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陽だまりを探して  作者: 高瀬海之
呼吸(いき)はまだ続いている

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3/7

前篇













 無事貴族学院を卒業し、当主補佐の仕事をすることになったケインは暖かな太陽の光の差し込む窓の下、覚えたばかりの紙巻き煙草をくゆらせながら、休日の一時を過ごしていた。

 別に暇を持て余しているわけではなく、ゆったりとした時間の流れを楽しんでいたのだが、その静寂は予定にない来訪者によってかき乱された。

 お客様がお待ちですと、応接間に呼び出されたケインを待っていたのは、一人の女性。


「ごきげんよう、ケイン」


 やってきたケインをにこりともせずに迎えたのは、元同級生のウェーバー侯爵令嬢アイリス。

 未婚令嬢らしくなくしっかり編み込まれた栗色の髪の乱れのなさは、年齢以上に彼女を大人びて見えさせ、つり上がった切れ長の目尻がその雰囲気を更に強くする。

 まるで厳格な教師に出会ったような心持ちにさせられた。

 キリッとした表情で待っていた彼女は、近づいたケインのまとう香りを嗅ぎつけてはっきり顔をしかめた。煙が直接かかったわけでもないのに、何かを払う仕草をするから、ケインも無意味に服を払う仕草をしてから、向かいのソファーに腰を下ろした。


「今日はどうしたんだ?」

「別に貴方に用はないのよ。小母様に用があって来たのだけれど、帰る前に最後に息子にも会っていってと頼まれてしまって、仕方なく」

「母上に?」

「息子が随分落ち込んでいるからせめて顔だけでも、と哀しい顔で頼まれたら断れないわ」


 貴方、私に会えなくなって淋しいの? と馬鹿にしたように聞かれて、今度はケインが顔をしかめる。つい感情がむき出しになった顔を隠すため、アイリスから視線を外して、窓を少し空かすようメイドに指示した。

 少し冷たい風が一陣、部屋に吹き込む。


「悪いな、オレが誤解させた」

「あら、あの案採用したの」

「ああ。うちの家族はみんな、オレは君に焦がれてるのに、すげなく振られたと思ってる」

「……しようのない男ね」


 クスクス笑ったアイリスは、誇らしげに一人がけのソファーの肘掛けに両腕を広げて乗せ胸を反らせた。他人の家で随分偉そうにする友人の、以前と全く変わらない様が懐かしくて……苦笑したケインは入り口近くにいるメイドにお茶の用意を頼んでから、寛ぐ体制で椅子に座り直した。

 足を組んで身体を斜めにしながら肘掛けに肘を突き、拳に顎を乗せてもたれかかっただらしない姿勢で、話の続きを促す。


「母上に何か用が?」

「シェリスの輿入れ時期が決まったのは知っていて?」

「いや……でも、そうか。それで母上に」


 ケインの義母である伯爵夫人は、元は外国の侯爵令嬢だった。

 そして今度その国に、この国の第一王女シェリスが降嫁する。アイリスは王女の侍女として追従することが決まっているから、義母に向こうの生活の詳しい話を聞きに来たと言った。


「シェリスについて行ったら、もうこの国に戻ってくることはないと思う」

「……そうか、念願叶って良かったな」


 祝われてはにかんで笑うアイリスは、とても幸せそうで、とても綺麗だ。

 シェリス、と臣下のアイリスが王女を呼び捨てるのは、アイリスの母が王妃の妹で、二人が従姉妹だから。同い年の二人は、幼い頃から随分と仲良く育ったと聞いている。

 事実、貴族学院にいたときの二人は実の姉妹のように親しく見えた。

 その頃を思い出すように目を細めると、同時に思い出す。


 取り残されたように二人きりになった夕暮れの教室で、熟れた太陽を背負って迫ってきた緑の瞳を……。




『ねえ、メイフィール伯爵令息……いいえ、ケイン様。私と取引しない? 私にはどうしても叶えたい夢がある、それに協力して欲しいの。代わりに私は……、生涯貴方の共犯者(とも)として、永遠に貴方の秘密をこの胸の中に留めておくと約束するわ』




 夕日に炙られ熟れた果実のように赤く染まったアイリスの緑の目は、ケインの黒い瞳を真っ直ぐ刺し貫き。

 潜めた声でほのめかされた言葉はまだ若かったケインを激しく動揺させた。


 秘密。

 真っ先に思い浮かんだのは自身が抱えている暴かれてはならない想いについて。

 幼い日に義母に警戒されて以来、誰にも見抜かれたことのなかったのに、まさか気付かれた?


