表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢カレンのシナリオ改変、あれ?他にも転生者がいる??  作者: BIRD


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/38

ep12:美月視点02

 意識が戻ったとき、私は誰かに抱えられて運ばれているところだった。

 柔らかい毛布のようなものに包まれている触感がある。

 救急隊が来てくれたのかな。

 目を開けてみたけど、視界がぼやけてよく見えなかった。

 身体にも違和感がある。

 手足の感覚がおかしい、思うように動かない。

 耳はよく聞こえるので、誰かが話す声が聞こえてきた。


「ごめんね。育ててあげられなくて」


 囁くような、女性の声が聞こえる。

 私を抱いているのは、その人だ。

 看護師さんにしては、話す内容が変だ。

 私を抱えて運んでいた人は、硬い床の上に私を寝かせた。

 離れていく気配と、走り去る足音が聞こえる。


 え? 置き去り?

 ちょっと待ってよ!


 慌てて呼び止めようと声を出した私は、更なる異変に気付いた。

 喋れない。

 声は出るけれど、言葉にならない。

 私が発したのは、赤ん坊の泣き声だった。


 何? どうなってるの?

 お願い、誰か助けて!


 叫ぶ声は、全て赤ん坊の泣き声になる。

 どうしたらいいか分からなくて、とにかく大声を出し続けた。

 やがて、古い木戸が開くような音がして、私は誰かに抱き上げられた。


「あらまぁ、赤ちゃんの泣き声が聞こえると思ったら、こんなところに」


 さっきと違う女性の声がする。

 視界はぼんやりしたままだけど、暗くて寒いところから、明るくて暖かいところへ運ばれた感じがする。


「やっぱり、赤ちゃんがいたわ」

「捨てられたのね。可哀想に」

「私、ミルクを温めてきますね」


 部屋の中かな。

 3人の女性の声が聞こえる。

 しばらくすると、唇に何かが触れるのを感じた。

 その直後、私の口は意志に関係なくそれを含み、吸い始めた。

 温かくてほんのり甘い液体が、口から喉を通ってお腹に溜まっていく。


「うん、いい飲みっぷりね」

「衰弱してなくてよかったわ」

「ちゃんとゲップもでたね。よしよし」


 ここまでくると、さすがに私も自分がどうなってるのか分かる。


 私は多分、高架から落下した列車の中で息絶えたんだね。

 それで、何処かに転生したみたい。


 でも、どこに?

 私と一緒にいた陽太と華蓮ちゃんは?

 もしも2人も死んだなら、どこかに転生しているのかな。


 私は、このときはまだ、自分がどこへ転生したのか分からなかった。

 喋れないけど、周りの人々が話す言葉は分かる。

 だから私は、ここが日本だと思っていた。


 赤ちゃんの私に、できることは少ない。

 ミルクを飲んで寝て、お腹が空いたりオムツが汚れたりしたら泣いて報せるだけ。


 流れていく時の中で、私は新しい身体に馴染み、新しい人生を受け入れていった。

 でも、いつも心の奥底に、切ない気持ちがある。


 私、日向美月の人生は18年で終わってしまった。

 大学に合格して、学園生活を楽しみにしていたのに。

 陽太と華蓮ちゃんがいないのも悲しい。

 前世の私は双子だったから、1人でいることが、何かが欠けているように寂しかった。


 ◇◆◇◆◇


 どうやら私は、現世の実母に捨てられたらしい。

 捨てられた理由は、後に知ることとなった。

 捨てた場所が孤児院の玄関前だったのは、育ててもらえると思ったからだろう。

 川に流したりしなかった分、多少は愛情があったのかもしれない。


 時は流れて、私は2歳になった。

 視界はクリアになり、人の顔もハッキリ見える。

 私は、ハイハイ、つかまり立ち、伝い歩きを経て、ようやく歩いたり走ったりできるようになった。


 自由に動き回れるようになった頃、私はここが日本ではないことに気づいた。

 それどころか、地球ですらなかった。


「えっ、リュラル村が魔物に?!」


 院長先生が、事務所で誰かと話しているのが聞こえる。

 通信に使われている道具は、スマホでも固定電話でもない。

 テリファヌという魔道具で、丸い鏡に似た形をしている。

 ここは、魔物や魔道具、魔法がある世界だ。


「はい、お預かりします。連れて来て下さい」

「お部屋の用意をしておきますね」


 院長が話し終えた後、事務所を出て2階へ駆け上がっていくのは、スタッフのメアさん。

 多分、誰か新しい子が来るから、空いているベッドにシーツをかけに行ったんだろう。

 興味津々で事務所をコッソリ覗いていた子供たちが、その後ろ姿を見送った。

 その子供たちの中に、私も混ざっていた。


 私が暮らしているのは、木造2階建ての古い建物。

 設備は、割と充実していると思う。

 1階には、小学校の教室くらいの広さの食堂、給食室に似た調理場、子供向けの本を揃えた図書室、積み木やボードゲームなどで遊べるプレイルーム、多人数で入浴できる浴室、事務所などがある。

