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王子様と夢みる女官  作者: 笹野にこ
十章 波乱
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10-1. 深まる対立


前半が王太子、後半が王子視点で、いつもよりは少し硬めの内容です!






「王太子殿下! 僭越ながら、一連の騒動に関してすぐにでも対策を講じるべきかと存じます」


「ええ、今こそ民心を掌握する施策を検討していく時でしょうとも」



会議の間に出向いた途端にあちこちから声が降り注ぎ、王太子ユルは僅かに眉を寄せた。

上座に腰掛け、それらを払うように手をひと振りする。


「ジフンや父上たちと相談をするのが先だ。今日の議題は別にあるだろう」


「しかし、今はその王子殿下に先手を打たれている状態です! 日に日に王子殿下ばかり有利な状況に……」


最近は似たような言葉ばかり聞いていて、うんざりする。

それで軽く唇を噛むと、ぼそりと呟いた。


「……そなたらも、私が弟と不仲であることを望んでいるようだな」



――王子が玉座を狙っている、あるいは王太子が廃されようとしている。


数年前に、兄弟でどうにか抑えたはずの流言だ。

以前は主に王都の貴族の中を飛び交っていたそれらが、しかしながら今は王都の外、庶民の間でも広まりつつある。



「迂闊なことを」


側近スホが静かに口を挟んだ。


「王子殿下の両陛下やユル様に対する忠実な姿勢は、皆も知っているだろうに」


彼の諭すような言葉に、それでもと反論が続く。

ここにいる王太子派の面々は、利害の都合から弟の軍権を削りたがっているのだ。


(それ以外では頼りになる者たちなだけに、扱いが悩ましい……)


国政に欠かせない彼らについては父王から一任されていて、邪険にするわけにもいかない。

ユルは思わず肘をついて、前髪をくしゃりとかき乱した。



「最近は隣国の民も売り渋りやら小競り合いで苦労しているそうではないか。ユル様が軽んじられているも同然の状態だ」


いつか報告に上がった、南部の騒動を思い出す。

そもそも一連の流れは、隣国――すなわち実母の母国――の者がわが国の民を害した事件が発端だった。


(それがなぜ、こうもこじれるのだ……)




「……はあ。スホ、この後陛下とジフンの都合がつく時間を確認してくれるか」


「かしこまりました」


会議は、遅々として進まない。


ユルはため息をついて、窓の外に目をやった。

真上にあるはずの太陽は、どんよりとした雲に覆われていた。




◇ ◇ ◇



(雪でも降りそうな雲だな……)


軍議から戻る外廊下で、王子ジフンはふと空を見上げた。

寒さが苦手な誰かさんのためにも、宮はしっかりと暖めておかなければならない。




「ジフン様、こちらが先日の騒動をまとめた報告書です」


執務室に入ると、幼馴染の補佐官が書類を手渡してきた。


部屋はすでに暖かくて安心したが、書かれている内容は不穏だ。

隣に腰掛けながら、鼻にうっすらと皺を寄せる。



「先ほども話してきたが、今民を落ち着かせるのに治安隊を使うのは、よくないのかもしれんな」


王子の管轄にある治安隊が騒動を収める。

そんな状態を各派閥を名乗る民が好きに解釈して、増長したり反発したりという動きを見せることがある。


どうしてこうも望まない方向に、とジフンは軽くため息をついた。



「王太子殿下の指揮のもと、ジフン様が治安隊を引き連れて協力する姿勢を見せれば……」


「いや、治安隊が王太子殿下の下に置かれるという状況はかえってよくない。それよりは……」


「――殿下、今お時間よろしいでしょうか!」


その場にいる者が議論を交わす中、扉の外から武官の声が掛かった。

北部にきな臭い拠点を見つけたとの報告だった。



「……とのことだ。ソユン、明日からしばらく至急の案件はなかったな? 北部へ向かう」


「承知しました。私も調整が終わり次第向かいます」


手をひらりと振って会議を終えると、ソユンと並んでその場を去った。

すぐに出発の用意をしなくてはならない。







「……こんな山中に屋敷があるとは」



数日後、二人の武官を引き連れてたどり着いたのは、王都からさほど遠くない北部の山並みだ。

吐く息は白く、早朝だからかうっすらと靄がかっている。


――木々が茂る中に、ひっそりと佇む古びた建物がある。

そこに、先日から人が出入りを繰り返しているとのことだった。



「東部の乱闘騒ぎを先導していた者も、ここへ立ち入っているのが確認できたそうです」


「活動の拠点にしているのでしょう。この辺りの住民も、屋敷の存在には気づいていないようでした」


足元には枯葉が多く、少しの身じろぎでかさりと音が鳴った。


今日突入する予定はないため、気づかれないように探る必要がある。

木の陰に隠れながら、少しずつ近づいて行く。



「どちらか一人、屋敷の裏まで回れるか? 今のところ中に数人の男がいるように……、ん?」


目を凝らしていると、悲鳴と共に二人の少年少女が駆け出てくるのが見えた。

その手を掴み損ねて追いかける、男たちの姿も。


子供たちがちょうどこちらに曲がってきたところで、男が弓を構えた。



「ちっ……」


矢を持つ人の数を見て、ジフンは舌打ちをした。


「お前たちはなるべく潜んであいつらを制圧しろ! 俺は……」


その瞬間、男の指が弦から離れた。

ジフンは咄嗟に子供たちの元へ駆け寄り、両腕で抱きかかえる。


矢が風を切る音がした。






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