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アポトーシスで永遠を  作者: 烏川 ハル


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7/10

第7話

   

「これだ!」

 その答えに繋がりそうな大きな手がかりが、思いもよらぬところに転がっていた。

 自分自身の実験データでもなければ、他人の論文報告でもない。インターネットのアングラなサイトの中だった。

 オカルト系のまとめサイトに書かれていた、残留思念とかポルターガイスト現象とかの記事。広い意味では「霊能」の範疇だとしても、俺が研究している霊能遺伝子とは全く異なる話であり、非現実的な与太話だからこそ、研究の息抜きとして楽しむ読み物にはちょうど良かったのだが……。


「待てよ? これって、本当に『俺が研究している霊能遺伝子とは全く異なる話』なのか? 『非現実的な与太話』なのか?」

 そもそも一昔前ならば――遺伝子が同定される前ならば――、霊能遺伝子も「非現実的な与太話」の(たぐ)いだったはず。ならば自分の常識をいったんリセットして考えて……。

 そこでようやく、俺は気づいたのだ。

 そもそも「霊能力」の「霊」は、それ一文字ならば「幽霊」を意味する言葉ではないか、と。


 霊能遺伝子の研究は、ヒトの(がわ)から始まっている。除霊師にしろ霊媒師にしろ、霊能力者という存在は、あくまでも人間。幽霊そのものではなく、幽霊を相手にする(がわ)だ。

 だから幽霊そのものは遥かに遠い存在であり、むしろ非現実的とすら感じていた。

 しかし、よく考えるまでもなく幽霊とは()後の存在であり、アポトーシスも細胞()。その二つは「死」という点で共通しているではないか。

 ならば、霊能遺伝子とアポトーシスの関連を研究していく上では、むしろ幽霊についても真面目に考察する必要があり……。


「もしかすると霊能力って、幽霊を相手にどうこうする力じゃなくて、幽霊になるための力なんじゃないか?」

 自分の口から飛び出したアイデアに、俺は愕然とする。


 つまり生物は進化の過程で、死んでも魂を残す(すべ)を――幽霊として現世に留まる方法を――獲得してきたのではないか。

 この世界のリソースは有限であり、生物が生き続けたら次世代の邪魔になりかねない。しかし幽霊ならば意識や知識だけを残す形であり、食物連鎖などからも外れて、世界全体には負担をかけないはず。

 そう考えると、霊能力の高い者が「死」に近いのも理屈に合う。それは副作用などではなく、それこそがPOG9の本来の機能だったのだ。

 ただし、あまりにも若いうちに死ぬのは――肉体を捨て去るのは――生物種として不都合だから、それを抑える遺伝子としてPOG3も用意されているのだろう。



「何をバカなこと言ってるんだ?」

 ラボのミーティングでこれを語ったら、最初は皆に笑われてしまった。

 だから自説を支持する実験データが必要であり、ある動物実験を提案する。

 ボスは一通り聞いてくれた上で、難しい顔をしながら口を開いた。

「君の説が正しいとしたら、確かに面白い論文になりそうだが……。その研究が何かの役に立つのか? 研究資金を獲得できるのか?」


 俗物め!

 俺は心の中で侮蔑の言葉を吐いてしまう。

 研究資金にこだわるなんて、サイエンスを追究する者の態度ではない。とはいえ実際問題、ラボの長としては仕方ないだろうというのも理解できるので……。

 俺はポツリと答えた。

「……新しい安楽死です」


 皆の笑い声が消える中、俺は発言を続けていた。

「死後の幽霊になる仕組みが科学的に解明されて、誰もが確実に幽霊になれるとしたら……。それは素晴らしい死に方だと思いませんか? まさに『安楽死』です」

 俺の表情は、マッドサイエンティストのそれだったに違いない。

 同僚の顔を見回すと、彼らの多くは引いてしまっていた。しかし一部の者たちは少し心惹かれたようで、幸運なことに、ボスもそちらに含まれていた。


「なるほど。面白い話だな」

 彼がニヤリと笑ったのは、いくつかスポンサーを思い浮かべたからに違いない。

 そんな研究に金を出す組織なんて、どうせロクでもないところだろうけれど。

   

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