17.
お嬢様が伯爵家に移り、二年がたった。
ランディ様との挙式の準備は順調に進んでいる。
旦那様とラモーナ様がその後どうなったのか。お嬢様がお調べになることはなかった。
ただ、いつだったか。 お嬢様が新聞のとある記事を、何度も何度も読み返していらしたことがあった。
……それだけのことだ。
「シャーロット、ちょっといらっしゃいな」
夫人の呼びかけに、お嬢様がすぐに足を向ける。
「お祖母様、何かありました?」
「ええ。あなたにこれを渡したくて呼んだのよ」
夫人が衣装箱から取り出したのは、美しいベールだった。繊細な絹糸で織られた薄絹が窓からの光を浴びて白くきらめいている。
「……これは?」
「あの子が身につけたものなの。受け取ってくれないかしら」
夫人がお嬢様へとベールを載せる。
薄絹が肩から背中へと流れるように広がった。
「まあ、よく似合っているわ」
夫人が嬉しそうに目を細めた。
鏡に映るお嬢様を、純白のベールが華やかに縁取っている。
「幸せになりなさい」
夫人からの言葉に、お嬢様はベールを優しく撫で上げながら、静かに頷いたのだ。
すると、ノック音とともに伯爵が部屋に入ってきた。
「シャーロットはいるか?」
「あなた! それではノックの意味がないではありませんか」
「すまんすまん」
夫人に謝りながらも、その視線がお嬢様へと吸い寄せられた。
「……きれいだな」
噛みしめるようにつぶやかれた声に、お嬢様が少し照れくさそうにしながらも、ゆっくりと体を揺らす。
純白のベールが柔らかく光を放った。
「あなた? シャーロットに用があったのではないの?」
「おお、そうだった。君宛の手紙があったので預かってきたのだ」
「あらあら。ずいぶんと威厳のあるメッセンジャーボーイですわね」
夫人が微笑みながら、丁寧にベールを畳む。
「私にですか?」
一通の手紙がお嬢様へと差し出された。
真っ白な封筒には、薄紅のリボンが巻かれ、蝋封がつるりとお嬢様の指先を滑った。
「……これは」
お嬢様が伯爵を見つめる。そんなお嬢様を見て、伯爵は優しく目元を細めた。
「ゆっくり読みなさい」
それだけを告げ、夫人を伴い、部屋をあとにした。
お嬢様は窓辺の椅子に腰掛け、さりさりと丁寧にペーパーナイフを使った。
穏やかな日差しの中、ゆっくりと文字を追っていく。
その瞳は、やがて柔らかく綻んでいった。
「……来週、お客様がいらっしゃるから準備をお願い」
お嬢様の笑顔は、まるで春のひだまりのようだった。




