Fourth 特訓
入江渓人はエレベーターに乗りこむ。
目的地は…地下3階。
ボタンを押す。
銀色の鉄の扉が閉まる。
次の瞬間、
床が沈み始める。
みるみる加速していく。
臓物が浮き上がるような感覚。
窓から見える景色。
突然、
時の流れが遅くなる。
そして、止まる。
空中にとどまる。
__自分の影だけが、遅れて動いた。
窓に近づく。
次の瞬間、
動き出す時間。
(なんだこれは......)
窓から地面を見る。
地面が迫ってくる。
”速い”。
その時、窓から差す光が消える。
人工的な光と入れ替わる。
減速し、静止する。
この間僅か数十秒、たったこれだけ。
扉が開く。
広がるのは無機質な空間。
冷たい空気と人工的な照明。
彼は無言で歩き出す。
足音だけが廊下にこだまする。
目的地は分かっている。
黒い扉の前で足を止める。
そして、
迷わず手をかざす。
「認証完了」
無機質な機械音声が廊下をこだまする。
ロックは外れ、扉は開く。
「入江君、お帰り」
風間俊介の声がする。
「食堂の飯は美味かったかい?」
「......美味しかったです」
彼は短く答える。
それは本音であった。
あの空間だけはどこか”安心感”があった。
「まだまだ時間もあるし、試してみる?」
西野愛梨が端末を持って来る。
「いきなりはきついんじゃないかな?」
風間俊介はそう言う。
入江渓人は無言で頷いた。
ホログラムに自分の情報が表示される。
装備品登録画面、防具:未登録、武器:未登録。
防武器には剣型と銃型。
防具は三種類、種類は豊富。
彼は不思議と手が止まる。
画面を見つめる。
__ブレード。
金色の回路が走る刃。
これはただの武器じゃない。
見た目がそう訴えかけてくる。
訓練室に移動する。
広い空間。
無機質な床。
人工的な照明。
愛理が操作盤を動かす。
ダミーがせりあがる。
「いつでもいけるよ」
部活で何度も聞いたあの声。
だが、安心はできない。むしろ空気は張りつめている。
防具を試す
軽量タイプ
__軽い。
何もつけていないみたいだ。
通常タイプ
__少し重たい。
だが、安心感がある。
重量タイプ
__重い、動けない。
地面に押し付けられる感覚を覚える。
「あっ!」
バランスを崩す。
すかさず俊英が支えに入る。
防具を外した。
武器を選ぶ
端末には適性診断の表示。
少し間を置く。
ボタンを押す。
戦い方
求める性能
普段の行動
質問が次々と降ってくる。直感で答え、さばいていく。
時間はさほどかからなかった。
「結果」
画面が切り替わる。
「あなたのおすすめ武器は軽量ブレード武器+遠距離武器」
渓人はゆっくりと息を吐く。
「やっぱり......」
どこか思い当たる節があった。
ブレードを試す。
サーベルを手に取る。
軽い、楽に振れる。
しかし…
ダミーに斬りかかる。
手ごたえが浅い。
刃がうまく入っていかない。
「......違う」
突きの構えをとる。
ダミーに飛びかかる。
__貫通
悪くはなかった。
でも、これじゃない。
次に、チェイサー。
少し重い。
だが、
しっくり来る。
持っただけで分かった。
「…これだ」
振る。
_ズンッ!
衝撃が手に伝わり、全身へと広がっていく。
ダミーは真っ二つに割れる。
感触がいい。刃が入っていく。
感覚は、確信へと変わった。
「これにします。」
即答した。迷いはなかった。
銃を試す。
まずはウィザード。
__重い。
保持するどころか、持ち上げることもできない。
論外だった。
次にシャークDMR。
__軽い。
ストックを肩に当てる。
頬をしっかりと乗せる。
照準を合わせる。
脇を絞め、体でしっかりと銃を抑える。
引き金を引く。
_バッ!
レーザーが放たれる。
反動を体で受け止める。
ダミーに穴が開く。
焦げたにおい。
音が少しづつ消えていく。
「これなら…いける!」
そう呟く。
「近距離と中遠距離のバランス型か、今後が楽しみだ。」
風間が笑う。
装備品が登録された。
その後も渓人は武器を試し続ける。
斬る。
撃つ。
動く。
何度も何度も繰り返す。
体に動きが染みついてくる
だが、風間は彼を呼び止める。
「今の、もう一度見せてほしい」
それに応じて斬りかかる。
ダミーが割れる。
すると…
__パキン!
硝子が砕けるような乾いた音。
ブレードか砕ける。
地面には
”結晶”。
幸い、ケガはなかった。
「原因はわかるか?」
風間の声
「…分からない。」
渓人は首を横に振る
「斬ってない、叩きつけている。」
鋭い指摘が刺さる。
「いいか」
風間は鞘からブレードを抜く。
刀身が黒く光る。
__あの時の武器。
「刃を垂直に入れる。そして、”通す”んだ」
渓人は意識を集中させる。
観察する。
息をゆっくりと吸う。
同様に吐く。
ブレードを振り上げる。
動きに無駄がない。
音を置き去りにする。
黒い閃光が見える。
ダミーは、滑るように切断されていた。
「…もう一度」
渓人はブレードを構える。
集中に入る。
力を抜く。
振る。
__スッ。
衝撃が消えた。
その瞬間、
遅くなる時間の流れ。
周りの物が遅れてついてくる。
「できた......」
小さく呟く。
繰り返す。
何度も、
何度も。
何十回、
何百回と。
正しい動作を体に覚えさせる。
だが、
さっきの感覚。
時が止まるようなあの感覚。
それだけは再現できない。
再現できれば、
もっと速くなる。
そんな確信があった。
気づけば日はくれていた。
「良くなった。」
風間は頷く。
「見違えた」
肩を軽くたたかれる。
その言葉は重くのしかかる。
「君に課題を出す。」
風間の声。
空気が変わる。
「ロボット型ダミーと戦ってもらう。」
昨日の惨劇が頭をよぎる。
「どうやって“隙を作るか”考えてこい。」
渓人は黙って頷く。
部屋を出る。
背後で扉が閉まる。
その瞬間。
中から、かすかに声が漏れた。
「......例の遺品は」
西野の声。
渓人の頭。
痛みが走る。
耳鳴りがする。
「どう扱いますか」
言葉を選ぶような、わずかな躊躇。
「まだだ」
風間の声は低い。
「今は、触れさせるべきじゃない」
沈黙。
短いはずなのに、妙に長く感じる。
「......彼には」
再び、風間の声。
「__同じ道は歩ませない」
それ以上は、聞こえなかった。
時刻は18時、
腹が減っていることに気づく
しかし、頭の中はそれどころではない。
ロボットと戦う動きをイメージする。
斬る、避ける、入る、崩す。
いや......
斬る、避ける、離れる、狙い撃つ
これでもいいかもしれない。
無数の行動パターン。
頭の中を駆け巡る。
何度も何度も、
シュミレーションをかさねていく。
体は食堂へと向かっていた。
しかし、彼の頭の中は既に戦場であった。




