Fifth 試行錯誤
入江渓人はエレベーターに乗り込んだ。
夜の未来都。
昼とは違う雰囲気。
光が流れていた。
車両のヘッドライトとテールランプ。
流れを成す。
街灯は灯り、道行く人を照らす。
窓から漏れ出た光が点となる。
都市全体を埋め尽くす。
「綺麗だ…」
思わず言葉が漏れる。
再び、流れが止まる。
(......またか)
__なんで動けるのか。
自分でもよくわからない。
だが、
渓人は端末をかざす。
私以外誰もいないエレベーターの中で。
シャッター音がこだまする。
この景色を、写真として記録に残した。
気づけば、
再び流れ出す。
エレベーターは最上階に到着し、扉が開く。
食堂を目指し、東へ進む
食堂の扉が開く。
昼と変わらず、多くの隊員たちで賑わう。
タッチパネルに目をやる。
表示は一つだけ
”我流定食”
「…何を言っているんだ。」
思わず、本音がこぼれる。
選ばせる気があるのか、それともないのか。分からなかった。
しかし、他に選択肢はない
注文と決済を済ませる。
数分後、トレーが渡される。紙が乗っている。
説明:この先で好きなメニューを組み合わせろ。
「...そういうことか。」
納得できた。
導線に沿って進む。
主食コーナー
白米、麺、パン。
迷わず白米を手に取る。
主菜
生姜焼き、鮭の塩焼き、チキンステーキ。
手が止まる。
立ち止まって選んでいたら、流れが止まる
__こういう時は直感が一番。
手を伸ばす。
持っていたのは、鮭の塩焼き。
汁物コーナー
味噌汁を取る。
完成したのは、鮭の塩焼き定食。
昼と同じ、窓側の席。
昼とは違う、未来都の景色。
窓の外には夜景が広がる。
見る場所を換えれば、新たな発見が生まれる。
端末を窓の外にかざす。
シャッターを切り、記録に残す。
手を合わせ、箸をとる。
まずはおひたし。
だしの香りとかつお節の風味。
ほうれん草の苦みが、和らいでいく。
どこか、懐かしさを感じる。
理由はうまく説明できない。
しかし、これだけは言える
"記憶"に刻まれている味である
続いて、鮭の塩焼き。
焼き目の香ばしさ。
脂の乗り。
塩加減。
完璧な調和が取れている。
白米をかき込む。
もう、止まらない。
_生きている。
今すぐにでも、そう叫びたい。
箸は進み、その度に生の実感を取り戻していく
味噌汁を流し込む。
体が内側からじんわりと温まっていく。
出汁の旨味。
味噌のコク。
これも、どこか懐かしい味がする。
再び、手を合わせる
「ごちそうさまでした。」
ふと、課題のことを思い出す。
端末を操作し、データベースを立ち上げる。
__スライサー
近距離特化型。
跳躍による間合い詰め。
そして、
ブレード破壊率40%...
手が止まる。
スライサーのブレードを眺める。
"弓鋸"のような形。
すかさず映像を確認する。
隊員のブレードが、真っ二つに切れる。
「......ありえない。」
思わず、そう呟く。
何度も何度も、映像を見返す。
意識を集中させ、動きを捉える。
__見えた。
体重を乗せ、ブレードを押す動き。
弓鋸で金属を切る動きと同じ。
ブレードを少しづつ、削り取っていく。
隊員はそれを弾き返そうとしている。
そして、ブレードが切れる。
思考が繋がっていく。
弾こうとしてはいけない。
力をいれてもいけない。
そうするから、削られる。
そして、切られる。
最後には、
斬られる。
__分かった。
"流す"
受けない。
頭の中でイメージを重ねる。
スライサーのブレードが当たる。
ブレードに体重をかけてくる。
渓人は、チェイサーを傾ける。
スライサーがバランスを崩す。
地面めがけて、ブレードが落ちていく。
__これだ。
一つの解答が、頭に浮かぶ
答えは一つではない。
だが、確実に突破口は見えた。
問題は、倒し方
ここがまだ白紙であった。
トレーを持ち、立ち上がる。
返却口へ向かい、食器を返す。
そのまま、部屋へと向かう。
エレベーターに乗り込む。
ボタンを押す。
行き先は地上2階。
時刻は19:00を指していた。
さっきと変わらない、無機質な廊下。
しかし、どこか生活感がある。
