13.
「まあ! 素晴らしいですわね、シャーロットさん。まさか、ご自分は正義の使者だとでも言いたいのかしら!」
突然、不釣り合いな紫が割り込んできた。
ペネロピ様が目を見開き、ゆるゆると頭を振る。
「……お母様? どうして」
「あら、お話し中にごめんなさいね? 扉が開いていたものだから、つい入ってしまいましたわ」
ペネロピ様の小さな問いかけは、ラモーナ様のピンヒールにカツリと踏みつぶされた。
「……貴様っ! お前のような女が、娘の部屋に入るんじゃない! さっさと出ていけ!」
伯爵の激昂を正面から受けながらも、ラモーナ様は臆することなく鼻先で笑う。
「こんな辛気臭い部屋に、誰が好んで入るものですか。──ペネロピ、こちらにいらっしゃい」
「……お母様? ……えっとね? 今、姉様がね?」
ペネロピ様が怯えながらも、なんとか言葉にしようと口を開いた。しかし──
「……何を言っているの? もう『おままごと』は仕舞いだと、その娘が言っていたじゃない! それなのに、どうして馬鹿みたいに懐いているのよ!」
ペネロピ様が弾かれたように身を震わせ、うつむく。
紺色のドレスにパタパタと雫が落ちていくことにラモーナ様は気づくことなく、お嬢様を睨みつけた。
「だいたい、なんなの? ペネロピをたぶらかしてどうしたいのよ。そんなことを言ったって、まさかあんたと一緒に伯爵家に連れて行ってもらえるとでも思っているの? 無理に決まっているでしょう⁉ それなのに、さも優しい姉でございますと言わんばかりにペネロピの心を揺らして! ──なんて残酷な娘なのかしら」
ペネロピ様が小さく、小さく、縮こまる姿をラモーナ様は気づきはしなかった。
「……見るに耐えんな。そのような戯れ言は他所でやってくれ。シャーロット、もうこのような者達を構い立てするのはやめなさい」
伯爵が深く息を吐き、おもむろに言葉を紡いだ。
そして、身を守るように俯いたペネロピ様へ視線を向けた。
「その女の言う通りだ。私達がその娘まで連れ帰ることは絶対にない」
はっきりと告げられた言葉に、ペネロピ様が反応することはなかった。ただ、耳をふさぎ、身を固くしている。
「シャーロットの気持ちは分かった。確かに、クリスティアナにも罪があった。……臨終の間際まで、娘可愛さにお前を引き離すことをしなかった私達にも罪はある。だが、だからといって、その娘を手元に置くのは違うだろう?」
強く握られた拳が震えていた。それでも、お嬢様へと真摯に訴えた。
「……わかっていますわ」
お嬢様がぽつりと呟いた。すると──
「アハハッ! ほら、ごらんなさい! 偉そうなことを並べ立てても、結局アンタだって自分の身が一番可愛いのよ! 本当はペネロピのことだって憎いのでしょう? ……フフッ、短い聖女様ごっこだったわね? ご愁傷さまぁ!」
ラモーナ様の哄笑が部屋を満たす。
伯爵が眉をしかめ、足を踏み出そうとした。
「ペネロピ。寄宿学校に行きませんか?」
お嬢様はラモーナ様には一瞥もくれず、ペネロピ様の前に膝をついた。
涙を流すだけだったペネロピ様が、ゆるりと視線を上げる。
「……がっこう……?」
「そう。同じ年代の子どもたちが共同生活を送りながら、様々なことを学ぶのよ」
「──っ、何を勝手なことを!」
「申し訳ありませんが、少し黙っていていただけますか」
お嬢様が冷ややかに見上げ、二人の視線が拮抗する。
「……いや、シャーロット。そんなことは許さんぞ。それでは結局、私達が後ろ盾になるようなものではないか!」
「いいえ、お祖父様。すでに尼僧院への寄付が成されておりますわ。──もちろん、子爵家の名義で」
「なに? ……いや、しかし、学校とは女子修道院のことなのか」
「はい。お母様が生前に準備をしておりましたの。もし私の養子縁組が間に合わなかった時のために、尼僧院の枠を『寄付』という形で予約していたのです」
尼僧院は戒律が厳しく、たとえ両親であっても勝手に連れ戻すことは難しい厳格な学び舎だ。
伯爵様は、なんとも言えないお顔でお嬢様を見つめた。
「……待て、その寄付とは一体いくら払ったんだ⁉ そんな話は聞いていないぞ!」