 必死に動揺を隠そうと瞬きを繰り返すケインに薄く笑い、アイリスはとどめを刺すように、あんな目で妹を見てはダメよ……と小さく囁いた。

 その瞬間、ドッと心臓の音が大きくなって、だらだらと背中を冷や汗が流れていく。本当にすべてばれているのだと知って、頭が真っ白になった。


 あんな目とはどんな目?

 そんなに判りやすく、オレはキャサリンを求めてる?

 もしや、オレが知らないだけで、もうみんな、オレの気持ちを知っている?

 もしそうだとしたらっ……。


 悲観的な未来が凄い速度で頭を巡り、キャサリン以外の家族、父や義母、両祖父母……果ては仲の良い使用人や、友人の顔が次々浮かぶ。

 力を失って床に座り込み、は、は、と短い息を吐き出すばかりになったケインに向けて身を屈めたアイリスは、労るように肩を撫でて、安心して……と潜めた声で告げる。


『私が気付いたのはたまたまよ。貴方の、兄の演技は完璧だった。でも、抑えきれずに隙間から零れ出てしまったものを、偶然私が見てしまっただけ。……大丈夫、私以外、まだ、誰も知らないわ』


 潜めた声の慰めに一瞬ホッとしかけた。けれどすぐに、気付く。

 最後に、一言一言を区切って囁いた彼女の真意。

 まだ……と、未来の不確定さを仄めかす女の顔を見上げ、その目に狡猾な光が宿っているのを確認した。

 負けを自覚して、ケインは悔しさに唇を噛みしめる。既に醜態をさらした後、今更知らぬ存ぜぬは通じない。彼女の仕掛けがあまりにも鮮やかで、何も取り繕うことが出来なかった。


 彼女はもうケインの気持ちを確信している。


 もしそれを面白おかしく暴露されたら、キャサリンは、家は……どうなる? どう転んでも、メイフィール伯爵家が無傷でいることは出来ない。


 兄妹の背徳的な恋情とされても、義母とキャサリンの事情を暴かれても、キャサリンは傷つく。オレが迂闊だったために!!


 己の未熟さに奥歯が砕けるほど歯を食いしばって、アイリスを見上げる。否、それはもう睨みつけているのと変わらない眼光の鋭さで……睨む目を真面に見つめ返したアイリスは深く頷くと、ずっと太腿の上で握りしめられていたケインの拳を柔らかな白い手で包むように重ね、言った。


『本当に妹君が大切なのね……ケイン様は。すぐには信じていただけないでしょうけれど、私は貴方のことも妹君のことも傷つけるつもりはない。だからどうか、私に協力して』


 脅しておいてどの口が! 思わず滲んだ反発心をも包み込むように、アイリスは包んだ拳を掴む指に力を込めて、真っ直ぐな目で条件を告げた。



 ケインの想いを誰にも漏らさない代わり。

 貴族学院在学の間、特別親しい友人を演じて欲しい。

 休み時間、放課後、学生としての節度を保って、でも特別に。

 互いに想いがあるように振る舞って。



 それがアイリスの出した条件。


『どうせ貴方、すぐに婚約者を作るつもり……いいえ、他の女に目を向けることなんて出来ないでしょう。なら、私の提案は貴方にとっても悪い取引じゃないはず。私を隠れ蓑に、貴方は納得いくまでその想いを抱えていて良いの』


 代わりに私に協力して……メリットを説くアイリスの必死さに、過った疑念。

 想う相手を他に置きながら恋人のように振る舞う男をそばに置く君のメリットは?


