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WABE ~すべてを失った少年が終末世界に抗い続ける物語~  作者: terakoya-8
訓練生編

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6/11

Fifth 試行錯誤

 入江渓人はエレベーターに乗り込んだ。


 夜の未来都。

 昼とは違う雰囲気。


 光が流れていた。


 車両のヘッドライトとテールランプ。

 流れを成す。

 

 街灯は灯り、道行く人を照らす。

 窓から漏れ出た光が点となる。


 都市全体を埋め尽くす。


 「綺麗だ…」

 思わず言葉が漏れる。



 再び、流れが止まる。

 (......またか)

 

 __なんで動けるのか。

 自分でもよくわからない。



 だが、

 渓人は端末をかざす。


 私以外誰もいないエレベーターの中で。

 シャッター音がこだまする。

 この景色を、写真として記録に残した。


 気づけば、

 再び流れ出す。


 エレベーターは最上階に到着し、扉が開く。

 食堂を目指し、東へ進む


 食堂の扉が開く。

 昼と変わらず、多くの隊員たちで賑わう。


 タッチパネルに目をやる。

 表示は一つだけ


  ”我流定食”


「…何を言っているんだ。」

 思わず、本音がこぼれる。

 選ばせる気があるのか、それともないのか。分からなかった。


 しかし、他に選択肢はない

 注文と決済を済ませる。


 数分後、トレーが渡される。紙が乗っている。

 説明:この先で好きなメニューを組み合わせろ。


「...そういうことか。」

 納得できた。


 導線に沿って進む。


 主食コーナー

 白米、麺、パン。


 迷わず白米を手に取る。


 主菜

 生姜焼き、鮭の塩焼き、チキンステーキ。


 手が止まる。

 立ち止まって選んでいたら、流れが止まる


 __こういう時は直感が一番。 


 手を伸ばす。

 持っていたのは、鮭の塩焼き。

 

 汁物コーナー

 味噌汁を取る。

 

 完成したのは、鮭の塩焼き定食。



 昼と同じ、窓側の席。 

 昼とは違う、未来都の景色。


 窓の外には夜景が広がる。

 見る場所を換えれば、新たな発見が生まれる。


 端末を窓の外にかざす。

 シャッターを切り、記録に残す。


 手を合わせ、箸をとる。

 まずはおひたし。

 だしの香りとかつお節の風味。

 ほうれん草の苦みが、和らいでいく。

  

 どこか、懐かしさを感じる。

 理由はうまく説明できない。 

 しかし、これだけは言える

 "記憶"に刻まれている味である

 


 続いて、鮭の塩焼き。

 焼き目の香ばしさ。 

 脂の乗り。

 塩加減。

 

 完璧な調和が取れている。

 

 白米をかき込む。

 もう、止まらない。

 

 _生きている。

 今すぐにでも、そう叫びたい。

 箸は進み、その度に生の実感を取り戻していく

 

 

 味噌汁を流し込む。

 体が内側からじんわりと温まっていく。

 出汁の旨味。

 味噌のコク。


 これも、どこか懐かしい味がする。

 


 再び、手を合わせる



 「ごちそうさまでした。」



 ふと、課題のことを思い出す。

 端末を操作し、データベースを立ち上げる。


 __スライサー

 近距離特化型。

 跳躍による間合い詰め。

 そして、

 ブレード破壊率40%...


 手が止まる。

 スライサーのブレードを眺める。



 "弓鋸"のような形。

   


 すかさず映像を確認する。

 隊員のブレードが、真っ二つに切れる。



「......ありえない。」

 思わず、そう呟く。



 何度も何度も、映像を見返す。

 意識を集中させ、動きを捉える。  



 __見えた。

 体重を乗せ、ブレードを押す動き。

 弓鋸で金属を切る動きと同じ。

 ブレードを少しづつ、削り取っていく。

 隊員はそれを弾き返そうとしている。  


 そして、ブレードが切れる。

   


 思考が繋がっていく。

 

 弾こうとしてはいけない。

 力をいれてもいけない。


 そうするから、削られる。

 そして、切られる。  

 最後には、 


 斬られる。


 

 __分かった。

 "流す" 

 受けない。


 頭の中でイメージを重ねる。 

 スライサーのブレードが当たる。

 ブレードに体重をかけてくる。 


 渓人は、チェイサーを傾ける。

 スライサーがバランスを崩す。 

 地面めがけて、ブレードが落ちていく。



 __これだ。

 一つの解答が、頭に浮かぶ


 答えは一つではない。 

 だが、確実に突破口は見えた。

 

 問題は、倒し方

 ここがまだ白紙であった。

  

 トレーを持ち、立ち上がる。

 返却口へ向かい、食器を返す。


 そのまま、部屋へと向かう。

 

 エレベーターに乗り込む。

 ボタンを押す。

 行き先は地上2階。

 

