第9話
そうした事情で、俺は今、動物実験室に来ている。
日頃ラボで実験する部屋とは異なるどころか、建物も少し離れたところにある動物実験棟。その中にある一室だ。
「キーッ!?」
よく鳴くネズミたちがそれぞれ十匹ずつ、五つの飼育ケージに入れられていた。
左から一、三、五番目のケージは陰性対照であり、生理食塩水のみを注射したマウス。
二番目のグループでは半分に同じく生理食塩水を、残り半分にはPOG9活性化プラスPOG3抑制因子を接種。四番目のグループは、十匹全てに因子を注射してある。
こうした処置は第一段階として、既に一時間前に済ませてあった。
「ちゃんと機能しているぞ……」
ケージをチェックしながら、独り言を呟く。
飼育ケージには、霊力測定器が備えつけてあった。オカルト関連の数値化なんて胡散臭い機械にも感じられるが、この手の研究には不可欠なので仕方がない。うちのラボが購入したのは安物なので感度は良くないが、敏感すぎると隣のケージの霊力も誤検出するかもしれないので、むしろ安物の方が使い勝手が良いらしい。そもそもケージと同じ数だけ必要な以上、高価な霊力測定器を使うのはコスト的に無理なのだ。
なお隣のケージの霊力を誤検出しないよう、霊気を遮断するといわれる物質でケージは覆うのは当然であり、俺もそれは実行している。とはいえ、霊気遮断の理屈がよくわからないので、俺はあまり信用していなかった。本来ならば一つで良いはずの陰性対照を三つも用意して、それで両隣を挟む形にしたのも、隣からの漏れの有無をチェックするためだ。
「まず、現時点の数値は……」
単位は俺も知らないが、それぞれの値は、34、33、36、32、35。平均すると、34だった。
これが実験開始前のバックグラウンドとなる。
「では、いよいよ……」
ケージの中のネズミたちを実験台の上へ運び出し、致死性薬物を接種する。脳細胞のアポトーシスを促す薬――ただし霊能遺伝子とは無関係のもの――で、ネズミたちを殺すのだ。
POG9を活性化しPOG3を抑制しているのだから当然、わざわざ今日殺さずとも、いずれは脳細胞がやられて死に至るだろう。しかしそれでは幽霊となっても、霊能遺伝子の直接的な影響なのか、あるいは単に死んだせいなのか判別できない。だから霊能遺伝子を操作していないマウスも同様の条件で殺して比較する、というのが表向きの理由だった。
「あとは結果を待つだけ……」
ネズミたちをケージに戻して、様子を見守る。
全てのネズミが死に絶えるまで、三十分もかからなかった。
霊力測定器の数値を見ると……。
「……成功だ!」
自分でも驚くほど、明るい叫び声だった。
36、1205、34、2409、35。
コントロールはバックグラウンド程度であり、バックグラウンドの平均値を引けば、半分の霊能遺伝子を操作したグループでは1171、全部処理したグループでは2375という値だった。
2375を1171で割れば2.028……だから、ちょうど二倍だ。
このデータが示しているのは、霊能遺伝子を操作されずに死んでも霊体は検出されないけれど、操作された後で死ねば操作の個体数に応じて霊体が検出される、ということ。
つまりPOG9を活性化しPOG3を抑制することによって、幽霊となったのだ!