 問うたケインに、アイリスは待ってましたとばかりに生き生きとした表情で夢を語った。

 人生を賭けた壮大な夢。

 その実現のためには時間がいくらあっても足りないのに、貴重な学生時代の学びの時間を、理解のない人間に拘(かかずら)って無駄にしたくない。事情を知っているケインが婚約者候補のフリをしてくれたらそれだけで、彼女は学びたいことに時間を割けるようになる。


『お互いに良い取引じゃない? 私がいれば貴方は愛せもしない女を急いで婚約者に迎える必要がなくなって、私は勝手に嫁ぎ先を用意しようとする家族を気にせずに勉強に打ち込める』


 良いことずくめでしょう? どう? と目を輝かせて聞いてくるアイリスの迫力に飲まれて、つい聞いた。


『……それ、卒業後はどうなるんだ?』

『ああ、そうね……薄情にも私は恋人より夢を選んで異国に渡り、貴方はそんな私を忘れられない……なんてどう? しばらく婚約者を作らない理由にはなるのではなくて?』


 と無責任に笑った彼女の提案を断ることは出来なかった。

 そもそもケインは弱みを握られている身。拒否すれば破滅しかない。

 脅されて結んだ契約は、しかし、想像以上にケインを楽にした。

 大抵の貴族家の跡取りは、十三歳で入学する貴族学院に通う前に婚約者がいるのが当たり前の世相、フリーのケインはあぶれたくない女子の格好の的だった。

 しかし、未来の伯爵夫人の座を狙う見知らぬ貴族の娘たちから送られていた秋波が、アイリスを隣に置くことでピタリと途絶えた。


 六年にも及ぶ長い学生生活を、穏やかにおくれたのはアイリスの発案のおかげ。


 脅迫という物騒なきっかけで出会った女性(ひと)は、その悪辣な手法に似合わぬ、幼い日にただ一つと決めた願いのために邁進出来る純粋な人だった。

 長い時間恋人のフリをして過ごした女(ひと)を眺め、ケインは知らず頬を緩める。


「そうだ。ねぇ見て、このドレス。シェリスが私に作ってくれたの。似合う?」


 わざわざ立ち上がってくるりとその場でターンしたアイリスは、さっきまでの厳しい表情が嘘のように笑って聞く。

 詰め襟の深い緑色のドレスは若い娘の纏うものとしては落ち着きすぎている感もあるが、シンプルなデザインが厳格そうな雰囲気のアイリスにはよく似合っていた。

 一見深い森の色は、くるりと回って光を受けると、鮮やかに輝いて、日の光を受け止める優しい色に変化する。

 アイリスの瞳の色と同じだ。


「よく似合ってる」


 思ったまま告げれば、うふふと子どものように笑ったアイリスは嬉しそうにソファーに座り直す。


「この色はね、温かい緑の色なんですって。暗い、地面に陽の光も届かない鬱蒼とした森林の冷たい緑じゃなくて……温かい、葉の間から木漏れ日の差す森の、冷えきった身体も心も暖めてくれる陽だまりの、私だけの色だってシェリスが選んでくれたの。……ありがとうケイン、貴方のおかげで私は夢を叶えられた」


 照れもなく言って深く頭を下げたアイリスが眩しくて、瞳を細める。

 良かった……とケインも心から思った。


 鬱蒼とした冷たい緑の森の中見つけた、木漏れ日の暖める陽だまりに力を貰って、振り返らずに森から駆けだしていく少女の幻が見え……喜びが自然と声になった。


「オレも、君が幸せになる手伝いが出来て良かったと心から思うよ」


 アイリスは、ありがとうともう一度言って、うふふと嬉しそうに口元を隠してまた笑う。学生時代、そうやって笑ったときだけアイリスの張り詰めた雰囲気が少し和らいで、年相応の幼さを感じ、何度か可愛いと思ったことを思い出した。


