ex-story4 ラストラン。
毎週スピンオフ更新中!
今週はリブライトのラストラン編です。
実際の競馬でも今週末は有馬記念なので、
それにちなんだ話題も含めて書きました。
オレとリブライトが苦難の末に3歳クラシック最後の栄冠・菊花賞を制してから、2年と少しの時間が流れた。
その年の菊花賞に続いて有馬記念を制し、4歳になってからは大阪杯と宝塚記念で2着、春の天皇賞のタイトルを制したオレ達コンビは、競馬の本場であるヨーロッパ競馬の最高峰・凱旋門賞にも挑戦。
結果は現地の空気に慣れないまま挑んで6着と敗退してしまったが、直線残り200メートルの辺りでは【欧州の最強王者】オーギュストスタークに1馬身差まで迫る場面があり、リブライトの持つ輝きの片鱗をロンシャンという遠い異国の地でも見せる事は出来た。
その結果に手ごたえを感じ、来年はもう一度一緒に挑めるなら……とその時は思っていた。
だけど、輝きが続いていたのは、そこまでだったのかもしれない。
その後、帰国の疲れが抜けないまま挑んだジャパンカップでは12着と大敗。有馬記念も出走したものの、見せ場なくそちらも9着と結果を残せず。
明けて5歳になってからの大レースはどれも掲示板に乗る5着以内を確保することも叶わなくて、今年もそれでも望みを賭けて凱旋門賞にも挑戦したのだけれど、その背中にはオレという存在は無かった。
『国際的な大レースにはそれ相応の経験がある騎手で挑むべき』という声と、オレとリブライトのコンビでは1年前から結果を出せていないという事実。そこに騎手本人からの希望も加わり、リブライトの背には川原騎手が跨ることに決定。
オレは自分の力不足に落ち込みながら日本からTVで観戦することしかできなかったけど結局、大した見せ場も無く昨年よりも悪い12着。日本からの参戦馬3頭のうち最下位という結果で2度目の海外挑戦を終える事となった。
そんなリブライトが帰国後の検疫を終えて福山厩舎に戻ってきたのは10月最後の月曜日。ちょうど天皇賞・秋の翌日だ。全休日でガランとしたトレセンの厩舎事務所には馬主の北条さんをはじめ、福山調教師に千葉厩務員も揃っていた。
「では、リブライトについて今後の方針を伝える」
陣営の全員を見回して北条馬主がゆっくりと告げるが、福山調教師と千葉厩務員の表情は暗い。おそらく凱旋門賞を終えての帰国を前に、ある程度の想像がつくような事は言われていたのだろう。一方で何も聞かされていないオレは、次の言葉に驚きを隠せなかった。
「リブライトの次走は有馬記念とし、それをもって引退レースとする」
調教中に落馬で地面に叩きつけられた時のような、全身に衝撃が走るような感覚。
騎手という仕事を始めて9年半。これまでに何頭もの馬が現役を引退していく姿は見てきた。だからどんな馬であっても、いつかそんな日が来ることは分かっていたんだ。それなのに……リブライトとだけは、そんな日が来る事は無いような気がしていた。
まだ、走れる。今年の結果だって馬の衰えじゃなくて、オレが上手く輝きを引き出してやれなかっただけなんだ。それに展開の向き不向きもあったし。まだ馬自体は、挑戦し続けられる力を持っているんだ。オレは思わず沈黙を破るように一気に、胸の内を訴えていた。
だけど。
「これまで主戦を務めてもらった加賀君には失礼な考えだと思ったが……ワシもそれは考えたんじゃ。もし川原君とのコンビで去年と遜色のない走りを見せる事が出来たなら、違う騎手にお願いする事も選択肢に入れながら来年も現役続行する事は出来るかと。じゃが……」
その先は言わなくても分かる。結果は不利を受けたわけでも騎手の力量が問われたわけでもないのだろう。川原さんは何か大きな失策や展開のアヤがあった時、それを曖昧な言葉で濁すような人ではないから。
『持てる限りの力を尽くしましたが、世界の壁を越えられるだけの力がこの馬にも僕自身にも足りなかった。それ以上でも、それ以下でもないと思います』
レース後のコメントとして掲載されていた言葉。それが、掛け値なしの本音なのだろう。
