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第49話

陸翔はアメリカに飛んでからも、茜音にメッセージを送り続けていた。


『元気?』

『ちゃんとご飯食べてる?』

『こっちは忙しくて、ゆっくり食べられてない』

『風邪ひいてない?』

『会いたい』

『……正直、寂しい』


返信はない。


だが、未読のままではなかった。


既読がつく。


それだけで、届いているのだと分かる。


その小さな事実に、陸翔は何度も救われた。


工場のトラブルはようやく収束の目途が立った。


「田口、帰国の便を押さえてくれ」


『承知しました。夜遅い便になります』


陸翔は茜音に連絡を入れる。


『明日、日本に戻れる』

『時間が遅くなりそうだから……明後日、会って話せないかな?』


送信してから、しばらく画面を見つめた。


やがてスマートホンが震える。


「わかりました」

「明後日、お話ししましょう」

「気を付けて帰ってきてください」


三行だけ。


それでも胸の奥がほどける。


完全に閉ざされたわけではない。


それだけで十分だった。


帰国の準備を整えながら、陸翔はいつものレストランに電話を入れた。


記念日に訪れていた場所。


静かな個室。


向き合うなら、あそこがいい。


翌日、空港には田口と奈菜が迎えに来ていた。


田口が助手席に座るため、陸翔の隣には奈菜が座る。


「社長、明日、いつも支援している児童養護施設のチャリティーバザーがありますが、いかがなさいますか?」


「児童養護施設か……」


奈菜が身を乗り出す。


「社長、行きましょうよ。偉い方が来てくださると売り上げが伸びるんです。施設は本当に助かるんですよ」


まっすぐな声だった。


茜音は結婚前、そうした場所によく足を運んでいたと言っていた。


ふと、楽しそうに話していた茜音の顔が浮かぶ。


茜音との約束は夜だ。


昼間、チャリティーに顔を出してからでも十分間に合う。


「分かった。顔を出そう」


そう答えた。


車は静かにマンションへ向かった。


田口がエントランスに車を寄せる。


陸翔が降りる。


続いて奈菜も降りた。


陸翔は思わず足を止める。


なぜ奈菜も降りるのか理解できなかった。


すぐに田口が言う。


「社長、水川さんもこちらのマンションに住んでいますので」


そうだった。


説明は受けていた。


だが、同じ建物という現実は、思っていたより重い。


「何階なんだ?」


「五階に住まわせてもらっています。社長、今日夕飯はどうされたんですか?」


「機内食で済ませた」


簡潔に答える。


「夜食でも食べますか?私、作りましょうか?」


距離が近い。


「いや、いらない」


即答だった。


奈菜は少し首を傾げる。


「奥様に、社長の世話をするためにこのマンションに住まわせると言われたので、なんでも言ってください」


「奥様?」


その言葉が引っかかる。


「あ、大奥様ですね」


母の意図が見えない。


何を考えているのか。


不快感だけが残る。


「大丈夫だ。君も早く帰りなさい」


それ以上距離を詰めさせない。


陸翔はエレベーターのボタンを押した。


扉が閉まる。


静かな箱の中で、明日の予定だけが頭に残った。


昼は、児童養護施設のチャリティーバザー。


そして夜は――


茜音と会う約束。


それだけが、今の現実だった。

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― 新着の感想 ―
ちょっと思いましたけど、夫婦の親達の職業に違和感が…… もし、この一連の出来事が夫親の企みなら、結婚10年位年齢的に女性の自然妊娠が難しくなる妻アラフォー突入や、物語の時代背景が昭和なら兎も角、結婚3…
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