10-2. お揃いの耳飾り
女の子たちの仲良しからのスタートです✨
「アンリはこの珠が垂れ下がっているのも似合いそう。ゆらゆら揺れて綺麗だよ!」
外に出るにも気合を要するほど空気の冷たい、とある日。
メイメイとアンリは、きゃっきゃと笑って手に取った髪飾りを見比べていた。
お泊まり会帰りに、王都の隣町にある市場へ立ち寄ったのである。
可愛らしい工芸品が並び、女の子たちの明るい声があちこちから聞こえてくる。
歩いているだけでも楽しくて、メイメイの心も弾む。
「あら、可愛い。これもどう? 花がちりばめられていて賑やかな感じの」
「本当だ! じゃあそれにしない? わたしはこっちの色にしようかな」
気に入った色違いの簪を買い、早速互いの髪に挿す。
似合う似合うと褒め合う声が、市場の賑わいをさらに彩った。
「こんなにおしゃれをしているんだから、誰かに見せたくなっちゃう……、あっ!」
そんなことを言いながら馬車の方へ向かう最中、近くに二頭立ての美しい馬車が見えた。
慌てて辺りを見回すと、護衛を連れて優雅に歩くソユンの姿がある。
(やっぱり! 見覚えがあると思った)
突然目を輝かせたメイメイを不思議そうに見たアンリは、その視線をたどると心得た顔をした。
「わたし、用事を思い出しちゃった! せっかく来たんだし、メイメイはもう少し市場を見ている?」
明らかな気遣いに胸を打たれながら、うんと頷く。
王都までは歩いて戻れる距離なので、アンリには先に馬車で戻ってもらうことにした。
「じゃあ、また後で話を聞かせてね! ほら、ソユン様が行ってしまうわ!」
「うわ、本当だ! ……アンリ、ありがとうねぇ。また後で!」
優しく笑うアンリに手を振って、メイメイはソユンの方まで駆けて行った。
「ソ、ソユン様……!」
見るからに高貴な人であるソユンの周りは人だかりがなく、近づきやすい。
遠巻きに眺める人の中に知り合いはいないか確かめてから、メイメイはさっとそばに寄った。
「おや、赤毛ちゃんだ。簪が可愛いね、ここで買ったのかな?」
ソユンは目をきょとりと見開くと、すぐに柔和な笑みでメイメイのことを喜ばせた。
初めて見る白地の艶やかな袍に身を包んだソユンは、雪の精霊と見紛うほど儚さと清廉さが際立つ。
メイメイは大いに見惚れつつ、もじもじとはにかんだ。
「えへへぇ……、ありがとうございます。そこの出店で先ほど買いました! ソユン様もお買い物ですか?」
何気なく一緒に市場を歩きながら隣を見上げると、ソユンは緩く首を傾げた。
その拍子に、軽やかな金の耳飾りがしゃらりと揺れる。
「ちょっと近くに用事があってね」
そう答えたソユンは、ここ最近ではいちばん顔色がいい。
それに励まされた気になったメイメイは、そわそわと切り出した。
「ではですね……。えっと、その……、ソユン様はこの後お暇ですか!?」
結論から言うと、あまり暇ではなかった。
夕方の別件に合わせて移動中だったソユンには、それほどゆっくりする時間はなかったのだ。
(ここならあまり人目も気にならないし、外でお出掛け、してみたかったけどぉ……)
次回はどこかへ行こうか、なんて気遣ってくれる姿を見たらわがままは言えない。
がっくりと肩を落とすメイメイを哀れに思ったのか、代わりに記念のお土産を買ってくれることになった。
「じゃ、じゃあ、耳飾りがいいです!」
先ほどソユンの耳元で揺れていたそれに、似たものが欲しい。
アンリとお揃いの簪を買って、その高揚感に味を占めたメイメイだ。
実はソユンの耳飾りを見てから、ひっそり妄想を繰り広げていたのであった。
「別にいいけれど、赤毛ちゃんは金具を通す穴を開けていないのではないかな?」
「すぐにでも開けます! あ、でもどうやったらできるんだろう。……いや、なんとかします!」
