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WABE ~すべてを失った少年が終末世界に抗い続ける物語~  作者: terakoya-8
WABE編

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17/18

Sixteenth 出撃

 翌朝、渓人が目を覚ます。

 時刻は7時を指していた。


「よく寝れた」

 身体は軽く、頭もスッキリした感覚。 

 試験での疲れが嘘のようだ。


 

 パジャマを脱ぎ、洗濯機へと放り込んだ。

 クローゼットに手をかける。

 中には、支給品のスーツがあった。


 傷や汚れのない純白のシャツ。

 黒く、しなやかな印象を与えるスラックス。

 立派なバックルを持った、合皮製のベルト。

 銀色のボタンのついた、黒く分厚いジャケット。


 そして、こう書かれた1枚のカード。

 "WABE隊員に支給されているスーツです"

 "行事の際に着用してください"

 

 集会には、これを着て来いと言うことだろう。

 そのまま、身支度を始めた。


 シャツ取り、羽織る。

 化学繊維の冷たい肌触りが、上半身を覆う。

 ボタンを下から止めていくたび、背筋が伸びる。


 スラックスを取り、片足ずつ脚を通す。

 しっかりと引き上げ、左右の生地を引き寄せる。

 ウエストのホックを留め、つなぎ合わせる。

 横からベルトを通し、バックルを引き締める。


 ジャケットを取り、肩にかける。

 右腕、左腕と順番に通し、襟を引いて整える。

 左右の生地を引き寄せ、ボタンを留める。

 ジャケットのラベルを掴み、下に引く。


 ゆっくりと息を吐くと同時に、肩が少し下がった。

 部屋のドアを開け、歩み出す。


 彼の立ち姿は、14歳のそれではなかった。



 薄暗く、無機質ないつもの廊下を進む。

 長い廊下に響くのは靴が地面をたたく音のみ。 

 

 生活感や人の息遣いが感じられない空間。

 冷たい感触が肌をなぞる。

 思わず、歩きながら周りを見渡す。

 

 ボタンを押し、エレベーターを待つ。

 普段より、多くの機械音が響く。


 扉が開き、エレベーターに乗り込む。


「......おはよう」

 隣には、高見澤の姿があった。


「おはよう」

 高見澤を見つめ、返事をする。

 だが、彼女はそっぽ向いている。


 エレベーターの扉が閉まり、動き出す。

 

 突然、彼女の口が開いた。


「なんで、私は負けたの?」

 

 彼は、昨日の試験を振り返る。

 "深く息を吸い、相手に意識を集中させる"。


 その瞬間、

 時間の流れが停滞し、道筋が浮かび上がる。


 いつも、そうだった。

 だが、

 彼も何故そうなるのかは理解できずにいた。

 

 

「......分からない」


「僕も、なんで勝てたか分からないんだ」

 これが、答えだった。

 彼女の求めている回答ではない。

 だが、これ以上の物が思いつかなかった。


「意味わかんない」

 彼女はぶっきらぼうな口調でそう返した。 

 しかめた顔でエレベーターを後にする。


 もう、最上階についていた。



 彼はエレベーターから飛び出す。

 降りた先に、高見澤の姿はもう無かった。


 西側の通路を進み、大訓練室へと向かう。

 同じような服装の隊員が同じ場所へと歩いている。

 


 自動ドアをくぐると、そこには広い空間があった。

 

 未来都を映す、巨大な窓が隊員たちを出迎える。


 窓前のステージに見知らぬ人影がある。

 


 白銀の髪が、積んできた経験を物語る。

 見上げるほど高い背丈と、大きな背中。

 落ち着い佇まいで、窓の外を見つめている。


 窓に映る姿を見つめ、スーツのラベルを掴む。

 そのまま腕を落した。


 隊員たちがステージを向き、整列する。


「ほら、こっち!」

 高見澤が腕を伸ばし手招く。


 急いで招かれた方向に向かう。

 

「諸君、まずは入隊おめでとう」


「プロジェクトWABE、総司令官の桜井孝義さくらいたかよしだ」

 落ち着いた様子で続ける。

 

「私からは二つだけだ」



「1つ目、ここでの生活は過酷なものかもしれない」


「だが、決してあきらめるな」


「そうすれば、突破口が姿を現す」

 

 

「2つ目、これから起こることはすべて現実だ」


「何があろうと、自身の目を疑うな」


「私からは以上だ」


 口角を上げず、ゆったりとした口調で話し切った。

 突然、桜井と目が合う。

 彼は表情一つ崩さなかった。

 

 アナウンスが入る。

「新規訓練生は、武器庫へ 新規正規隊員はこの場に残ってください」


 大訓練室に残ったのは入江渓人いりえけいと高見澤光たかみざわひかり川崎隆二かわさきりゅうじ、アントニー・トルー

 試験を勝ち抜いた4人の精鋭。


「君たちには、早速任務に出てもらう」

 

「侵攻の被害を受けた区域のパトロールだ」


「ついてこい」

 そう言って、歩き出す。

 

 案内されたのはエレベーターの前だった。

 桜井が操作盤のふたを開ける。

 手慣れた様子で中身をいじる。


 機械の動作音が響き始める。

 エレベーターの扉が回り、裏に隠れる。

 重厚な金属製の床が上がってくる。

 空気が急激に抜ける音とともに、床が固定される。

 

 

 すると、アナウンスが流れた。

「射出モード、準備完了」



「入りたまえ」

 4人はそのまま、エレベーターに乗り込んだ。

 乗り込むと同時に扉が閉まる。

 

「射出まで、あと5秒」

 アナウンスが流れる。


「5......4......3......2......1......0」

 

 その瞬間、地面が勢いよくつき上がる。

 打ち出されたポットが放物線を描き、空を舞う。

 

 窓の外、荒れた東京が姿を現す。


 これから初任務が始まる。

 渓人は拳を強く握った。


 "やってやるんだ"

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