First 全ての始まり
「作戦会議を始める。今回の標的は——日本だ。」
ざわめきが走る。
「は? ふざけんな。そんな国襲って何になる」
コークスが吐き捨てた。
「資源も戦利品も期待できない。合理的じゃないな」
ウィングが腕を組む。
空気が一気に荒れる。
——ドンッ!
「目先の利益もねえ戦いに意味なんてねえだろうが!」
ヌクレアが机を叩いた。
その瞬間。
「黙れ。」
低い一言で、すべてが止まる。
隊長クレフはゆっくりと視線を巡らせる。
「……正面から叩けば勝てる。お前たちの言う通りだ」
一拍。
「だが、それでは意味がない」
誰も口を開かない。
「今回の目的は__」
一瞬の間。
「“戦争遺構”の確保だ」
沈む空気。
誰も、すぐには反応しない。
コークスの眉が、わずかに動く。
「……それ、本気で言ってんのか」
低い声。
さっきまでとは違う。
笑いはない。
ウィングも口を閉じたまま動かない。
ヌクレアの手が、机から離れる。
クレフは答えない。
「存在は確認されている。座標は日本」
「起動条件は、まだ不明だ」
「まずはドロイドで調査する。——異論は?」
返事はない。
ペトロレウムだけがが小さくうなずく。
誰も何も言わない。
——逆らえない。
空気がそう言っている。
その日、空が歪んだ。
「なんだ_あれ…」
入江渓人は立ち止まる。
黒い影。
雨のように。
何体も。
「逃げろ! 落ちてくるぞ!」
誰かの叫び。
足音が弾ける。
渓人も走る。
その時、
__ドスン!
__ドスン!
連鎖する鈍い音。
揺れる地面。
目の前に、落ちた。
銀色の機体。
赤い光。
ゆっくりと、顔が上がる。
目が合った気がした。
両手には刃。
「自衛隊です! 離れてください!」
迷彩服の集団が駆け込む。
銃口が一斉に上がる。
「撃ち方、始め!」
自衛隊が応戦する。
_ドドドドドドドドッ
強い反動。
腕が引かれる。
飛び散る火花。
弾かれる弾丸。
「クソ、こいつら銃撃が効かねえ」
「砲撃部隊へ支援要請!総員伏せろ!」
_ドゴォォォォォォン!
えぐれる地面。
立地上る土煙。
その奥。
無数の赤い光。
__効いていない。
「こちら砲撃部隊応答せよ! 繰り返す応答せよ!」
「撤退だ! 直ちに撤退せよ!」
走る。
渓人も走る。
振り返る。
見てしまった。
赤。
どこまでも赤い景色。
塞がれている。
「伏せろ!」
その時だった。
_ズドォォォォォン!
_ガタガタ
戦車が到着する。
鉄の塊が並ぶ。
「目標、全歩のロボット!」
「装填、徹甲弾! 前線部隊も徹甲弾に切り替えろ!」
「入った!」
「撃て!」
_ズドォォォォォン!
_ドドドドドドドドッ
響き渡る轟音。
立ち上る煙
それでも。
出てくる。
何度でも。
何度でも。
__キリがない。
「処理が追いつきません!」
「砲弾が尽きました…」
燃え上がる空。
灼熱あるのみ。
気づけば、誰もいなかった。
「暑い…苦しい…」
歩く。
歩く。
足に何かが当たる。
建物のがれきか。
それとも、
考えるのをやめた。
蜃気楼が見える。
息を吸うごとに喉に焼けるような痛みが走る。
それでも、歩みを止めなかった。止まれば確実に死ぬ。
「これから、どうしよう…」
家はない
学校もない
帰る場所も居場所もない
__両親もいない
この事実だけが胸を貫く。
悲しいのかすらわからない。
空っぽの入れ物。
肌を焼く熱風。
__痛い。
目的地もなく歩き続ける。
ただひたすらに、
どのぐらい歩いたのか忘れるほどに。
__助けが来るかもしれない
都合の良すぎる希望。
だが、
最後の命綱。
もつれる足。
崩れるバランス。
反転する視界。
その時、
轟音。
崩れるがれき。
”それ”が現れた。
銀色の装甲。
赤い光。
ゆっくりと腕が上がる。
動けない。
武器もない
体力もない
__生きる理由なんてもうどこにもない
終わる。
そう思った。
だが。
__音が、消えた。
次の瞬間。
視界の端。
黒い“何か”が横切る。
風、ではない。
光、でもない。
音もなく駆け巡る。
——斬撃。
遅れて、音が追いついた。
__ズンッ
目の前のそれが、崩れる。
滑らかな断面。
__理解が、追いつかない。
一体だけじゃない。
背後で。
横で。
遠くで。
次々と、ロボットが“崩れていく”。
誰かが戦っている。
だが——見えない。
いや。
見えないのではない。
__速すぎる。
黒い影が、一瞬だけ視界に映る。
地面を蹴る音。
遅れて届く。
その動きは、人間のそれではなかった。
数秒。
気づけば何も動いていない。
流れる静寂。
焼けた空気の中。
人影。
ロボットの残骸の上。
黒い外套。
風に揺れる。
ゆっくりと、こちらを向く。
「……大丈夫か?」
静かな声。
返事ができない。
黒い刀。
何も、付いていない。
力が抜ける。
視界が、落ちる。
__返事は声にはならなかった。
力が抜け、視界は暗転し、地面に倒れこんだ。
光。
白い天井。
瞬きをする。
乾いた感触。
体を起こす。
不思議と動く。
傷は、ない。
「……ここは」
かすれた声。
「起きた?」
振り向く。
見覚えのある顔。
丸い眼鏡。
茶色く、短い髪。
西野愛理だった。
だが、
いつもとは違う制服。
スラックス。
シャツ。
ジャケット。
スカーフには”WABE”の文字
水が、差し出される。
「飲んで」
受け取る。
手が、落ち着いている。
周りと、違う。
「ここは……」
「大丈夫。ここは大丈夫だから」
静寂。
だが、引っかかる何か。
喉を通る水。
冷たい感触。
言葉が、引っかかる。
赤い光。
燃え上がる空
黒い閃光。
消えない。
「……あの人は」
少しの沈黙。
「……もうすぐ会えるよ」
西野の目が、わずかに逸れた。
彼女の手には”何か”が握られていた。




