ep13:美月視点03
シナリオ通りには進まないと心に決めてから、私はアランと共に生きる準備を進めた。
私のステータスには、ゲームでよく使った魔法も記載されている。
でも、魔力が初期値なので、ほんの一部の初級魔法以外は、名称の横に「使用不可」の文字があった。
(魔力切れ寸前まで魔法を使い続けていれば、魔力量の上限が増える筈)
私は初級魔法の「水球」を使い続けた。
魔力切れ寸前になると眠くなるので、就寝前にコッソリと。
魔法で出した水は飲料水として使えるので、調理場の水瓶を満たすのに役立てた。
「あれ? 水瓶がいっぱいになってる」
「誰か汲んできてくれたのかしら」
孤児院の調理スタッフたちが不思議がっている。
でも、まさか幼い子供が魔法を使っているとは思わなかったらしい。
ゲームでは、幼少期のルナはまだ魔法を使えなかった。
ルナはチュートリアルの終わり頃、生まれて初めて魔法を使う。
使う魔法は、光属性の治癒魔法だ。
チュートリアルシナリオでは、チンピラからルナを守って大怪我をしたアランを助けるため、ルナは無意識に治癒魔法を使う。
それを街の人々や駆け付けた孤児院スタッフに見られたことで、光属性持ちの孤児がいるとの情報が公爵の耳に入り、養子として迎えられることになる。
私は、そのシナリオを回避したい。
だから、治癒魔法を使わずにアランを助ける計画を立てた。
その計画のために、魔力量上限を増やしている。
◇◆◇◆◇
あっという間に3年が過ぎて、アランと私は5歳になった。
ゲームのチュートリアルで見た幼年期と同じ、いつも一緒に遊ぶ仲良しコンビだ。
「ルナ、誕生日おめでとう」
「アラン、誕生日おめでとう」
孤児院では、同じ歳の子供たちはまとめて誕生日を祝われる。
それは、私みたいに赤ん坊の頃に捨てられて、誕生日を知らない子への配慮でもある。
私と同じ歳の子はアランだけなので、誕生日パーティの後に2人きりでプレゼント交換をする楽しみもあった。
「はいこれ。プレゼントだよ」
アランは、シャンス草を干して編んだミサンガをくれた。
シャンス草は運を少し上げる効果があり、あちこちの家の庭で栽培されている。
孤児院の庭にも植えられていて、スタッフや子供たちが編んだ物をバザーで販売したり、誰かの誕生日に贈ったりしている。
「ありがとう。私からはこれね」
私もアランに自作のミサンガを渡した。
そのミサンガには、土属性の支援魔法を付与してある。
土属性魔法:トゥッシェ・デュ・ボワ
初級の魔法で、不運を避ける効果がある。
戦闘では敵の攻撃を回避するという、ありがたい支援魔法だ。
付与した者の魔力量に比例して、その効果は高くなる。
毎日魔力切れ寸前まで魔法を使ってきた私は、5歳にして神官や魔導士並みの魔力量まで上がっていた。
いずれ発生する筈の、チンピラたちのイベントに備えて。
アランが怪我をしないように、私は回避効果をもつお守りをプレゼントした。
◇◆◇◆◇
私にとって、最初の分岐となるイベント発生のときがきた。
それは、5歳の誕生日パーティを終えた翌週のチャリティバザーの日。
「あぁん? なんだよこれ、もう壊れちまったぞ?」
ちぎれたミサンガを片手でつまみ、意地悪く顔を歪めた男が言う。
バザーで買った物がすぐ壊れたという言いがかりだ。
孤児院の子供たちが作るミサンガは、引きちぎりでもしない限り、すぐ壊れたりしない。
男は手首に着けるミサンガを二の腕まで無理やり引っ張り上げた後、腕をグッと曲げて力こぶを作り、わざと壊したのだ。
「すいません、それは手首に着けるもので、二の腕に着けるものでは……」
「んなこたぁ、先に言えよ!」
クレーム対応に出るメアさんの言葉を遮り、男は怒鳴る。
ゲームでも見た光景だ。この男が次に何を言うかも知っている。
