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王子様と夢みる女官  作者: 笹野にこ
九章 変化
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9-7. 豪華な枕で惰眠をむさぼる予定です。が……


一昨日小話置き場の方でエイプリルフールにちなんだ番外編を、昨日久々の活動報告を投稿しております!


どちらもネタバレはございませんので、よろしければ合わせてご覧ください✨





大好きな人に、膝枕をしてもらうことになりました。

今はとても強い睡魔を感じています。


しかし、そんな場面で寝られるだろうか。否、メイメイには到底無理だった。





「眠れない?」


首の後ろに、豪華すぎる枕を感じる。

目の前には、珍しい角度から見る麗しいご尊顔がある。

身じろぎをすると、擦れた絹が仄かにいい香りを漂わせた。


耐えきれなくなってきたメイメイがあらぬ方向に視線を遣って固まっていると、上で苦笑する気配がした。



「ね、むれ、ないですね……。どきどきしちゃって」


「緊張させてしまってもかわいそうだね。普通に客間で寝る?」


無慈悲な提案に、メイメイは首を思い切り横に振る。

せっかくの機会をふいにするくらいなら、すぐにでも眠ってみせようとも。


そう決意して目をぎゅっと瞑って見せたメイメイに、ソユンはくすりと笑った。



「じゃあ眠たくなるまで、ちょっとした世間話でもしていようか。うーん、何がいいかな……」


おっとり小首を傾けながら、綺麗な指先が気まぐれにメイメイの髪を梳く。

優しく耳朶をなぞられた時は、叫びたくなる衝動を抑えるのに必死になった。


ぽつりぽつりと振られる雑談に、どうにか平静を装って答える。


(これ、絶対眠れないやつでは……?)






「……赤毛ちゃんの実家も、東部にあるって言っていたっけ?」


「はい、このお屋敷よりもっと王都から離れておりますが……。ここに来るまでの道は大体一緒で、市場のあたりを曲がってまっすぐの方面にあります!」


「ふうん。それだと、治安隊の出張所が道中にあるのか」



――治安隊。


その言葉からある出来事が連想されて、メイメイはどきっとした。

今までのときめきとは別の意味で。


ふんわり前髪を流してくれていた手先が止まる。

身体をびくりと揺らしてしまったから、動揺に気づかれたのかもしれない。



「そういえば、この間ちょっとした揉め事があったと聞いたけれど、確かこの辺りだったかな。赤毛ちゃんは親御さんから何か聞いている?」



いつか月の細い夜、実家の隣の領地で、小さくはない乱闘騒ぎがあったらしい。

王子派と王太子派を名乗った言い争いが発端だったから、治安隊が急遽事情を探りに出動する事態となった。


そんな夜にメイメイは呑気に散歩をしていて、出張所へ向かう王子と遭遇した。


あの後は探しに来た父や御者が両隣にぴたりとくっついて、家まで連れ帰ってくれた。

そうして、顔を青くした母に出迎えられながら、事情を聞いたのだった。



(その時のこと、ご存じなのかな。それなら、交わした会話とかも、王子から共有されているのかな……)


瞼をそっと持ち上げると、いつもと変わらない穏やかな表情が見えた。

何を考えているかが分からない。



「そ、うですね、えっと……。ちょうどその時、わたし帰省をしていて……」


「ああ、それが手紙をくれた時か。赤毛ちゃんは怖い思いをしなかった?」


「……はい! 親は心配しておりましたが、あの夜一度騒動があっただけで済んだようですし!」



言葉が、一瞬詰まった。

怖い思いというのが、何か他のことを指していないか気になって。


――身の程をわきまえない発言をしたことを知っていて、言外に責められているのではないか。


背筋が凍るような心地がして、思わず床に手をつき身体を起こす。

視線の先には、心配そうな表情でこちらを見るソユンがいる。



「何かあったのかな?」


「いえ、特には。その……」



(うん、ソユン様には遠回しに釘を刺すような意図はないはず……。大丈夫……)



心の中でそう唱えるが、底なしの不安感がメイメイを襲う。

鼓動も、徐々にうるさくなっていく。



それでつい、呟いていた。




「……わたし、本当にソユン様が好きなんですよ……」


「赤毛ちゃん?」


言うと視界がぼやけてきて、メイメイは慌ててまた目を瞑った。


自分でも、唐突すぎる発言だと思う。

訝しむ気配がするが、声が震えそうで弁解の言葉を続けることができなかった。



「……なんとなく、僕も君の気持ちは分かってきたよ。何か、不安にさせてしまっているのかな」


戸惑いながらも寄り添う声は、とても優しい。



彼もメイメイが好きだと言ってくれた。少しは、特別扱いもされている。

それでも、なぜだか胸が苦しい。


「い、いえ、ソユン様のせいではありません。ただ……」


(この時間がいつ覚めるか分からない夢のようで、怖いのだ)


言葉にするのは一層恐ろしく、思わず口ごもる。



ふと、涙の滲む目尻に柔らかな感触があった。

それが何かわかって、胸を締め付けるような幸福感が襲う。


急激な感情の変化に、思わずくらくらした。


目を開けるとすぐ近くで視線が絡み、メイメイはどこか憂いのあるソユンの首裏に手をやって、引き寄せた。



風が蝋梅の香りを運んでくる。

背中に回ってきた手に心がなだめられ、最後に残るのは陶酔感だけ。







(…………あれ、空がかなり赤らんできてる)



起きてすぐ、綺麗な顔が見えた。

慌てて外を見ると、先ほど真上にあったはずの太陽は、だいぶ下まで降りて来ていた。


あのまま数刻、向かい合って眠りに落ちていたようだ。



(結局、ソユン様もお疲れだったみたい……)


眼前の人は、まだ無垢な寝顔を見せている。


ゆっくり息を吸って、吐く。

その呼吸は、耳を澄ませてようやく拾えるほど静かだ。


その穏やかな時間を堪能していると、ふと目を覚ましたソユンの薄曇りの瞳が揺らめき、すぐにメイメイを捉える。



それがやんわりと弧を描き、メイメイは、まだこの人の隣にいてもいいと許されたような心地になった。






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