表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/62

第56話

会社に着いたとき、社長室の扉は半開きだった。


中に入ると、奈菜が床にへたり込むように座り込んでいた。

両手で顔を覆い、肩を震わせている。


「電話はどこからだ?」


陸翔は声を荒げることなく言った。

スーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩める。


「……海外の会社です……怒ってて……」


奈菜は涙でぐしゃぐしゃになりながら答える。


陸翔は机に向かい、パソコンを開いた。

契約書、メール履歴、直近のやり取りを一気に確認する。


先方からの抗議メールを読み込みながら、

即座に社外顧問弁護士へ連絡を入れた。


「今、海外契約でトラブルが発生している。

 契約条項の解釈についてすぐ確認したい」


短く状況を伝え、法的リスクを洗い出す。


数分後、田口が駆け込んできた。


「社長、申し訳ありません!」


額に汗をにじませ、深く頭を下げる。


「スマホの充電が切れてしまい、連絡が取れず……」


「言い訳は後だ。すぐ先方に連絡を取れ。誤解の原因を確認して、条件を整理しろ」


陸翔は画面から目を離さない。


社長室の空気は張り詰める。


電話を繋ぎ、通訳を挟み、契約内容を再確認する。

怒号のような英語を受け止めながら、冷静に事実を並べていく。


弁護士から折り返しの連絡が入り、 条項の抜け道と修正案が提示される。


それをもとに、再度交渉を仕掛けた。


時間だけが過ぎていった。


日付が変わる頃、ようやく事態は落ち着いた。


契約は白紙にはならない。 再確認の上で継続することで合意を取り付けた。


陸翔は大きく息を吐き、椅子の背もたれに身を預ける。


「田口、もう大丈夫だ。帰って構わない」


「……社長、本当に申し訳ありませんでした」


改めて深く頭を下げる。


「何とかなった。それでいい」


田口はまだ顔を上げない。


「田口、水川さんを送ってやってくれ」


デスクの端に座っている奈菜を見ながら言う。


「はい」


奈菜はゆっくり立ち上がった。


「社長……田口さん……本当に申し訳ありませんでした」


深く腰を折る。


陸翔は一瞬言葉を選び、短く告げた。


「早めに連絡をくれて助かった」


それは事実だった。


奈菜は顔を上げる。 涙の跡がはっきりと残っている。


「……お二人に、話があります」


社長室に、再び静けさが落ちる。


「わ、私……この仕事を辞めようと思います」


その言葉だけが、はっきりと響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