「作った奴を出せ! 詫びを……」
「私よ」
「! ……ル、ルナ……」
男が言っている途中で、私は名乗り出た。
私の後ろで、アランが驚いたり慌てたりしている。
ゲームでは、この場面には選択肢があった。
名乗り出るか、黙っているか。
どちらを選んでも、ルナは目立つ容姿から男の標的にされる。
だから私は、堂々と名乗り出ることにした。
「ほぅ、チビだが綺麗な顔してるじゃないか。詫びの入れ方を教えてやるから、こっちに来い」
「お断りよ。代金は返すから、さっさといなくなってちょうだい」
いやらしい笑みを浮かべて言う男に、私はぴしゃりと言い返す。
ゲームのルナは、ここまで強気にはならない。
全く怯む様子が無いうえに、大人のような口調で話す5歳児を見て、男はポカンと間抜けな顔で固まる。
その隙に、私はアランに身体強化をかけた。
無詠唱だから、誰にも気づかれずに。
この後のアランの行動をサポートするための魔法だ。
「口は達者だが、客に対する礼儀がなってないな。ちょっと教育してやろうか」
言いながら、男が私に近づいたとき。
私の後ろにいたアランが動いた。
「ルナに、近づくな!」
アランは男に飛び蹴りを入れて、私への接近を阻止しようとする。
普段は大人しい男の子が、女の子を守ろうと必死で行動に出る。
この勇気が、アランの魅力だ。
推しのかっこいいシーンに見惚れていた私は、思ってたのと違う展開に呆然とした。
「ぐほっ!」
なんと、男はアランに蹴り飛ばされて、向かいの建物の外壁に激突すると、白目を剥いて気絶してしまった。
ゲームのアランは、男に攻撃を躱されて、反撃を受けてしまうのだけど。
私がかけた身体強化は、思っていたより強力だったのかな。
「あれ?」
アランは、何が起きたかわからなくてキョトンとしている。
身体がすくんで動けなかったメアさんや子供たちが、状況に理解が追い付かず青ざめたまま固まっていた。
◇◆◇◆◇
ゲームのアランは、クレーマー男に蹴りを入れることはできなかった。
男はアランの片足を掴んで蹴りを止めた後、無造作に横へ放り投げてしまう。
すぐに起き上がったアランは男がルナに近づくのを阻止しようと殴りかかるけれど、それも当たらなかった。
鬱陶しく思った男はアランを何度も蹴りつけて、瀕死の重傷を負わせた。
ルナはアランを助けたい一心で、無意識に光属性の治癒魔法を使い、聖女の力に目覚める。
……というのが、【星空の彼方】のチュートリアルイベント、「聖女の覚醒」だった。
ゲームのルナはこのイベントの時点では初期ステータスであり、魔力量も普通の子供と変わらない。
瀕死のアランを癒すために、ルナは全ての魔力を使い切って昏倒した。
シナリオでは魔力の限界を突破した光魔法の使用だったとされていて、その後ルナは1週間ほど意識不明になっている。
意識を失っている間にルナが聖女であることが広まり、ミシオン公爵が引き取りに来る。
チュートリアルの最後はミシオン公爵の屋敷で目覚めるシーンで、そこから先のシナリオではアランは全く登場しなかった。
でも、今は違う。
アランは無傷、私は聖女の力を使っていない。
当然ながら、ミシオン公爵に引き取られることもない。
アランの飛び蹴り1発で気絶したクレーマー男は、駆け付けた警備兵に引きずられながら連行されていった。
「君が倒したんだって?」
「凄いな」
「大人になったら警備兵にならないか?」
警備兵たちは立ち去り際、アランを褒めたり勧誘したり、随分と盛り上がっていた。
アランは私がかけた身体強化や、ミサンガに込められた攻撃回避効果には、気づいていない。
ただなんとなく「いつもと違う力が沸いた」感じはしたかもしれない。
ここから先のアランとの日々は、ケームには無かった未知のエピソードだ。




