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WABE ~すべてを失った少年が終末世界に抗い続ける物語~  作者: terakoya-8
訓練生編

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3/11

Second 訓練生

 入江渓人は部屋を出た。


 昨日の出来事を理解できない。


 頭の中。

 無数の記憶。


 謎のロボット。

 黒い閃光

 刀を持った青年



 __現実味がない。



 同じような床。

 同じような壁。

 同じような照明。


 どれぐらい歩いたのかわからなくなる。

 視界がわずかに揺れる。焦点も合わなくなる。


 __意識が遠のきかける。



「入江君、大丈夫?」


 ハッとした。

 引き戻されたようだった。



「大丈夫です、多分......」


 震える声。

 自分でも自信がないとわかるほどに。


 

 西野愛梨は少しこちらに視線を向けた。

 少し歩調を落とす。


 

「もう少しだよ」



 やがて二人は立ち止まる。


 目の前。 


 黒いスライドドア。

 光沢のない金属。

 生体認証用の端末。


 西野愛梨は迷わず手をかざす。 


「登録情報を確認 名前:西野愛梨 年齢:15歳 入場を許可します。」


 無機質な合成音声による読み上げ。

 廊下をこだまする。



 __ガコン。

 ロックが外れる音。

 低いモーターの駆動音とともに扉が左右に開く。



 扉の中には部屋があった。

 廊下とは違う雰囲気が漂う。

 家具や機械などが並んでいる。


 中央にテーブルと椅子。


 奥には端末とモニター。


 壁には武器ラック。


 狙撃銃と散弾銃が、整然と並んでいる。



 そして―


 ガラス製のカプセル。


 人が一人入れる大きさ。

 内部は空。


 だが、

 どこか“使われた気配”があった。



 部屋の奥へと視線を移す。


 椅子に座る人影。どこか見覚えがある。


 意識を失う前に見た_謎の人物。






「失礼します、入江渓人を連れてきました」

 愛梨の声



 人影がゆっくりと立ち上がる。



「ありがとう、二人とも座ってくれ。」


 低く、落ち着いた声。

 3人は椅子に座る。

 大きなテーブルを囲むように。




「自己紹介を忘れていたね。」



 少し、間を置く。



風間俊英かざましゅんえい年齢は20歳だ。」



 視線がこちらを向く。



「君に伝えなければいけないことがある」



 表情が張り詰めていた。

 __嫌な予感がした。



 胸の奥がざわつく。



 渓人はポケットに手を入れる。

 手にはスマートフォンが握られている。



「......すみません。少しだけ」



 返事はなかった。だが、だれも止めようとはしなかった。



 発信ボタンを押す。


 呼び出し音。

 __ザーザッザーザー

 __ザッザッ 

 __ザッザーザッザー 

 混じるノイズ。


 言葉のような、違うような。


 すぐに通常のアナウンスに戻る。


「おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか......」



 出なかった。


 __まだだ。


 もう一回

 もう一回


 そして、

 もう一回


 回数だけが増えていく。



 誰も何も言わない。

 音だけが部屋に響き渡る。


 やがて、渓人は指を止めた。

 スマートフォンをポケットにしまう。



「入江君」


 風間の声。



「落ち着いて聞いてほしい。」



 息をのんだ



「昨日__2050年1月28日、東京が壊滅した。」


 突きつけられる現実。


 一拍。


「......君のご両親は、確認されている」



 世界が崩れ落ちる。

 音もなく、静かに。

 何も浮かばない。

 体の力だけが抜けていく。


 椅子から崩れ落ちる。



「......申し訳ない。」


 低い声。



「間に合わなかった」


 表情には悔しさが滲む。



 愛梨も何も言えない。


 沈黙が部屋を支配する。

 長い沈黙が続く。



 やがて、風間が手を差し出す。



「君のような思いをする人間をこれ以上増やさない」


 その言葉は強く、決意にあふれている。



「ゼロにする。それが、我々“プロジェクトWABE”の使命だ」


 手は差し出されたままだった。



「君にも協力してほしい」


 まっすぐな眼差しが渓人を見つめる。



「共に戦ってくれるか?」



 その手を見つめる。

 少しの間、ほんの数秒。


 しかし、

 長く感じた。



 その手を掴む。



「......やります」


 声が震えていた。



 それでも


「参加させてください!」


 決意が宿っている。

 さっきの震えた声がのよう。



 風間は頷く。


「やはり、そう言うと思っていた」



 渓人を引き揚げ、椅子に座らせる。



「では、確認だ」


 空気が一変する。



「これから起きることが、どれだけ過酷でも耐えられるか」



「はい」



「大切なものを捨ててでも、他人を守れるか」



「......はい」



「仲間を信じ、最後まで戦えるか」



「はい」



 迷いはなかった。

 風間は小さく息を吐いた。



「……十分だ」



「この質問にはどんな意味があるのですか?」

 渓人は問う。



「いずれわかる」


 回答はそれだけだった。



「手続きは私に任せて」


 空気を換えるように愛梨は微笑みかける。



「これからもよろしくね、後輩くん」



 書類が取り出される。分厚い。


 一枚一枚、ページをめくる。

 一行一行、内容を読み進める。


 そして、理解しようとする。



「…この特別編入試験って?」



「候補生同士で戦う」

 風間は答える。



「上位四名だけが、実戦に出られる」


 一瞬、息が止まった。

 現実が重くのしかかる。



 一秒、また一秒と時間が過ぎる。

 一枚、また一枚とページが減ってゆく。


 理解。

 疑問。

 覚悟。


 これらが積みあがっていく。



 最後のページ。

 署名欄。

 

 ペンを握る。

 紙とペンが触れる寸前、

 少し間を置く。


 だが、迷いはない。


 筆を進める。

 名前を書く。



 数十秒後。

 端末が生成される。


 まるで“現れた”かのように。

 腕時計型のデバイス。

 風間がそれを手渡す。



「これが君の証だ」



 重量は、軽い。

 だが、込められた意味は重い。


「今日はゆっくりしてくれ。」


 風間はそう言う。



「明日からが、本番だ」



 愛梨が手を振る。

 渓人も、小さく振り返した。



 扉が閉まる。一人になる。


 静かな廊下で端末のナビが点灯する。


 “食堂”の表示。



 もう、戻れないとわかっていた。


 それでも、歩いた。

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