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第9話:世界最高峰の商人と、揺らぐ世界経済

帝国軍5,000人をボタン一つで撃退してから数日。


要塞での暮らしは、相変わらず穏やかで快適そのものだった。

庭の『神農園』では見たこともない神級の果実が次々と実り、リビングでは要塞の全自動システムが淹れた至高の紅茶を楽しみながら、アイリスやエレナとのんびり過ごす日々。


そんな平和な時間を破るように、要塞のインターホンが鳴り響いた。


**ピンポーン……**


モニターを点けると、そこには見たこともないほど豪華な装飾が施された馬車と、仕立ての良い服を着た腹の出た紳士が、緊張した面持ちで立っていた。


『あ、お初にお目にかかります! 当大陸最大の商業組織【大陸商業ギルド】の総総裁、ガルドと申します! 本日はレイル様の至高の逸品を拝見したく、ご挨拶に伺いました!』


「大陸商業ギルドの総裁……? 世界中の物流と金流を牛耳る、あのガルドかい?」


アイリスが驚きで目を丸くする。


「まあ、無用な敵意はないみたいだし、通してあげよう」


---


要塞の応接室へと通された大商人ガルドは、足を踏み入れた瞬間からガタガタと膝を震わせていた。


(な、なんだこの建物は……!? 壁も床も、国を丸ごと買えるレベルの宝飾魔導金属でできている……! それに、部屋の中に充満しているこの濃密な魔力はなんだ!? 呼吸するだけで体が軽くなっていくぞ……!)


ガルドは額の汗をハンカチで拭いながら、深々と頭を下げた。


「レ、レイル様! 本日は噂に聞く『神級の素材』をぜひ買い取らせていただきたく、金貨10,000枚(約10億円相当)を用意してまいりました!」


「神級素材? ああ、庭で採れた野菜とか、要塞の自動解体で出た魔物の素材のことかな」


俺はテーブルの上に、要塞で転がっていたものを適当にいくつか置いた。


* 要塞の庭で採れた『黄金リンゴ』1個

* 要塞の防衛で勝手に回収された『グラン・グリフォンの最上級魔核』1個

* おまけで渡そうとした『全自動強化された木彫りの人形』1個


それを見た瞬間、ガルドの目が飛び出さんばかりに見開かれた。


「ひぃあぁぁぁぁっ!???」


ガルドは椅子から転げ落ち、地べたに相撲のハッケヨイのごとく伏せ倒れた。


「ぜ、ぜんぶ『国宝級・神話クラス』の超逸品……!? 黄金リンゴは一口でどんな不治の病も治す伝説の霊薬! この魔核は国家の魔導炉を100年動かせるエネルギーの塊! そ、そしてこの人形……ただの木彫りなのに、神級の絶対防御結界が張られている……!?」


「え? 無料の端材で作ったただの試作品だけど……」


「端材!!?? これ一つで一国の国家予算が吹き飛びますぞ!! 金貨10,000枚なんて、足元にも及びません……!!」


ガルドは泡を吹きかけながら、必死に頭を地面にこすりつけた。


「レ、レイル様! 頼みます、我が商業ギルドにこれらの販売権利をお与えください! これらが市場に出れば、大陸全体の経済が過去最高のインフレと歴史的繁栄を迎えることになります!」


「まあ、うちにあっても余ってるだけだし、好きに売っていいよ。その代わり、美味しい珍味とか珍しい本があったら持ってきてね」


「は、ははぁーっ!! 仰せのままに!! 世界中の珍味と財宝を集めてまいります!!」


ガルドは涙を流して感謝し、神級素材を恭しく受け取ると、脱兎のごとく王都へと戻っていった。


---


その日の夜。


「ふう、なんか大げさな商人だったな」


「いえ、レイル様。ガルド殿の反応は至極当然です」


アイリスが微笑みながら温かいお茶を淹れてくれる。


「レイル様が『余り物』とおっしゃる品々は、世界中の王族や大貴族が全財産を投げ打ってでも欲しがる至宝ばかりですから」


「はい……! レイル様のおかげで、これからは世界中の美味しいものがこの要塞に集まってきますね!」


エレナも嬉しそうに目を輝かせている。


俺が差し出したたった3つの『余り物』によって、世界規模の経済と流通が大きく動き出そうとしていた。


だが、当の本人はそんな政治や経済の混乱など知る由もなく、美少女ふたりに囲まれながら、今夜も至高のスローライフを満喫するのだった。

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