 そう、本来のアイリスは可愛い女性なのだ。

 特別厳しいわけでも、冷たいわけでもない。

 どこにでもいる普通の、年相応の少女だった。


 けれど学生時代、彼女がそんな本性を現せた相手は、ケインとシェリスの前でだけ。

 他の誰に聞いても、アイリスは厳格で冷酷な、孤高の才女だったと答えるだろう。

 それほどの二面性を彼女が持つに至った事情に関係するのが、冷たい緑色の話。


 あれは、アイリスの家族に唯一共通する色のことだ。


 家族全員同じ色を持っているのに、何故かアイリスの家族はアイリスだけを愛さなかったそうだ。否、本当に愛がなかったのかは知らない。社交界で時折伝え聞くような、酷い体罰や差別を家族や使用人から受けていたわけではない。

 ただ彼女の両親は、アイリスに無関心だっただけ。

 深い緑の瞳は、ただただアイリスの兄妹にだけ向けられ、何をしても両親の目が愛情を込めて自分を見ることはなかったと、かつて彼女は語った。


 侯爵家の跡取りとして育った父侯爵は同じく跡取りの兄を、王妃を輩出した公爵家から嫁いできた母は自身に生き写しの末子の妹を、それぞれ可愛がり、中子(なかご)のアイリスはどちらにも放っておかれたのだという。

 侯爵家の娘として大切にされながらも、実の両親から冷遇されるちぐはぐな環境は幼いアイリスを歪ませるに充分だった。


 そしていつしか、愛されないのは、認められないのは、全部自分が悪いからだと思うようになっていた。

 兄なら何をしても褒める父が、自分の家庭教師の評価を聞いてを顔を顰めるのも。

 妹ならどんな拙い刺繍を見せても優しい微笑みを見せる母が、アイリスには微かに茶器が音を立てただけで、失望の溜め息を大きく零して顔を顰めるのも。

 すべて、自分が至らないから。

 だから、構われない。

 だから、愛されない。


 悪いのは私。私のすべて悪い!!


 ならば、努力すれば変わると思った。

 兄のように父親を喜ばせようと必死に学んだし、妹のように母に褒められたくて手本のような淑女を目指した。



 でもアイリスが何をしても、誰も何も変わらなかった。



 結局今では、母と妹には、これ見よがしな様が浅ましい嫌な女、意地の悪い姉だと蛇蝎のごとく嫌われているし、父と兄からも、どんなに優秀な成績を残そうと、所詮嫁に行くしかない女のくせに。賢しい女など婚家でも嫌われると、苦言を呈されていると学生時代に遠い目をして言っていた。



 そんなアイリスを正しく導いてくれたのが、同い年の従姉妹の王女シェリスと伯母である王妃。



 アイリスは、従姉妹という親(ちか)しさの縁で、十歳になる前に王女の遊び相手に選ばれた。

 その頃には既に愛されない事実に歪んで卑屈になっていたアイリスを、でもシェリスと王妃は嫌わなかった。それどころか、兄のように父に褒められたい、妹のように母に構われたいという下心で身につけただけの知識や所作を二人は手放して褒めてくれた。


 私、その日初めて人から褒められたのよ、とアイリスは淋しそうに笑った。


 それから会いに行くたび、二人はキラキラした笑顔でアイリスを出迎えてくれて……会えて嬉しい、一緒にいられて楽しいと、共に過ごす時間を喜んでくれた。

 あの時間がなければ、アイリスはとっくの昔に、生きること自体を諦めていただろう。

 それほどに、当時のアイリスの心は淋しさで凍えていて、冷えて乾いて、今にも粉々になりそうだった。家族の態度に傷つき、もう壊れると思う度、二人の言葉と笑顔で心を慰め温めて、何度も踏みとどまったという。


 多分伯母は自身の妹夫婦による長女への仕打ちに気付いて、アイリスをシェリスの遊び相手に選んだのだろう。そのことに思い至ったのは随分後になってからだったけれど……他人事と放置せずに手を差し伸べてくれた人の恩に報いたいのだとアイリスは言った。


