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アポトーシスで永遠を  作者: 烏川 ハル


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10/10

第10話

   

「ハハハ……!」

 誰もいない動物実験室で、俺は両手を広げて歓喜に(ひた)っていた。


 しょせん今回は予備実験の(たぐ)いであり、論文報告などに使うデータとしては不十分。今後も同様の実験を繰り返したり、色々と条件を変えたりして、もっと細部を煮詰めていく必要があるだろう。

 しかし、それをやるのは俺ではない。本来ならば俺の仕事だが、たとえ俺がいなくなっても、別の誰かが引き継いでくれるはずだ。


「ふう……」

 ひとしきり笑った(あと)、一息ついて自分を落ち着かせる。

 たとえ「予備実験の(たぐ)い」だとしても、俺自身が確信を持つには十分であり、自説が正しいとわかった以上、それに従って行動あるのみだった。

 新たな注射器を取り出して、実験台の上に置く。

 中に満たされているのは、誰にも秘密で、こっそり用意したもの。POG9を活性化しPOG3を抑制する因子だが、マウスに対するものではなく、ヒトに対するものだった。


 秘密といえば、他にもいくつか、敢えてボスにも話していないことがある。

 例えば、わざわざ今日マウスを殺す理由。先ほどの「表向きの理由」も嘘ではないが、最も重要なのは、霊能遺伝子の操作をした直後に幽霊になること。遺伝子操作後、何日も何十日もかかるようでは不都合なのだ。

 また、霊能遺伝子操作の方法を考慮した際にも、秘密の注意点があった。外科手術っぽい操作とか、胎児の段階での処理とか、脳内接種とかを避けたのは……。

 それでは自分に処置できないからだ!


「ククク……」

 思わず笑みが溢れてしまう。

 生物が進化の過程で獲得してきたのが、死後も幽霊として現世に留まる方法であるならば、その「幽霊」という存在は、怪談などに出てくるような、未練や怨念から作られる悪霊とは全く違う。むしろSF小説に出てくる精神生命体の方が近い存在だろう。高度に発展した文明において人類が肉体を捨て去る……みたいな話だ。

 ボスに説明した安楽死なんて、しょせん口実に過ぎなかった。「高度に発展した文明」における「精神生命体」なのだから、本当は「死」ではない。

 むしろ永遠の命を得る方法だ!


「『生』のための『死』! まさにアポトーシスじゃないか!」

 もう次の職を心配する必要も、衣食住のために稼ぐ必要もない。世間のしがらみからは解放されるのだ。

 薔薇色の未来を夢見ながら、俺は自分自身に注射する。

 自分の中のPOG9を強制的に活性化すると同時にPOG3を徹底的に抑えて、霊体だけの存在となるために。




(「アポトーシスで永遠を」完)

   

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