 時刻は19:00を指していた。


 さっきと変わらない、無機質な廊下。 

 しかし、どこか生活感がある。


 部屋は211号室。

 扉の前で立ち止まる。

 端末に手をかざす。


 「認証完了。」 

 無機質な機械音声。


 __ガチャン。

 ロックが外れ、扉が開く。


 最低限の空間。

 生活に必要なものは全て揃っている。

 不自由は感じない、十分だ。


 

 洗濯機に、服を放り込む。

 ボタンを押す。

 音を立て、動きだす。 


 シャワーを浴びる。 

 疲れが、排水口へと流れていく。


 体を拭き、備え付けの寝巻きに着替える。  



 渓人はベッドに倒れ込む。

 天井を見つめる。


 思考を巡らせ、策を練る。 


 両手を振らせる。

 隙を作る。 

 そこを攻める。  


 解答が浮かぶ。 

 それと同時に、意識が落ちていく。


  

 声がする。 

 誰かはわからない。

 


「未来永劫......」

 途切れる。


「この責務からは逃れられ......」

 意味を結ばない。



「引き受ける者......」 

 理解が追いつかない。



「運命は定ま......」

 はっきりと聞こえない。




 突然、胸ぐらをつかまれる。

 襟をねじられる。

 苦しい。 


 __現実の痛みと変わらない。

 締め付けられるような感覚。

 命の危険を感じる。



「受け入れなさい」

 はっきりと聞こえた。


 飛び起きる。

 夢であった。

 

 窓から外を眺める。

 まだ暗い。  


 だが、

 どうも、二度寝する気にはならない。


 洗濯乾燥機を開ける。

 着替えを取り出す。

 寝巻きを脱ぐ。 

 着替える。  


 部屋を飛び出す。 

 無機質で、静かな廊下。 

 照明は消えている。

 

 足音だけが廊下をこだまする。

 

 エレベーターに乗り込む。

 ボタンを押す。

 扉が閉まる。

 行き先は、最上階。


 次の瞬間

 床がつき上がる。


 窓から外を眺める。

 __都市は眠っていた。

  

 明かりがない。

 人通りもない。

 車も電車も走っていない。


 静寂が都市を包み込む。


 ゆっくりと減速する。 

 そして静止する。

 扉が開く。

 最上階に着いた。

 エレベーターを降りる。


 そこには、見覚えのある人物。



「おはよう」

 風間俊英の声 



「入江君、早起きだね」

 そう言って、微笑みかけてくる。



「悪い夢を見たんです......」



 2人の間に沈黙が訪れる。



「どんな夢だい?」 




「誰かが、何かを語り掛けてくる夢です。」



 風間は目を閉じる。

 少し間を置く



「......よくあることだ。」

 短く答える。



「ストレスのせいだろう。」

 


 納得できた。

 ここ数日の出来事

 見たり聞いたりした事

 

 全て現実離れしていた。

 だが確実に、頭と体はついてきている。 

 現実として受け入れ始める。

 その過程にあるのかもしれない。


 渓人はそう言い聞かせる。



「日の出、見るんだろ?」



「はい!」



 二人は食堂の前で開店を待つ。



 その時、光が差す。


 __一瞬、

 空の一部がちらつく。

 

 都市が目を覚ます。

 その光景を窓から眺める。


 渓人は端末をかざす。

 シャッターを切り、記録に残す。


 風間は景色をみながら呟く。  



「この都市は、"反応"で出来ている。」



 結晶同士の反応。

 生成される材料。

 それらが都市を創り出す。


 理屈はある。

 だが、どこか現実離れしている。


 一つだけ言えることがある。

 __さすがは争いすら終わらせたエネルギー。



「魔法じゃないですか」

 思わず言葉を漏らす。



 二人の間に、沈黙が訪れる。



「そんなに、軽いものではない」

 どこか、重い言葉。



「犠牲のもとに、技術はある」

 ハッとした。



「研究、実験で数千人が犠牲になった」



 歴史の教科書で見たことがある。


 背筋が凍る。

 あの授業を思い出す。


 結晶侵食症候群


 またの名を

 クリスタライゼーションシンドローム


 体から結晶が生える。

 反応を繰り返す。

 ゆっくり、だが確実に体に負担がかかる。

 

 重症化すれば

 全身が結晶になる。

 

 研究者たちは、身を投じ続ける。

 危険と知りながら。

 このエネルギーを信じていた。


「入江君」

 風間の声。



「だからこそ、自分で選び取れ」

 


「これからは自分で考えなければならない」



 渓人は黙っていく。

 誰かの言葉。

 しかし、誰のものかは思い出せない。


 

 「......説教だな」

  風間は笑う。



 食堂の扉が開く。



 「朝食、行くか」



 渓人は頷く。


 食堂へと向かう。



 __あの感覚。 

 あれを使えば、もっと先に行ける。


 そう思ってしまった。

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