部屋は211号室。
扉の前で立ち止まる。
端末に手をかざす。
「認証完了。」
無機質な機械音声。
__ガチャン。
ロックが外れ、扉が開く。
最低限の空間。
生活に必要なものは全て揃っている。
不自由は感じない、十分だ。
洗濯機に、服を放り込む。
ボタンを押す。
音を立て、動きだす。
シャワーを浴びる。
疲れが、排水口へと流れていく。
体を拭き、備え付けの寝巻きに着替える。
渓人はベッドに倒れ込む。
天井を見つめる。
思考を巡らせ、策を練る。
両手を振らせる。
隙を作る。
そこを攻める。
解答が浮かぶ。
それと同時に、意識が落ちていく。
声がする。
誰かはわからない。
「未来永劫......」
途切れる。
「この責務からは逃れられ......」
意味を結ばない。
「引き受ける者......」
理解が追いつかない。
「運命は定ま......」
はっきりと聞こえない。
突然、胸ぐらをつかまれる。
襟をねじられる。
苦しい。
__現実の痛みと変わらない。
締め付けられるような感覚。
命の危険を感じる。
「受け入れなさい」
はっきりと聞こえた。
飛び起きる。
夢であった。
窓から外を眺める。
まだ暗い。
だが、
どうも、二度寝する気にはならない。
洗濯乾燥機を開ける。
着替えを取り出す。
寝巻きを脱ぐ。
着替える。
部屋を飛び出す。
無機質で、静かな廊下。
照明は消えている。
足音だけが廊下をこだまする。
エレベーターに乗り込む。
ボタンを押す。
扉が閉まる。
行き先は、最上階。
次の瞬間
床がつき上がる。
窓から外を眺める。
__都市は眠っていた。
明かりがない。
人通りもない。
車も電車も走っていない。
静寂が都市を包み込む。
ゆっくりと減速する。
そして静止する。
扉が開く。
最上階に着いた。
エレベーターを降りる。
そこには、見覚えのある人物。
「おはよう」
風間俊英の声
「入江君、早起きだね」
そう言って、微笑みかけてくる。
「悪い夢を見たんです......」
2人の間に沈黙が訪れる。
「どんな夢だい?」
「誰かが、何かを語り掛けてくる夢です。」
風間は目を閉じる。
少し間を置く
「......よくあることだ。」
短く答える。
「ストレスのせいだろう。」
納得できた。
ここ数日の出来事
見たり聞いたりした事
全て現実離れしていた。
だが確実に、頭と体はついてきている。
現実として受け入れ始める。
その過程にあるのかもしれない。
渓人はそう言い聞かせる。
「日の出、見るんだろ?」
「はい!」
二人は食堂の前で開店を待つ。
その時、光が差す。
__一瞬、
空の一部がちらつく。
都市が目を覚ます。
その光景を窓から眺める。
渓人は端末をかざす。
シャッターを切り、記録に残す。
風間は景色をみながら呟く。
「この都市は、"反応"で出来ている。」
結晶同士の反応。
生成される材料。
それらが都市を創り出す。
理屈はある。
だが、どこか現実離れしている。
一つだけ言えることがある。
__さすがは争いすら終わらせたエネルギー。
「魔法じゃないですか」
思わず言葉を漏らす。
二人の間に、沈黙が訪れる。
「そんなに、軽いものではない」
どこか、重い言葉。
「犠牲のもとに、技術はある」
ハッとした。
「研究、実験で数千人が犠牲になった」
歴史の教科書で見たことがある。
背筋が凍る。
あの授業を思い出す。
結晶侵食症候群
またの名を
クリスタライゼーションシンドローム
体から結晶が生える。
反応を繰り返す。
ゆっくり、だが確実に体に負担がかかる。
重症化すれば
全身が結晶になる。
研究者たちは、身を投じ続ける。
危険と知りながら。
このエネルギーを信じていた。
「入江君」
風間の声。
「だからこそ、自分で選び取れ」
「これからは自分で考えなければならない」
渓人は黙っていく。
誰かの言葉。
しかし、誰のものかは思い出せない。
「......説教だな」
風間は笑う。
食堂の扉が開く。
「朝食、行くか」
渓人は頷く。
食堂へと向かう。
__あの感覚。
あれを使えば、もっと先に行ける。
そう思ってしまった。




