Twenty-First 遺品
背中からばねのきしむ音が聞こえる。
渓人は眼を開ける。
(眩しい)
蒼白いLEDの光が目を刺し、物の輪郭をかき乱した。
(......そういえば)
おもむろに時計型の端末に手をかける。
「......やっぱりな」
ふと、松本の言葉が頭をよぎった。
「このことは風間には言うな」
「そして、これは絶対に風間に見せるな」
渓人はベットから立ち上がり、扉を開ける。
(どこにあるんだ......)
渓人は思いつく限りのすべての場所を探した。
中央の机の上。
(無い)
武器ラックの裏。
(違う)
モニターの置かれた机。
(外れた)
「流石に目につく場所には置かないか」
そう言って部屋のクローゼットを開ける。
風間のジャケットだ。
(......もしかしたら)
あたりを見渡すが人の気配はない。
渓人はジャケットに手を突っ込む。
その時だった。
__ピシッ!
「入江君、正気か」
風間であった。
「あのフラッシュメモリが何を意味するか」
風間の声のトーンが一段と低くなる。
「分かっているのか?」
鋭い眼光が渓人の目を突き刺す。
「二本目の戦争遺構に関わる情報?」
少し考えたのち、そうとだけ答えた。
「正解だ」
風間は首を縦に振った。
「この中には」
風間は少し間を置く。
「先代適合者の残した情報が詰まっている」
ズボンのポケットから取り出したフラッシュメモリを指差した。
「......適合者の名は」
渓人は息を吞んだ。
「入江大成だ」
それを聞いた瞬間、渓人の黒目が震えた。
「......え?」
震えた声で問いかける。
「つまり父さんは」
渓人の目を視線で刺す。
「結晶侵食症候群で命を落とした」
風間はそう言って少しううむいた。
「戦争遺構の長期使用によるものだ」
フラッシュメモリを握りしめる。
「だから止めたんですね」
渓人の中で何かが腑に落ちた。
「......そうだ」
風間の目から涙がこぼれる。
「君の親父が最期にこう言っていたんだ」
シャツの袖で涙を拭き取る。
「”渓人を頼む”と」
顔を上げてそう言った。
「これが私なりの答えだ」
風間の視線はまっすぐだった。
そのままフラッシュメモリを持ち去ってしまった。
扉の閉まる音だけが部屋にこだました。
「何故松本さんが遺品を?」
渓人の頭の中は疑問符の洪水を起こしていた。
「松本、開けてくれ」
インターホンに話しかける。
「風間だ」
そう言ったと同時に扉が開く。
風間は急ぎ足で扉をくぐった。
「渓人、やっちまったか」
松本はため息をついて口角を上げる。
__ガッ!
「どういうことだ、説明しろ!」
胸ぐらを掴み、松本を問いただす。
「君は、管理区画に行ける人間を見落としている」
松本の口角は下がらない。
「私が行けなくたって、彼に頼めばいいんだ」
勝ち誇ったような表情は崩れない。
「そんな軽い話じゃねえんだよォ!」
風間は拳を握り、松本の顔面に突き付けた。
「まあ、落ち着けよ」
松本はすました様子で風間の腕を握った。
「もうすぐ彼とはお話しできるさ」
風間の端末を指さす。
端末に一軒の通知が届く。
「風間俊英。至急、指令室へ」
風間は部屋を飛び出した。
指令室入口の機械に端末をかざす。
「よく来た」
桜井が両手を組んだ状態で両肘を机に置いていた。
「なぜ、あの遺品を?」
風間は両手の拳を握りしめる。
「落ち着きたまえ」
ゆっくりと風間に語りかける。
「いまこの組織に必要なのは......」
少し間を取る。
「新たな”WABE”だ」
そう言って風間を見下ろす。
「何度言ったらわかるのだ」
首を傾げて問いかける。
「......でも」
風間の口角が僅かに上がる。
「私が2人目の”WABE”を連れてきたとしたら......」
そう言って、風間が顔を上げた。
「バカ言え」
そう言って桜井が口角を上げた時だった。
「初めまして」
桜井は息を呑む。
「神風勇人と申す」
そう言って小さく頭を下げた。
「なん......だと」
桜井の開いた口がふさがらない。
「これが、私なりの解答です」
指令の机に一枚の書類を叩きつける。
"タイフーン作戦"概要
「......」
指令は黙り込む。
「風間俊英」
書類から目を離し、唇をかみしめる。
「今回は、私の負けだ」
ひねり出したような声で言い放つ。
「だがな」
拳を握りしめる。
「失敗すれば次はない」
そう言って書類を机に置いた。
渓人は風間の部屋を出る。
「渓人、私が言いたいことわかるよね?」
とびらをくぐった瞬間、横から飛び出してきた。
「待って、待って」
慌ただしく時計型の端末を操作する。
「払うから」
渓人はホログラムとにらみ合った。
(......これだ)
請求額を送金しますか?
ホログラムを押すと、700円が通帳から引かれていた。
「次はないからね」
そう言って高見澤は歩き出した。
時計の針は18時を指していた。
「......食堂行くか」
そのままエレベーターに向かい、歩き出した。
(......疲れた)
初めての任務や外出。
そして、
__戦争遺構とフラッシュメモリ。
「この組織、一体何なんだ」
渓人の頭の中で疑問符の雨が降り続けた。
「でも、信じるしかない」
渓人にそれ以外の選択肢はなかった。
気づけばエレベーターの前であった。
ボタンを押し、到着を待つ。
扉が開くとともに前へ踏み出す。
渓人はブレずに床を踏み込んだ。




