第7話:エルフの庭師と、王都からの勅使
「すごいです……! すごすぎます、レイル様……っ!」
翌朝。要塞の庭園に、エルフの少女エレナの歓喜の叫びが響き渡った。
昨日まで怯えていた姿が嘘のように、彼女は目を輝かせて庭の草木に駆け寄っている。
「世界樹の芽が『レイル様に撫でてもらって嬉しい』って歌っています! こっちの黄金リンゴの木も『もっと美味しい実をつけるぞ』って張り切っていますよ!」
エレナの固有スキル【万物の声を聞く】は、この『神農園』と異常なほど相性が良かった。
彼女が植物たちの要望(水加減や光の当たり具合)を聞き出し、俺が『全自動神造』で最適化された魔導土や神水を与える。
この完璧な連携により、庭の植物たちはさらに爆発的な進化を始め、もはや伝説の霊薬や神級素材が毎日自動で収穫できる「無制限の宝庫」と化していた。
「エレナ、本当に助かるよ。君がいてくれてよかった」
「〜〜〜っ! レイル様にお褒めいただけるなんて、私、幸せすぎて倒れちゃいそうです……!」
頬を真っ赤にしてモジモジするエレナ。
そこへ、焼きたてのパンとハーブティーを載せたトレイを持ったアイリスが歩み寄ってきた。
「ちょっとエレナ、レイル様を独占してはダメですよ。レイル様、朝食のご用意ができました」
「アイリス様! むぅ……私だってレイル様のお役に立っているんですから!」
「ふふ、負けませんよ。レイル様の1番の従者は私ですからね」
朝から美少女2人が俺を挟んでキャッキャと張り合っている。
数日前まで一人寂しく追放されていたのが嘘のような、あまりにも平和で贅沢な時間だった。
だが――そんな平穏を破るように、要塞の外から馬の嘶きと重厚な甲冑の音が近づいてきた。
**ピピッ……**
---
## **【要塞防衛システム通知】**
『防衛境界線』に接近する集団を感知。
・対象:王立騎士団・特命捜索隊(約30名)
「王立騎士団……? アイリス、君の部下か?」
モニターを見ると、白銀の鎧を身に纏った騎士たちが、緊張した面持ちで要塞の前に整列していた。
「あ……! 申し訳ありませんレイル様、私の部下たちです! 私が帰還しないため、捜索隊が派遣されたのでしょう」
「そっか。まあ、無用な戦いをするつもりはないし、通してあげよう」
---
要塞の重厚な門が滑らかに開くと、捜索隊の副団長と思われる男が、驚愕の表情で足を踏み入れてきた。
「団長……! 無事でしたか! 危険地帯の『黒の森』に足を踏み入れたと聞いて、お救いしに――」
副団長は言葉を詰まらせた。
そこにいたのは、傷一つなく、それどころか私服姿で最高級のハーブティーを嗜み、肌の艶まで良くなっている自分たちの最高上司・アイリス団長だったからだ。
さらに、彼らの視線は要塞の建物とその庭園へと注がれる。
「な、なんだこの建物は……!? 王宮の宝物庫すら凌駕する魔導金属で作られている……!?」
「見てみろ、あの庭! 伝説の『黄金リンゴ』や『世界樹』が、雑草のように群生しているぞ……!?」
騎士たちは一様に腰を抜かしかけていた。
「控えなさい、無礼者ども」
アイリスが毅然とした態度で一歩前に出る。
「ここにおわす方こそ、私を救い、この神域を治められる『レイル様』だ。非礼があれば、私が自ら処罰します」
「レ、レイル様……!?」
副団長は青ざめながら、慌てて膝をついた。
「申し訳ございません! 私は王立騎士団副団長のカインと申します! 本日は団長の捜索に加え……王都ギルドより『歴史的な失策』の報告を受け、国王陛下からの密勅を携えて参りました!」
「密勅……?」
カインは震える手で、金の刺繍が施された羊皮紙を広げた。
「『暁の獅子』から不当に追放された伝説のクラフト師・レイル殿を探し出し、無礼を深く謝罪するとともに……【国家最高峰・神級鍛冶工房長】として、公爵と同等の爵位と莫大な財産をもって王宮へお迎えせよ、との仰せにございます!」
「「ええっ!?」」
アイリスとエレナが声を上げた。
国王自らが一人の職人に謝罪し、国家最高峰の地位と公爵級の待遇を提示してきたのだ。
だが――俺の答えは、最初から決まっていた。
「断るよ」
「え……!?」
カイン副団長は耳を疑ったように固まった。
「王宮なんて面倒くさそうだし、俺はこの要塞で、アイリスやエレナと一緒にのんびり暮らす方が100倍快適だからね」
「で、ですがレイル様! 公爵級の地位と財宝ですよ!? 世界中の誰もが羨む栄誉です!」
「地位も財宝もいらないよ。だって、この要塞にいれば何でも『全自動』で手に入るから」
俺がそう言って微笑むと、アイリスが満足そうに頷いた。
「カイン、聞こえたでしょう。レイル様は王宮の権力などというちっぽけなものには興味がないのです。陛下には『レイル様は我が国の守護神として静かに暮らしておられる』と報告しなさい」
「は、ははぁっ……!」
カインたちは、レイルの底知れぬ器の大きさと規格外のスケールに完全に気圧され、何度も頭を下げながら引き下がっていくのだった。
こうして、王都中に「追放された無能職人は、国家すらひれ伏す神であった」という噂が急速に広まっていくことになる。
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