ep02:パパは信じないことにする
カレン・フィーユ・ラ・ミシオンは、ゲーム【星空の彼方】ではチュートリアルが終わった後から登場する。
初登場時点での年齢は5歳。
主人公のルナとは異母姉妹という関係だけど、ゲームのシナリオでは明らかにされていない。
シナリオライターが執筆した小説の中で、ミシオン公爵とメイドのアンフィデリテとの関係が明かされていた。
「ほーらカレン、パパのところへおいで」
ハイハイをする私の前方で、ミシオン公爵が両手を差し伸べて微笑む。
清潔感のあるナチュラルショートの黒髪、切れ長の瞳はセピア色。整った顔立ちのイケオジだけど、私の好みじゃない。
「……」
私は、プイッと顔をそむけて、進行方向を変える。
ガーンとショックを受けている実父の抱っこを拒否して、ソファでお茶を飲みながら笑う母のもとへ向かった。
「あらあらカレン、塩対応ね」
公爵夫人ヴィオレットが、ティーカップをテーブルに置いて私を抱き上げる。
膝下まで伸びたゆる巻きスーパーロングの金髪、気の強そうなつり目は深緑色。西洋人形がそのまま大人になったみたいな美女で、父と並ぶと見目麗しいお似合い夫婦だった。
(こんな美人の奥さんがいるのに、浮気するなんて最低)
私の心の呟きは、誰にも聞こえない。
壁際に控えるアンフィデリテも、上品に微笑んで見ているだけだった。
小説の中で、カレンとルナは、ほぼ同時期に生まれている。
つまりミシオン公爵は、ヴィオレットを愛する一方で、アンフィデリテともいちゃついてたってことよね。
貴族は一夫多妻が多い世界ではあるけれど、隠れてコソコソっていうのが気に入らない。
「はぁ……今日も駄目か……」
「赤ちゃんは、大人の男性が苦手なことが多いみたいですよ」
がっかりしながらソファに腰かけるミシオン公爵の前に、アンフィデリテがそっとティーカップを置く。
何も言わなくてもお茶を出すタイミングが分かるのは、長年勤めるメイドだからかな。
でも、私はそれ以外にも何かあるのではと勘繰ってしまう。
アンフィデリテは、公爵家で働き続けるために、我が子を捨てた。
それは、今も公爵との関係が続いてるってことじゃないの?
ルナは5歳になった頃、聖女の力に目覚めたことから公爵家に引き取られる。
ゲームでは、血縁の無い養女として迎えられた。
実母のアンフィデリテは、他人のふりを続けながら娘に仕える。
シナリオ通りなら、溺愛されて我儘に育ったカレンは、屋敷の中でルナを虐める。
聖女のルナが自分よりも大切にされているのが許せない、という理由だった。
私は、そんなことはしない。
ルナは何も悪くない。
悪いのはミシオン公爵とアンフィデリテで、ルナは被害者だと思う。
虐めたりしないけど、ルナと同じ学園に通うのはやめておこう。
シナリオの強制力で、断罪イベントが発生するかもしれないから。
私は、なるべく早く、ルナから離れよう。




