第12話:魔王の娘と、カルチャーショック
「……ん……あ……」
ふわふわとした温かい感触に包まれ、魔族の少女――ルミアは目を覚ました。
(……私は、一体……? 竜騎士団に追い詰められて、上空から落ちて……)
彼女が跳ね起きると、そこは見たこともないほど豪華で清潔な部屋だった。
身につけているベッドカバーは、魔界の王宮すら凌駕する極上のシルク。全身の傷はすっかり塞がり、衰弱していた魔力まで満ち満ちている。
「お目覚めですか?」
ドアが開き、トレイを持ったアイリスとエレナが入ってきた。
「ひっ……!? 人間と、エルフ……!?」
ルミアは身構え、頭の角をピクピクと震わせた。
「私は魔王家の末娘、ルミア・ヴァルハイト! 騙されませんよ、いくら私を捕らえて拷問しようとしても――」
「まあまあ、落ち着いてください。レイル様が淹れてくださったハーブティーと、焼き立てのパンですよ」
トレイから漂う、鼻をくすぐるあまりにも香ばしい匂い。
**――ぐぅぅぅぅぅぅ……。**
ルミアのお腹が、盛大に音を立てた。
「っ~~~! 今のは不可抗力です! 毒でも入っているに決まって……」
ルミアは警戒しつつも、匂いの誘惑に勝てず、差し出された焼き立てのクロワッサンを恐る恐る口に含んだ。
次の瞬間――
「~〜〜〜〜〜っ!??!?」
ルミアの黄金の瞳が、限界まで見開かれた。
サクッとした食感の後に広がる、濃厚なバターの香りと優しい甘み。一口噛むごとに、身体の奥底から全身の細胞が歓喜の悲鳴を上げている。
「な、ななな何ですかこの食べ物は……!? 魔界の至高の宮廷料理すら、ゴミくずに見えるほどの美味……っ! 毒どころか、聖なる浄化の魔力が全身を巡って傷が完全に癒えていきます……!」
「ふふ、要塞の『全自動シェフ』と、レイル様が育てた神級素材で作られた料理ですからね」
アイリスが自慢げに胸を張る。
「全部、あのレイル様というお方が用意してくださったのですか……?」
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ルミアは二人に案内され、おずおずとリビングへ下りてきた。
そこでは、俺――レイルがソファーで寛ぎながら、全自動操作盤の画面をチェックしていた。
「あ、起きたんだ。体調はもう大丈夫かい?」
「あ……はい。あの……ルミア・ヴァルハイトと申します。追手から助けていただき、その……朝食もありがとうございました」
先ほどまでの警戒が嘘のように、ルミアは顔を赤くしてモジモジとお礼を口にした。
「いいよ、気にしないで。ところでルミア、どうしてあんな上空で追われていたんだ?」
ルミアは少し表情を曇らせ、ぽつりぽつりと語り始めた。
「……私の父である魔王が病に伏した隙に、武闘派の将軍がクーデターを起こしたのです。私は命からがら逃げ出しましたが、追手に追い詰められ……もうダメだと思っていました」
「なるほどな。クーデターか」
「レイル様! 助けてあげられないでしょうか……!」
エレナが胸の前で手を合わせ、ルミアを庇うように俺を見つめてくる。
「私も同じ追放された身として、ルミアちゃんの辛さが痛いほど分かります……!」
「もちろん助けるよ。うちの敷地に入ってきた害虫(追手)は返り討ちにしたし、ルミアが良ければずっとここに居ていいからね」
「え……? ずっと……? でも私、魔族ですよ……? 人間にとって恐ろしい存在のはずでは……」
「種族なんて関係ないよ。美味しいご飯を食べて、快適に暮らせればそれでいいじゃないか」
俺がそう言って微笑むと、ルミアの目からポロポロと涙が溢れ出した。
「うっ……うわぁぁぁん! ありがとうございます……! 私、こんなに優しくされたの、生まれて初めてです……!」
ルミアは俺の腰にがっしりと抱きつき、声を上げて泣いた。
そこへ、要塞のシステム音が追い打ちをかけるように鳴り響く。
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## **【要塞新エリア開放通知】**
『神級露天風呂エリア』の準備が完了しました。
・効能:全身の疲労回復、魔力増幅、肌の神聖化
「あ、ルミア。食後にお風呂でも入ってきたら? 露天風呂が完成したみたいだから」
「お、お風呂……? 魔界のドロドロした硫黄の沼ではなく……?」
「温泉だよ。最高に気持ちいいぞ」
こうして、要塞に連れてこられた魔王の娘ルミアは、最高級の料理と神級の露天風呂、そしてレイルの圧倒的な優しさに一瞬で胃袋と心を掴まれ、完全に屈服(仲間入り)したのだった。




