thirteenth 違和感
__ドン!
強い踏み込み。
えぐれる地面。
先に動いたのは、
高見澤。
重量級。
だが、
速い。
重さを感じさせない動き。
加速する。
距離が縮む。
巨大なブレード。
振り上げられる。
圧を感じる。
まだ届かない。
だが、
確実にわかる。
"受けてはいけない"。
ブレードを強く握る。
だが、
渓人は屈しない。
下がらない。
ブレードが振ってくる。
__ズガァン!!
砕ける地面。
揺れるフィールド。
舞い上がる破片。
渓人は、
直撃を免れる。
わずかに右へ。
「避けた!?」
「ありえない......」
どよめく観客席。
渓人のすぐ横には、
刃。
左数センチ。
紙一重。
渓人は、
そのまま前へ。
チェイサーを構える。
前に踏み込む。
腕を振り上げる。
真っ直ぐな視線。
迷いのない動き。
間合いを詰める。
最短経路で。
腕を振る。
__ザシン!
金属音。
手応えは浅い。
だが、
耐久値を削る。
「削ったぞ!」
「あんなに近くで......」
観客席の空気が変わる。
高見澤のブレード。
まだ上がっていない。
もう一撃。
背後から。
しっかりと踏み込む。
足を引きつける。
たが、
高見澤が振り返る。
次の瞬間、
目の前にはブレード。
常識外れの速度。
薙ぎ払う動き。
__ゴォォッ!!
暴風。
渓人はブレードを前へ出す。
左手を添える。
両腕を曲げ、
傾ける。
咄嗟に。
素早く。
流す構え。
だが、
__ガァン!!
走る衝撃。
痺れる身体。
いなしきれない。
吹き飛ばされる。
後ろへ滑る。
視界の端。
耐久値の表示。
“88%”
たった一撃。
だが、
威力が違う。
(......重い)
根本が違う。
一撃の重み。
そして、
圧。
藤原とも。
アントニーとも。
高見澤はブレていない。
小柄な体型。
だが、
振り回されない。
コントロールしている。
全身で。
高見澤は、追ってこない。
ブレードを前に出す。
下に向ける。
ずっしりとした構え。
来るのを待っている。
前の試合、
ブレードに当たる弾丸。
吸い込まれる。
そして、
光る。
同じ構え。
“壁”。
突破不能の、巨大な壁。
だが、
渓人は、動じない。
呼吸を整える。
意識を集中させる。
見える。
重心。
踏み込み。
筋肉の動き。
ブレードの軌道。
そして、
気づく。
誰よりも先に。
彼女はまだ、”本気”じゃない。
思い出す。
風間の指導を。
(......違う)
教わった姿勢と比べる。
本来なら、
もっと床を踏み抜ける。
もっと前へ重心を流せる。
なのに、
そうしていない。
さっきの試合も......
振り切っていない。
直前で止めていた。
だから、床が壊れていない。
だから、防具が砕けていない。
もし、本当に全力なら。
(......今ので、終わる)
そじて、
高見沢の呼吸。
乱れていない。
肩も上がっていない。
筋肉の硬直もない。
“消耗”が見えない。
まるで。
準備運動。
(まだ、上がある)
観客席は気づいていない。
圧倒的な威力。
凄まじい衝撃。
それだけで、“本気”だと思わされる。
高見沢は、“制御している”。
しかし、
その理由がわからない。
本当は、
一撃で終わらせるタイプじゃないのか?
それとも、
相手を見るための手加減?
はたまた、
最高出力を出すためのお膳立て?
頭をめぐる考え。
だが、
どれも違う。
高見澤の様子が語る。
まっすぐな視線。
落ち着いた呼吸。
集中している。
油断した様子ではない。
気を抜いているわけでもない。
でも、
本気じゃない。
まるで。
“何か”を警戒している。
その瞬間。
高見沢が、わずかにブレードを傾ける。
ほんの数センチ。
だが。
空気が、変わる。
__ゾワッ。
本能が、粟立つ。
感じる危険。
さっきまでとは、比較にならない。
観客席も気づく。
ざわめきが、止まる。
誰も喋らない。
何が変わったのか、説明できない。
だが。
“触れてはいけない何か”。
今そこにある。
高見沢は、動かない。
ただ。
こちらを見ている。
静かに。
試すように。
見極めるように。
その視線を受けた瞬間。
渓人は、理解する。
(......違う)
高見沢は、手加減しているんじゃない。
“調整している”
崩れないように。
壊れないように。
このフィールドを。
この防具を。
__そして
彼女自身を。
一方、
地下四階。
振り切れるメーター。
__ビーーッ!
鳴り響く警告音。
「まずいな......」
風間俊英。
モニターを眺める。
眉間にしわが寄る。
画面には、
適合率の表示。
”20%”
__ガチャン。
後ろから、解錠音。
「風間隊員、私だ」
「桜井孝義だ」
プロジェクトWABE、総司令官。
この組織の、”司令塔”。
銀色の髪。
太い眉。
高い背丈。
落ち着い佇まい。
積んできた経験、
見た目にも表れる。
「入江渓人の件できた」
真剣な表情。
風間は覚悟を決める。
「彼には、まだ早い」
立ち向かう。
強く握られた拳。
「風間隊員、落ち着きたまえ」
落ち着いた声。
そのまま続ける。
「いま、プロジェクトWABEに必要なもの」
「君が、一番わかっているはずだ」
「でも、あの隊員は......」
風間は思い出す。
一人の隊員を。
構造化した臓器。
欠けた人間性。
我を忘れて、戦う姿。
苦しみながら、戦う姿。
人間とは、
かけ離れた何か。
そして、
最後には......
「だからこそだ」
桜井の声。
力強い。
「誰かが、受け入れなければならない」
桜井は語る。
そして、
部屋を後にする。
最近の出来事。
不可解な現象。
思い出す。
時間が止まる。
停滞する。
滞留する。
異常現象。
戦争遺構由来の。
誰かが受け入れれば、
収まる。
しかし、
誰かが受け入れれば、
もう、
後戻りはできない。
(また、繰り返すのか......)
風間は、
モニターへ視線を戻す。
“20%”
その数字を、
睨みつける。




