初出勤
部屋にある鏡で身嗜みを整える。自身の後ろに映り込むモノをみて、眉間にシワがよる。
個人、チーム、部署、会社それぞれで受賞した記念品などが部屋に飾られている。当時の私にとっては、かけがえのないものだった。賞状を破り記念品は無惨な形になるまで破壊したが、セラが修復したらしい。額縁に入ったチーム賞の縁をなぞり、上司の影を思い浮かべる。
私を殺した人間が、今ものうのうと生きていると思うと虫唾が走る。
「同じ地獄を見せてやるからな」
額縁を強く握り、自分の生きる意味を確かめた。
◇◇◇
始業のチャイムが鳴り響く。
「みなさん、おはようございます」
「「「「おはようございます」」」」
この前面接してくれた、川崎さんが朝会を仕切る。
なんだか頼りないと思っていたが、本当にグループ長なんだ。疑ってごめん。
「今日は中途入社の方を紹介します。橋本司さんです」
私は一礼する。
「ご紹介に与りました、橋本司です。最初は皆さんに色々とお伺いするかと存じますが、一日でも早くお役に立てるよう精進していきますので、よろしくお願いいたします」
前職については触れず、当たり障りのない挨拶をしたが、
「橋本さんは元帝都コンサルでしたので、その経験を活かして是非活躍してもらいたいと思っています」
秒殺。おい!! 余計なこと付け足さないでくれ。
「えーー! 帝都コンサルってあのですか! すっげぇ。あそこに就職できる人って本当に実在するんすね」
キラキラした眼差しでこちらを見てくる若い男の子。
こんな風に、会社の名前だけで期待する奴がいるんだよ。勝手にハードル上げるなよな。
「簡単にグループの仲間の自己紹介してもらうね。それでは、年次順でお願いします」
「入社20年目、課長の島田浩一郎です。営業畑に長くいました。よろしく」
少し強面だが、軽いパーマのかかった黒髪と高身長でとてもスーツが似合う。喉から色気が漏れ出ているようだ。
「すみません。えっと、、入社15年目のチーフをしています、田中大地と申します。コーポレート系に長くいました。よろしくお願いします」
深々と頭を下げ、その際にずれた眼鏡を田中さんは直した。何に謝ったのかは不明だが、とても腰が低くそうな人だ。
「秋山くみです。入社は7年目です。主に基幹システムの導入企画をしています。入社以来ずっとこのグループなので、分からないことがあればお気軽に声を掛けてください」
ゆるふわパーマに可愛らしい声。少し離れているのに良い香りがする。頭から足先までお洒落に抜かりがない女性だ。
「はい! 俺は入社2年目の八宮涼です。コンサル出身って超かっこいいっす。色々教わりたいので、よろしくお願いします!!」
ツーブロックの細身塩顔男子が元気よく挨拶する。馬鹿っぽそうだけど、こういう若手は管理職受けしたりする。
「私の紹介は不要と思うけど、一応ね。グループの庶務全般を担当しているわ。司と私は従姉妹なの。みんなよろしくね」
セラに肩を抱き寄せられた。会社でもこんなキャラなのか、と少し呆れた。
一通り自己紹介が終わったところで、川崎さんが朝礼を締める。
「はい、では橋本さん今日からよろしくね。皆さん仕事に取りかかってください」
◇◇◇
机の並びは年次順になっているらしい。私の右隣は……
「つかさん!! よろしくお願いします!」
八宮くんは私に体を向けて、元気に挨拶した。というか……
「つかさん?」
「そうです! 橋本さんって呼ぶと、二人共振り向いてしまうかもしれないじゃないですか。だから、つかさんって呼ばせてください」
「まぁ、いいけど。よろしく、八宮くん」
「おい、八宮。二週間後の報告会資料は出来ているのか」
島田さんがこちらに来た。眉間にはシワが寄っていて、低い声がずんと響く。
「うぅっ…っと、一応出来てます」
できてない奴の間なんだよ。と心の中で突っ込みながら、横目で八宮くんを見る。
「そうか、では印刷して持ってこい。後で確認する」
島田さんはパソコンを持って会議に向かった。
「はぁぁ。島田さんこわーい」
体を伸ばしながら呟いている。
「……どこが怖いんだ?」
「えー、あの顔とか声とか口調とか?営業出身者って怖い人多いんすよねー」
分からなくはない。帝都コンサルの営業職もライオンとゴリラを足して二で割ったような奴らだった。
「ところで、何の報告会があるんだ」
「えっーとですね」
八宮くんがメールを見せてくれた。
・2年目業務報告会
・1年目の業務で得たこと、学んだことなどを発表する
・1人15分
どこにでもある節目の報告会。懐かしい思い出が頭をよぎる。
「まぁ、とりあえず出来てるなら、島田さんに見せてフィードバックもらわないと」
嫌だなぁと呟きながら、八宮くんは作成した資料を印刷した。




