第6話
そもそも実験データというものは、あくまでも「How?」を示すに過ぎず、その「Why?」までは語ってくれない。そこは研究者の思考に委ねられた範疇であり、実験データからの解釈こそが「Why?」を説明するのだ。
だから俺は、自分の疑問を解明するためにも、改めてデータを見直したり、過去の論文を読み直したりし始めた。
「『霊能遺伝子が霊力をアップさせる』というのは、理屈に合ってるとしても……。でも『霊能遺伝子が神経細胞のアポトーシスを誘導する』って話なら『霊力がアップしたら脳細胞が死ぬ』ってことになるんじゃないのか!?」
と、俺は不思議に感じたのだが……。
この点に関して、霊能遺伝子によるアポトーシスを最初に報告したグループは、その論文の中で「霊能力を駆使することが脳や神経への負担になるのではないか」という考察を披露していた。
あくまでも「考察」であり、単なる仮説に過ぎないが、その後他のグループの論文でもこの解釈が頻繁に引用されていた。そして引用を繰り返すうちに、霊能遺伝子とアポトーシスについて研究する者の間では、まるで定説のようになってしまったらしい。
きっと彼らは、それで納得していたのだろう。しかし俺は、この研究分野には新参者だ。新参者だからこそ「定説」に対して疑いの気持ちも抱く。
何か別の理由があるのではないか。感覚的にもっとしっくりくるような理由が。
その可能性について、考え続けていたら……。
「そうか、この遺伝子だ!」
霊能遺伝子の側からではなかった。
カスパーゼ8及びカスパーゼ3を介するアポトーシスに着目することで、別の霊能遺伝子も全く同じアポトーシスに関係するという事実が明らかになったのだ。
ただしアポトーシスを引き起こす方向性ではなく、アポトーシスを抑制する方向の霊能遺伝子。それはヒトのPOG3に相当する遺伝子だった。
「なるほど、そういうメカニズムだったのか……」
霊能遺伝子群―― Psychic Occult Genes ――の中でも、POG3はあまり研究が進んでいない遺伝子だ。霊力を下げる方向性で機能すると示唆された時点で、研究人口がドッと減ったらしい。
霊能力が高い人々の間で活発な遺伝子なのに、逆に下げる方向。それはそれで不思議でもあり、研究者の好奇心をくすぐるはずだが、実用的に考えると「霊力を下げる方向性」では研究費が稼げないのだろう。
「POG3は、霊力が高すぎる人のアポトーシスを抑えるためなんだ……!」
霊力低下という点だけ見れば霊能遺伝子の理屈に合わないとしても、POG9とセットで考えれば合理的ではないか。
いわゆる霊能力者は、POG9によって霊力が上昇しているけれど、POG9には脳細胞を殺すという副作用もある。だからそれを抑えるために、POG9とは逆の効果の遺伝子、つまりPOG3も活性化されているというシステムだ。
ならば、その両者のバランスこそが、正常に霊能力を発揮する上で大切なのかもしれない。
自分を納得させる考えが閃いたことで、俺は異様に興奮してしまうが……。
ハッと我に返れば、まだ最初の疑問が完全に解けたわけではなく、むしろ深まっていくほどだった。
POG9には何故、脳細胞を殺す働きがあるのだろうか?
そんな厄介な副作用を、なぜ保持してしまったのだろうか?




