表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

2年目社員の悩み〜報告資料の書き方〜

「八宮、ちょっといいか」

 八宮くんが島田さんに呼ばれて、会議室に向かった。大方、報告書の出来が悪かったのだろう。




 昼休憩のチャイムが鳴り響き、フロアの照明が消灯した。


「ランチどこに行く?このビルは和洋中なんでも入ってるわよ」

 セラが早く行こうと誘ってくる。




 もう昼休みか、PCのセットアップや関連フォルダの整理で午前の時間を使ってしまった。



 ◇◇◇

 ビル内のレストランからテイクアウトし、一階の広場で食べることにした。平日だからか、やはり人も多く賑わっている。


「外で食べるのが好きなの?せっかくレストランあるのに」

 セラは少し膨れている。


 昔はずっとプロジェクトの会議室に篭りっぱなしだったから、ご飯は外で食べていた。それがいつの間にか習慣になっていた。

「息抜きみたいなもんかな」


 広場からビルを見上げてみる。太陽の光が眩しく、顔に手をかざし目を細める。都内一等地にある巨大ビルの最上階、さぞ儲かっている企業が入居しているんだろう。


「このビルの最上階はどんな企業が入っているんだ」

「今は外資系IT企業ね。でも、割ところころ変わるわよ。今入っている企業も、日本市場でうまくいかないみたいで、撤退するかもしれないのよ」




 勝ち目のない事業や市場をすぐに撤退する勇気は称賛に値する。分かっていても、撤退を実行するのは難しい。ステークホルダーへの説明も一苦労だ。そういう会社も沢山見てきた。経営者の苦しい表情を思い出し、心が痛む。




「司はコンサル時代はどういう業界を担当していたの?」

「基本は事業会社だよ。日本製作所も担当してたよ」

「えっ、そうなんだ。もしかして、どこかですれ違ってたのかもね」




 そうかもしれない。私はセラを見たことがある気がするし。




「って、食べるのはやっ!!」

 私はテイクアウトした定食をものの5分で食べ終えていた。


「えっ、そうかな」

 確かに、セラはまだ九割ほど残っている。


「これも癖みたいなものかな」

「もー、今は違う会社にいるんだからね。今までは出来なかったのかもしれないけど、たくさん噛んでゆっくり味わってご飯食べなさいよ」




 セラの言うとおりだ。今いる場所は昔とは違う。会社の中で怒号が飛び交う事もない。広場を行き交う人も、笑顔で楽しそうだ。

 仲間内で楽しそうに喋る人々に、昔の自分と上司を無意識に重ねる。




 行き交う人を見つめる司の眼は、どこが物悲しそう。あなたが生きたい理由は本当に復讐だけなの?司は私の視線に気付く事はなかった。



 ◇◇◇

 ご飯を食べ終え、フロアに戻る。


「はぁぁぁーーっ」

 隣から大きなため息。


「報告資料について、何かフィードバックもらえた?」

「つかさん、俺何のために一年間働いてたんでしょう……」


 机に伏しながら、赤ペンの入った資料を見つめている。八宮くんから資料を奪い、ペラペラと内容を確認する。全てのページにぎっしりと赤字で修正が入っている。


 あまりの酷さに、呆れと少しの苛立ちを覚える。正直言ってレベルが低い。

「……これは、酷い!」

「島田さんの赤ペン先生酷くないですか?!」

「いや、お前の資料がだよ」


 耳の下がった犬のようにしょんぼりしてしまった。言いすぎたか?と思ったが、島田さんの指摘はごもっともなんだ。


「確かに島田さんの赤ペンはダメと言っているだけで、具体的にどうすべきかは書いていない。その点は私も君に同情しよう」

 八宮くんの顔がぱぁっと明るくなる。



「でも、この報告資料は全体的に何を伝えたいのかがわからない。報告の目的はなんだ。1年目の業務で何をした。ただ業務を羅列すればいいってわけじゃない。八宮くんなりに工夫があったと思う。上手くいかないこともあったと思う。その時何をどうしたんだ?その工夫の過程を書かないといけない」


 八宮くんは必死にメモを取っている。


「具体的にどんな業務をしてきたんだ?」

「えっとですね。主には営業支援ツールの導入です。でも、基本は田中さんの指示に従ってただけですね。自分で何か工夫したことってあるのかな、、なにもないんじゃ……」

 うーんと腕を組みながら考え込む。

 



 最初は分からなくて当然だ、みんなそう。だけど、いつの間にかその感覚がなくなり、気づけば思い通りにならない部下や、飲み込みの悪い後輩に強く当たってしまう。

 多くの先輩が私を見捨てた。出来ないやつと認識されたら、なかなかそれを覆すのは難しい。でも、たった1人でも自分を応援してくれる人がいたとしたら……。


 浮かび上がる影を握りつぶすように、ぐっと拳に力をいれ八宮くんと向き合う。




「例えば、その業務を進める中で困ったことはなかった? なかなか物事が決まらないとか、決まったことをユーザがやってくれないとか。導入はしたものの運用が安定しないとか」

「ダメなところは沢山ありました!」

「じゃあ、どうあるべきだったのかを定義して、そのダメな状態と比較するんだ。その差を問題として、そこから深掘りしていくんだ。よくある問題分析手法だよ」

「深掘りですか?」


 現状とあるべき姿の差を問題とし、そこから何故そうなったのか?を深掘りしていく。何度も深掘りして、その最後に行き着くのが真の問題だ。そこを解決する策を打つ、と簡単に説明した。


「まぁ、もう終わったことに対してやるなら、少し無理やり結論に結びつける必要があるかもしれないけど」

「でも、劇的な何かをやったわけじゃないんです……」

 またシュンとしてしまった。



「別に劇的な事なんてなくていいだよ。さっきの分析した結果、コミュニケーション不足となれば、相手との時間をもつ何かしらの工夫をしたとか。時間がない相手のために、分かりやすい資料を作成したとか。そういうのでもいいんだよ」

「……!なるほど。それならやった事があります」

「自分がどんな対応をしたのか、その経験から何を学んだのか、現在の行動や他の業務にどう活かしているのかまで書けるといいと思う」



 びっしりと修正の入った資料を八宮くんに返し、なるべく優しい声で伝える。

「もう一度自分の業務を振り返って、書き直してみな」



 ぱぁっと明るく、やる気に満ちた顔つきになった。

「ありがとうございますっ!!」




 何故だか、私も嬉しい気持ちになった。それと同時に、胸が締め付けられた。震える手を八宮くんに悟られないよう、私はお手洗いに向かった。




 風間さん、あなたもこんな気持ちだったんですか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