得意げに胸を張るメイメイを見て、ソユンは少し不安そうな顔をした。
「……屋敷に侍医をしていた使用人がいるから、よかったら開けてもらう? うちに少し寄ることになるけれど」
「えっ、いいんですか……!? な、なら、ぜひお願いしたいです! ……あれ、そういえばソユン様ってこの辺りにもお家があるんですね」
考えなしに耳飾りを選んだおかげで、初めての別宅にまで招かれてしまった。
何をしでかすか分からないから仕方なく立ち寄らせる、とも言うかもしれないが。
(ご、ごめんなさい、ソユン様……! でもとっても嬉しいです……)
ちなみに、買い物は馬車の中で済ませた。
荷物を抱えた行商人たちが馬車まで駆け寄ってきたからだ。
「赤毛ちゃん、この中に欲しいものはあるかな?」
「ひええ、お金持ちのお買い物だあ……」
さすがに恐れ多く、せめて手早く選ぶことにした。
ソユンをちらりと見ながら、淡い香色の石を嵌め込んだ蝶の形の耳飾りを手に取る。
他にはいいの、と聞く言葉に甘えて、深い赤の石が豪奢に使われた揃いの形のそれも一緒に。
去っていく行商人の背中をなんともなしに見送っていると、ふと風が吹き抜けた。
二人の髪が風になびき、赤色と香色が絡んでほどける。
立派な門を潜って、風雅な庭を眺めるのもそこそこに、屋敷の中へ入った。
やはり室内はよく温められていて、上品に彩色された火鉢が、通された広間の中央に佇んでいる。
この後の予定やメイメイを送る馬車の手配をしに、ソユンは少し席を外した。
その間に耳へ小さな穴を開けてもらい、わくわくと鏡を見つめて飽きず眺める。
「お待たせ。大してもてなせないけれど、せめてお茶くらいは飲んでいって」
「うぅ、お忙しい中すみません……。ありがたく一杯だけ頂戴して、今日はお暇しますね」
戻ってきたソユンの耳元には、深紅の蝶がいる。
メイメイが着けてほしいとお願いしたのだ。
それを耳元できらめかせながら、ソユンはすぐ隣にある丸背の椅子に腰掛けた。
「ソユン様、そのお色、……とってもお似合いです! わたしも早く着けたいな……。これ、一生の宝物にします」
手に持っていた淡い飴色の飾りを、丁寧に箱に入れ直す。
その蓋を静かに撫でさすりながら、メイメイは穏やかに口元を緩めた。
「そこまで言ってもらえると嬉しいよ。またよければ今度見せてね」
「もちろんです。すぐにでも見せに伺います……!」
感激のあまり目を潤ませていると、ソユンが目尻に浮かんだ雫を指先で拭った。
すべらかな指が心地いい。
目を細めて顔を少し上向けると、そのまま唇が優しく重なった。
啄むように数回触れたあと、メイメイの様子を窺う気配がして、さらにそれが深まる。
(口づけを交わすのも、もう何度目かな……)
もっと近づきたいのに肘掛けが邪魔をして、メイメイはつい身を乗り出した。
喉のなだらかな隆起に口づけてみると、一瞬たじろぐように身体が揺れる。
頬を包んでいた手が背中に回って、メイメイをそっと愛撫した。
心を蕩けさせるその感触に、思わず軽い頭痛を覚える。
焦燥感に似た何かが胸を焦がし、ソユンの肩に縋りついた。
「……ソユン様、」
もどかしさに任せて、メイメイは何を口走ろうとしたのだろうか。
しかし、それに被さるようにして、慌てたような足音と、扉の外から呼びかける声が聞こえてきた。
この屋敷の年若い家僕らである。
「ソユン様、ご歓談中に申し訳ございません! 王子殿下が急遽お越しになりました」
「ただいま家令が応接間へご案内しているところですが、ソユン様と話をしに来たとだけ仰せのようで」
王子殿下という単語が聞こえた途端、王子の一番の腹心はす、と表情を改めた。
「ジフン様が……?」




