Fifteenth 予兆
目覚めた時、目の前にはガラス板が塞いでいた。
カプセルの中であった。
次の瞬間、
板が、横へとずれる。
__プシュー!
音を立て、勢いよく空気が噴き出す。
渓人はカプセルから身を乗り出し、地面を踏む。
「......良かった」
西野の声だった。
その声を聴いて、思わず息を吐いた。
「......何度もこうなっちゃって、すみません」
渓人の目線は、下を向いていた。
口角がうまく上がらない。
目覚めてすぐ、廊下でくらついた時。
藤原との決闘後、頭痛で倒れた時。
そして、今回も。
(......助けられっぱなしだ)
その時、
突然、西野が渓人の頬を両手で挟む。
そして、顔を正面へと向ける。
「はいはい、そんな顔しないの」
渓人の口角を無理やり持ち上げる。
「やめてくださいよ!」
そう言って、西野の腕を掴み、歯を食いしばる。
「分かった、やめるから」
そういって、頬から手を放す。
渓人も、力を緩める。
「風間さんも心配してたよ」
しかし、風間の姿は見当たらない。
「風間さんは?」
「今、実験で忙しいみたい」
どうやら、数日実験区画で寝泊まりするらしい。
(......どんな実験なんだ)
数日もかけて行う実験。
想像もつかなかった。
「あと、合格おめでとう」
西野は口角を上げ、微笑む。
「ありがとうございます」
渓人は軽く頭を下げた。
「今日は、休んだら?」
彼女はそう言って、彼を送り出した。
廊下は相変わらずの様子だった。
踏み入った瞬間、冷たい空気に飲み込まれる。
この感覚にも慣れてきた。
エレベーター目指して廊下を進む。
廊下の反対側に、見覚えのある人影。
一歩ずつ、近づいてくる。
後ろで長く結ばれた髪。
小柄な体型。
華奢で細い両腕。
試験中の威圧感は感じられなかった。
偶然、目が合う。
高見澤は目を細め、渓人を睨みつける。
「......」
「......」
お互いの足音だけが、廊下にこだまする。
段々と遠くなっていく。
気づけば、彼女の姿は遠くへ消えていた。
渓人はエレベーターのボタンに触れる。
目的地は地上2階。
扉が開く。
中には、誰もいない。
彼は乗り込み、2階のボタンを押す。
エレベーターが動き出す。
その時だった。
何か、語りかけてくる声が聞こえる。
「誰かが受け入れなければならない」
それと同時に、
激しい頭痛が走る。
「......うっ」
ぼんやりと何かが見える。
水平線が見える、広い空間。
水が張った地面が延々と続いている。
目の前には、"日時計"。
空には、昇っている。
日時計からは、青白い線が走る。
終わりが見えないほど、長い。
”この空間を二分”するような線。
一定周期で脈打ち、光を放つ。
日時計に隣に、誰かが立っている。
濃紺色の破れた外套が左右に揺れる。
空中を舞う無数の青い剣が背後に見える。
金属製の防具から、蒼白い結晶が顔を出す。
防具からだけではない。
体の各部からも顔を出している。
目は青白く光っていた。
人間とはかけ離れた姿がそこにある。
”其れ”は渓人に指を向けた。
__シュバッ!
一本の剣が渓人の腹部を貫く。
「ハッ!」
エレベーターの中だった。
周りには、誰もいない。
気づけば、エレベーターの扉が開いていた。
渓人は、歩き出す。
(......何なんだ、今のは)
先ほどの光景が、頭に焼き付く。
指先に冷気が走り、青白い光を放った。
一瞬のことだった。
__だが、
どこか、他人事ではないような気がした。
一方、
地下四階、実験区画。
巨大なスクリーンに映像が映し出される。
緑色に発行する目が相手を照らす。
頬を緑色の結晶が突き破る。
手には、刀のようなものが握られている。
結晶を直接削り出したような刃が付いている。
黒い外套を身に纏う。
対峙するは、二本のブレードを持ったロボット。
関節部には、潤滑油の塗られたむき出しの歯車。
歯車が回り、前へと歩き出す。
卵型の頭部から、針金のようなアンテナが伸びる。
頭部の窓から赤い結晶が見える。
赤い光が正面を照らす。
両者、同時に前に出る。
次の瞬間、
勇人の刃、頬の結晶、目が緑色に発光する。
横へ薙ぎ払うと同時に、斬撃が飛ぶ。
__スッ。
ロボットの頭部が滑り落ちる。
__ドーン!
大きな音が空気を揺らす。
辺りには、同じロボット。
一体が背後へ回り、彼の刃を狙う。
ロボットのブレードが落ちてくる。
__バキッ!
彼の刃が割れる。
だが、
彼の刃、頬の結晶、目が緑色に発光する。
同時に、新たな刀身が生えてくる。
応えるように頬の結晶が伸びる。
もう一度、薙ぎ払う。
素早く、コンパクトに、最短経路をなぞる。
__ドドドドドドドドドン!
爆発音が四方八方から鳴り響く。
ロボットの数が減っていく。
「これが......神風勇人か」
スクリーンを見つめるは、風間俊英。
同じ、黒い外套を身に纏う。
「......圧倒的だ」
今、”プロジェクトWABE”に必要なもの。
絶対的な戦う司令塔。
前線で士気を高め、敵を蹴散らす。
それが、彼なりの答えだった。
「私はWABEにはなれない」
「だが、」
「やれることは、ある」
彼は、武器を握りしめる。
「思いついたなら、やるまでだ」
渓人は自室へと戻り、ベットに倒れ込んだ。
そのとき、
時計型の端末に一件の通知。
「明日の朝8時、新規入隊した隊員は最上階、大訓練室へ集まること」
(明日は、早起きしないとな)
試験で疲れたに鞭を打ち、身支度を始めた。




