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WABE ~すべてを失った少年が終末世界に抗い続ける物語~  作者: terakoya-8
WABE編

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23/28

Twenty-Second 前夜

 渓人は端末のメニュー表示を眺める。


 ”ビーフステーキ”


 食堂がざわめく。

「おい、牛肉出たことってあったか」


「今までそんなことないぞ」

 

 値段の表示に素早く目をやる。


(......普段通りの値段だ)


 券売機に近づき、時計型の端末をかざす。

 落ちてきた食券を拾って提供口へと向かった。


 適用口から肉の旨味が漂ってくる。


(いい匂い)


 食券を渡し、焼き上がりを待つ。

 木の土台に乗った鉄板がトレーに置かれた。 


 ナイフとフォークを取って乗せる。

 いつも通りの窓側席に向かい、腰を下ろした。


 サラダにコーンポタージュ、メインはステーキ。

 白米もついてくる。

 WABEでこんな食事が出たのは初めてだ。


「入江君、私だ」

 風間がトレーを持ってやってきた。


(いつもより、トーンが低い)


 「どうしたんですか?」

 すかさず風間に問いかけた。


「気にしないでくれ」

 風間は必死に口角を上げようとした。


 __笑顔の条件を満たすことはできなかった。


 二人は手を合わせ、ナイフとフォークを握る。

 渓人は切り取った肉を口へ運ぶ。


 染み出た肉汁が口の中で洪水を起こした。

 白米をすくって口へと運ぶ


「うまい」

 思わず声が漏れた。


「......そうか」


 それを聞いて、風間の顔を見つめる。

 浮かない表情であった。

 

 渓人はステーキを一切れ食べるごとに、顔を上げた。

 

 風間の表情は崩れない。

 頭が石膏の頭部像に置き換わったようだった。


 ステーキと白米を食べ終え、サラダに手をつける。


 シャキシャキとした歯ごたえが口を満たす。

 

 最後にコーンポタージュ。

 濃厚な味わいの中にほんのり甘さがある。

 疲れた身体に染み込んできた。


 風間を見つめる。

 顔だけではなく、全身が石膏になったようだった。

 

「......大丈夫ですか?」

 心配になり、問いかける。


「少し疲れているみたいだ」

 風間からの返事はそれだけだった。

 

「君も、休んだほうがいいんじゃないか?」

 間を置いて部屋に戻ることを勧める。


「......そうですね」

 渓人はトレーを持って返却口へと向かう。

 

 (何も分からずじまいだ)


 そのまま自室へと戻った。


 渓人は扉を開けて部屋の奥に飛び込む。

 そのままベットに腰を下ろした。


 その瞬間、強烈な眠気が渓人を地面に押し付けた。


(......体が重い)

 壁を伝いながら脱衣所へと向かい、脱いだ服を洗濯機に放り込んだ。

 ノブを握り、シャワーからお湯を引っ張る。


 疲れが水とともに排水溝に向けって流れ込む。

 シャンプーを取り、頭の上で泡立てる。

 シャワーで泡を流してゆっくりと息を吐いた。


 石鹼を取り、身体の汚れを洗い流す。

 そのまま、浴槽に浸かった。

 

「風間さん、何か隠してるよな」

 食堂でのやり取りを思い出す。


 あの笑顔に満たない笑顔が、頭から離れない。

 どこかいつもの冷静で余裕のある感じがしない。


 実験の疲れだけでは説明がつかない。


 食欲がないようにも見えた。


「何があったんだ」

 疑問が脳みそにしがみついて離れなかった。

  

 浴槽から立ち上がり、タオルで体を拭き上げる。

 部屋備え付けの寝巻に着替えてベットへ向かった。


「......長かった」

 そう言ってベットに横たわり、ゆっくり息を吐いた。

 時刻は19時30分を刺していた。


「まだ早いか」

 そういって時計型の端末に手をかける。


 "WABEデータベース 戦争遺跡"

 ホログラムに映し出される。


 ”組織内に現存する戦争遺構は神風刀(破片)、飛晶の2つである”

 目線を下にやる。


 ”戦争遺構の適合者のことをWABEと呼ぶ”

 

「この組織、分からないことだらけだ」

 ゆっくり息を吐く。


「意味の分からない文字列だけど」

 ゆっくりと目を閉じる。

  

「......何か意味があるのか?」

 そのまま眠りについた。

 

 一方その頃。


「戦争遺構の使用を再び検知」

 船内のモニターに警告が浮かぶ。


「今回も位置は分かりません」

 ウィングは落ち着いて報告する。


(......ん?)

 モニターに映った地図に向かい、眉をひそめた。


「ジャミングされていますがどこか規則性があります」

 それを聞いた一同の表情が崩れる。


「どこか分かるか」

 クレフがいつもより低いトーンで問いかける。


「まだわかりません」

 ウィングがキーボードをたたき、信号を追いかける。


 その時だった。

「ノイズが消えました」

 キーボードから手をどける。


「前回の攻撃目標地点です」

 ウィングは地図を指差す。


「各員、出撃準備を」

 クレフがゆっくりと立ち上がる。


「目標は戦争遺構の奪取」

 一人ずつ視線を送る。


「それが無理なら」

 武器を強く握る。


「可能な限り絶望を与えろ」

 クレフは自身の武器を見つめた。


「各隊員、直ちに起床せよ」

 時計型の端末が渓人をたたき起こした。

 出撃要請であった。


 時刻は8時を指していた。

 ベットから飛び上がり、寝巻を脱ぎ捨て、制服に着替える。

 

 何故か部屋の前に置かれていたプロテインバーを口に放り込む。


「一体何が始まるんだ」

 そのままエレベーターの場所に向かう。


 射出装置に両足を固定し、空を見上げる。

 暗く、曇った空が不吉な知らせを渓人に告げた。

 

 WABE編、完。

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