 2階には、子供部屋とスタッフの部屋があり、トイレは1階と2階それぞれの廊下の突き当りにある。


 この孤児院の名前を、この建物の風景を、私は前世から知っていた。

 ここは、「エトワール国立孤児院」と呼ばれる児童養護施設だ。

 そしてこの世界は、アヌトゥモレという異世界。

 私と華蓮ちゃんがハマッていたゲーム、【星空の彼方】に酷似した世界だった。


 この世界での私の名前は「ルナ」。

 【星空の彼方】の主人公と同じ名前だ。

 孤児院の前に捨てられた過去と名前だけなら、たまたま同じなだけだと思うところだけど……。


「リュラル村から来た、アラン君よ。みんな仲良くしてあげてね」


 孤児院スタッフのミテーラさんが紹介する前から、私はその子の名前を知っていた。

 今の私と同じくらいの年頃と思われる、幼い男の子。

 その容姿は、ゲームで何度も見た「アラン」そっくりだ。

 栗色のマッシュパーマヘアに、紅茶色の瞳。

 エトワール国立孤児院の子供たちよりも痩せているのは、貧しい農村で暮らしていたからだろう。


 ◇◆◇◆◇


 推しが来た!

 この世界で誰よりも愛おしい男の子が!


 駆け寄って抱き締めたい衝動を、私は必死に堪えていた。

 いきなりそんなことをしたら、大人しいアランなら絶対引いてしまう。

 慌てずに親睦を深めよう。


「ルナ、顔が赤いけど大丈夫?」

「熱があるのかしら」

「だ、だいじょうぶ、元気だよ」

「無理しないで、少し横になってきなさい」

「はぁい」


 生の推しを見た感動で赤面していたら、熱があると勘違いされてしまった。

 恋愛感情なんか芽生える筈のない2歳児が、好きな子を見て興奮したなんて知られるよりはいい。

 やむなく、私は寝室へ向かった。


 孤児院の寝室は4人部屋で、ここでは私を含めた女子4人が寝起きを共にしている。

 他の子はまだ部屋に戻ってこないので、私は1人で部屋の姿見を見つめながら、ゆっくり考え事をすることができた。


 鏡に映る私の容姿は、肩までのびた白金色のサラサラヘアに、大きくて睫毛の長い若草色の瞳、色白の肌をもつ女の子。

 ゲームのヴィジュアルで見慣れた、主人公ルナの幼少期にそっくりだった。


 おまけに……


(ステータス)


 ……私が心の中で呟くと、ゲームのように空中にステータスウィンドウが現れた。


 【星空の彼方】のステータスは数字ではなく、経験値の貯まり具合を示すゲージと、A~Fのアルファベットで表記される能力値、スキルや魔法の他に使える魔法に影響する「属性」が記載されている。

 経験値は武術や魔法の訓練、魔物を倒すことで増えていく。

 能力値は経験値のゲージがMAXになると上がる。

 経験値のゲージは能力値が上がると0に戻り、また訓練や討伐をすることで貯まっていく。


 今の私のゲージは全く貯まっておらず、アルファベットは全て「F」。

 つまり、ゲームを開始した直後の主人公と同じステータスということになる。


(……やっぱり、光属性がある……)


 私の属性は、ゲームのルナと同じで光・水・土。

 この世界では、属性は1つであることが多い。

 2属性なら優秀といわれる。

 3属性はかなり希少な存在で、国立魔法学院の特待生になれて、卒業後は宮廷魔導士として召し抱えられる。

 光属性は勇者または聖女の証で、神殿で保護されるか、高位貴族の養子として迎えられることになる。


 シナリオ通りであれば、私は公爵家に引き取られるだろう。

 (ルナ)は、ミシオン公爵がメイドに手を出して孕ませた隠し子だ。

 ゲームでは、その部分には触れられていない。

 でも、シナリオライターが出版した小説の中で、公爵とメイドだけが知る秘密として書かれていた。

 正妻に不倫を知られないために捨てられたけど、光属性があると分かった途端に養女として公爵家に迎えられることになる。


 ゲームのルナは実の父とは知らずにミシオン公爵の養女になることを受け入れる。

 でも、真実を知っている私は、そんな身勝手な父親のところへ行くのは嫌だ。

 それに、貴族になったら、アランとは離れ離れになってしまう。


(……私は、アランと離れたくない。3属性とか光属性とかは、隠しておかなきゃ)


 私は、ひそかに決意した。

 シナリオ通りには、動かない。

 私は、私の行きたい道を行こう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