16.
更新が止まってしまい申し訳ありません。
終盤を書きながら、気になっていた1〜15話もあちこち手直ししておりました。
本日、完結まで投稿しております。
お時間がありましたら、修正後の序盤から読み返していただけると嬉しいです。
澄み切った青空の下、奥様の葬儀が大聖堂にてしめやかに営まれた。
色鮮やかなステンドグラスの光が差し込む聖堂から、棺は屋外の墓地へと運び出される。
弔問客たちは時折旦那様へ厳しい視線を向けながらも、埋葬を終えると静かに去っていった。
皆を見送りながら、墓前には旦那様とシャーロット様だけが残された。
緊張感がわずかに緩み、冷たい風の中で静かな時間が流れる。
お二人は新しい墓碑の前に佇み、じっとそれを見つめていた。
「ラモーナ様を愛していると仰るとは思いませんでした」
お嬢様の言葉に、旦那様の肩が揺れる。
だが、その視線が墓石から外されることなく、ゆっくりと口を開いた。
「……二十年近く連れ添ってきた。たった一度の諍いで切れるはずがない」
「左様ですか」
どちらも視線を交わすことはない。ただ、奥様だけを見つめ続ける。
「……すまなかった」
冷えた空気に溶けるように、旦那様がつぶやいた。
それは、誰に向ける言葉なのか。
お嬢様はただまっすぐに奥様だけを見つめ続ける。
「私は受け取りません。お母様の墓前に、命尽きるまで手向けてくださいな」
お二人の言葉を攫うように、まだ冷たい風が吹き抜けた。
「……ああ、そうしよう」
旦那様の応えに、お嬢様が言葉を返すことはなかった。
屋敷へ戻られたお嬢様は、葬儀の名残が少しずつ消えていく様子を静かに見つめていた。
「長い間、ありがとう」
その言葉は、使用人に向けた言葉か、この子爵家に向けた言葉なのか。
私達はただ静かに頭を下げた。
「お姉様!」
お嬢様が玄関を出ようとしたとき、ペネロピ様が階段を駆け下りてきた。
「これ!」
そこには、日の光に輝くヴァイオレットサファイアのブローチが握られている。
「ごめんなさいっ、返すのが遅れて! 」
呼気に合わせ、黒のドレスの上で真紅の髪が揺れている。
「……これはあなたに預けるわ」
「え? で、でもっ」
「これを見て思い出して。なんのために努力するのか」
お嬢様の言葉に、ペネロピ様が目を見張った。
「……でも。本当に辛かったら逃げてもいい。その時は売ってしまいなさい」
「そんな……私はっ!」
「あなたの人生よ。あなた自身が決めて。これは、そのために使っていいから」
ペネロピ様の手を、ブローチとともに握る。
お嬢様の真剣な眼差しに、見入るようにペネロピ様がつぶやいた。
「……きれい」
「え?」
「お姉様の瞳。このブローチみたいにキラキラしてる」
ペネロピ様が笑った。
「……私、がんばる。お姉様とお話ができるように、精一杯頑張るから。……見ていてね!」
それだけを告げると、ペネロピ様はそっと手を放し、もう一度だけニカッと笑った。
そして、お嬢様の答えを待つことなく、軽やかに駆けていったのだ。
その後ろ姿を静かに見守っていたお嬢様が、今度こそ足を進めた。
玄関を出ると、外にはランディ様が待っていた。
お嬢様の姿を見つけると、柔らかく微笑む。
「終わった?」
「ええ」
お嬢様が少しだけ足を速める。
その姿は、先程までの淑女然とした歩みとはどこか違って見えた。
そして、迷うことなくランディ様の手を取った。
エスコートされるのを待つのではなく、自ら伸ばした手だった。
ランディ様が一瞬だけ目を見開いた。
「おや」
「……何ですの?」
ランディ様が嬉しそうに笑う。
「いや。嬉しかっただけだよ」
そうして、お二人は顔を見合わせて笑い合った。
「行こうか」
「ええ」
そうして手を携え、振り返ることなく歩き出したのだ。