「じゃがワシも、だからと言ってこのまま静かに引退してもらおうなどとは思っとらん。走らせるからには最後までこの馬らしい競馬をして、できるだけ良い結果を残して欲しいと思っている。頼めるか? 加賀君」
俺の正面を見据えて北条馬主がそう尋ねる。オレは迷うことなく、首を縦に振った。
だけど、その先に待っていた日々は、試行錯誤の連続だった。
有馬記念は国内の有力馬が一堂に会するまさに年末のドリームレース。それだけにどの馬も同程度の距離でレースを勝った時の時計を見ると、相当タフなペースで走破している事が分かる。それも他馬によって展開を左右されながらの結果だ。
それに照準を置いての調教でもリブライトは、有力他馬の叩き出したタイムを越える事は出来なかった。2500メートルという距離を一定以上のペースで走破する事を想定してのコース追いでは思うほどのペースは維持できず、最後の末脚に軸を置いたウッドコースでの調教でも他の有力馬には全く及ばない時計。それも乗り方は春までと変わらないリズムで走れている手応えがあるというのに、だ。
一体何が足りていないのか、全く手掛かりも掴めないまま、時間だけが過ぎていく。
「何かよぉ、思い出すよな。菊花賞に挑む前のこと」
手綱を引きながら千葉さんがそんな事をポツリと言ったのは、ある日の調教を終えて厩舎に戻る途中。思い出した、あの時はオレの方がリブライトの秘めている力を引き出す事が出来なくて、必死でもがいていたんだった。
「あれから2年ちょっとか。その間に俺もお前もコイツの扱いにも慣れたし、G1の舞台へ人馬共に万全で送り出すってのもようやく出来るようになった……つもりだったんだけどな」
そこまで言うと言葉を詰まらせ、視線を下げる千葉さん。
「すまねぇな、さすがにあの頃みたいに『どんな奴が相手でもウチのが一番強い』って、そう言えるようにはできねぇや。どんなに頑張っても、やっぱり……」
「千葉さん! その先は絶対に言わないでください!」
それはオレも感じていた事だったけれど。言ってしまえばすべてが崩れる、そんな気がした。
「オレが、リブライトをあの時と同じ場所まで連れていきます! オレはこの馬に、返しても返しきれないぐらいの恩がある!」
そう、この馬と出会っていなかったとしたらオレは、騎手を辞めていたかもしれない。それを踏みとどまらせてくれたのは、この場所まで連れて来てくれたのは、この馬だ。だから、オレが絶対にあの場所まで連れて行かないといけないんだ。
ただ、そう決意を言葉にはしたものの、確かな手ごたえは掴めないまま時間だけは悪戯に過ぎてレース当日を迎えることになった。
12月22日、日曜日。中山競馬場・第11競走。
年末最後の大レースに足を揃えたのは18頭のスターホース。
G1 有馬記念 芝2500メートル
1番人気 ドゥードス 5牡 滝 主な勝ち鞍:天皇賞(秋)ジャパンカップ
2番人気 トレジャーシップ 4牡 横浜(優) 主な勝ち鞍:皐月賞・ダービー
3番人気 カノンミサイル 4牡 横浜(徳) 主な勝ち鞍:菊花賞・天皇賞(春)
4番人気 ヘブンリーブルー 4牡 川原 主な勝ち鞍:ドバイターフ・宝塚記念
5番人気 ブループラネット 5牡 小崎 主な勝ち鞍:大阪杯
9番人気 リブライト 5牡 加賀 主な勝ち鞍:菊花賞・天皇賞(春)
その中でも1番の強敵は古馬になってから才能が開花して、秋の天皇賞とジャパンカップを鮮やかな差し切りで連勝、有馬記念をラストランとして秋古馬3冠を狙うデュードス。
それから去年の皐月賞・ダービーと他の追随を許さず逃げ切りで2冠を決めたトレジャーシップ。そして昨年の菊花賞に春の天皇賞を勝ったカノンミサイルにクラシックは無冠で終わったものの、ドバイで海外G1勝利を決めたヘヴンリーブルーと新しく実力最上位に躍り出た馬たちが続く。
そんな中にありながらリブライトは9番人気と低迷していたが、それも今年の勝利は春に行われたG2の日経賞だけなのだから仕方ない。だけど、状態はまさに絶好調という感じで俺たち陣営は手ごたえを感じていたんだ。
後半へ続きます。
ただ公開は少し遅れるかもしれません
(まだ書き上がっていないので><)