 かつて王妃は、幼いアイリスに向けて言ったそうだ。


 残念ながら王妃といえど、他家の娘を好き勝手に出来るような権力があるわけではない。そんな横暴な権力者に自分はなれない。だから姪といえど、今すぐアイリスを取り巻く環境を変えてやる約束をすることも、悔しいが出来ない。

 けれど……王妃として、アイリスの未来に一つ選択肢を増やすことが出来る。

 シェリスは王女として他国へ嫁ぐことが生まれてすぐから決まっている。遠く簡単に会えぬ場所へ娘をやってしまうことはもう決まっていて覆らない。

 そのとき、親心として、故郷の友を追従に加えるくらいの力はある。

 アイリスがその気になったならば、必ず一緒に国から出してあげる。そのときは、侯爵家にも妹にも文句は言わせない。


 考えてみてと小さな手に重ねられた温もりを感じながらシェリスと見つめ合って、アイリスは未来を決めたのだという。

 初めて寂しさに寄り添ってくれた人が自分を救うために示してくれた道。何を迷うことがあるだろう。

 一瞬の逡巡もなく、重ねられた手を握り返してアイリスは自分の行く道を決めた。




『私は、私を生かしてくれたシェリスと王妃様の恩に報いたい』




 強く決意したアイリスは、しかし、だからといって王妃の権力や王女の友誼にただ頼ってついて行くつもりはなく。誰にも文句を言わせない実力でその座を勝ち取ろうと決めた。

 そのために勉強の時間はいくらあっても足りないのに……貴族学院入学以降、今更のように、両親が生活に口を出してくるようになって鬱陶しい。

 それも別に情があってのことではない。卒業後、侯爵家の娘として嫁に出すためのもの。こちらの都合も考えずに見合いめいた茶会や音楽会に引っ張り回されるのが煩わしい。

 しかし、シェリスや王妃を理由に断るのにも限度がある。でも学院で、それなりの家格のそれなりの相手と噂になれば、とりあえずは家の意向を牽制出来る。


 だから特別親しい友人のフリをして欲しい。


 アイリスの望みはそれだけ。

 最大の弱味を握っておいて、たったそんなことで良いのか? と拍子抜けしてしまうくらいの易い条件だった。

 その上アイリスは酷く言いにくそうにしながらもケインを気遣ってくれた。


『それにねケイン様、たわいない話が出来る相手って存外見つからないものよ? 秘密を知ってる私になら、気を張らずにその……恋の話も出来るでしょう?』


 是非貴方の好きな人の話を聞かせて。


 まるでそれが彼女のわがままであるように促されて、息が荒くなった。それが無意識に流れていた涙の所為だと気付く前に、ケインはアイリスの手を掴んでいた。


 そうだ。妹に恋している話など、簡単に他人に打ち明けられるはずもない。

 仮に相手を隠して恋心だけを綴っても、どんな些細な話題から気付かれるか判らない。だから誰にも恋の話などしたことはない。


 誰も好きじゃない。

 誰も愛さない。


 そんな顔をして生きていくつもりだったのに……。


 でも彼女相手になら、隠す必要なく想いを語れる。

 その上、彼女という存在があれば、誰かに想いを感づかれても、その誰かは勝手に思ってくれる。


 ケイン・メイフィールが思い浮かべているのはアイリス・ウェーバーだろう、と。


『ケイン、私が何でも聞いてあげる。いっぱい話をしましょう、これからよろしくね』


 勝手に話をまとめて笑ったアイリスは、以来ずっと変わらずケインの恋の共犯者だった。

 妹に恋している人でなしの恋バナを、彼女はまるで普通の恋であるように扱ってくれた。それはもちろん本当に他人事であるからだろう。

 でも、その態度に救われた。


 キャサリンへの愛しさを心置きなく語っても笑ってそばにいてくれる彼女がいたから、ケインは壊れることなく、キャサリンの兄でいられた。

 幸せになって欲しいと、キャサリン以外で初めて思ったただ一人の女性の笑顔を見つめケインは笑った。













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