、あの光景を見せた。


 床に広がる大量の鮮血。

 そこに仰向けに倒れている陽太くん。

 陽太くんの首には深い切り傷があって、勢いよく血が噴き出している。


(いやあぁっ!)


 叫びたくても、声は出なかった。

 代わりに、私はベッドの上で飛び起きた。


 心臓が、激しく拍動する。

 まるで全力疾走した後のように、全身ビッショリと汗をかいていて、呼吸が荒い。

 頬を次々に伝うのは、汗か涙か分からない。


(あのときの夢なんて、今まで見たことがなかったのに……)


 私は大きなため息をつくと、ベッドから降り立った。

 シャワールームへと歩いて行き、汗で濡れたネグリジェを脱いで脱衣カゴに入れる。

 脱衣所の棚には、予備のネグリジェとバスタオルが置いてあった。


(陽太くん……どこにいるの?)


 温かいシャワーを頭から浴びながら、私は両手で顔を覆って泣いた。

 胸が締め付けられるように苦しくて痛い。

 シャワーを浴び終えた私は、バスタオルで顔や身体を拭いて予備のネグリジェに着替えた。

 長い髪はタオルドライした後、風魔法で乾かす。

 呼べば夜勤の侍女が来て世話をしてくれるのだけど、今は独りがいい。


 窓の外は、まだ暗い真夜中。

 私はそっと窓を開けて、風魔法で身体を浮き上がらせて外に出た。


(ソレイユ王国に留学して、少しホッとした頃にあんな夢を見るなんて……)


 私は屋根の上で膝を抱えて座り、頭上に広がる星空を見上げて思う。

 漆黒の空に広がる無数の星々は、前世で見たものとは違う星座を描いている。


(……還りたい……あの頃に……)

 

 叶わぬ願いを、心の中で呟く。

 前世の夢は時々見ることはあっても、幸せだった頃のシーンが多かったのに。

 さっき見た残酷な夢は、鋭い刃のように私の心を切り裂いた。


(逢いたいよ……陽太くん……)


 私の頬を、また涙が伝う。

 陽太くんを想うだけで、いくらでも泣けてしまう気がする。

 でも、このまま泣き続けていても、何も変わらない。

 私は部屋へ戻るため、屋根の上で立ち上がった。


 ……直後、私は誰かに毛布を被せられて抱き締められた。


「ひゃっ?!」

「待て」


 驚き過ぎて変な声が出ちゃう私を、抱き締めている誰かが制止する。

 相手の声を聞いて、私はそれが誰か分かった。


「早まるな」

「……え?」


 声の主は、この国の第二王子様。

 今日の夕食の席で、初めて会話した相手だった。

 何か誤解されてるような……。


「何か悩みがあるなら、話くらいは聞くぞ」

「……あの、アストル様、何か誤解されてませんか?」

「様は要らない。敬語も使わなくていい。その方が話しやすい」


 私が逃げないように抱き締めたまま、金髪の美少年が言う。

 アストル推しならキュン死するんじゃないかしら?

 とりあえず誤解を解かなきゃ、放してくれそうにない。

 私は毛布をかき分けて顔を出した。


「……えっと……私、星を見に来ただけよ?」

「だが、泣いていたぞ?」

「それは、悲しい夢を見たから。気晴らしに星を見ていたの」

「学園で虐められたとかではないのか?」

「それは無いわ。だって、エトワールの宰相の娘を虐めたら、ただじゃ済まないもの」


 アストルの腕の中で、私は顔を上げて不敵に微笑んだ。

 留学生いじめなんて起きたら、ソレイユとエトワールの国交問題になるもの。

 魔法学園の生徒って頭の良い子が多い筈だから、愚かな真似はしないと思うわ。


「故郷を離れて、辛い思いをしてはいないか?」

「大丈夫。みんな良くしてくれるから」

「そうか」


 そう言って微笑んだアストルの顔に、何故か陽太くんの笑顔が重なる。

 驚きと切なさで、私の心臓が一瞬大きく拍動した。

 彼は私に毛布を羽織らせたまま座らせて言う。


「心配だから、カレンが部屋に戻るまで傍にいよう」


 隣に腰かける彼は、薄手のパジャマを着ているだけ。

 それじゃあ風邪をひくと思った私は、自分に被せられた毛布の片側を広げて、アストルの背中にかけた。


「寒いから。一緒に」

「ありがとう」


 私は不思議なことに、アストルと肩を寄せ合うことに抵抗が無かった。

 むしろ、その体温に、懐かしさを感じる。

 彼の仕草や笑い方が、陽太くんに似ているからかもしれない。

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