祝・転職
面接日当日
都内の外資系やIT企業が多く入居する林ビルに到着。
「日本製作所。……業界最大手じゃないか」
意外だ、という表情をセラに向ける。
「実は凄いところで働いているのですよ」
45階建てビルの40階でエレベータを降り、会議室に案内される。
「部長、連れてきました。入ります」
「やぁ、こんにちは。君が橋本司さんだね。私はデジタル事業部の戦略企画グループを統括している、川崎光男です」
小太りで眼鏡をかけた、優しそうなおじさんが椅子に腰掛けていた。
「はじめまして。橋本セラの従姉妹の司です」
一礼をする。
それから少しの間、私は過去に経験したプロジェクトの話をした。
「いやぁ、本当に君みたいな人材が働いてくれるのは嬉しいですよ。是非、うちのグループで活躍してほしいですね」
川崎さんはハンカチで額の汗を拭って続けた。
「ところで、どうして前職を退職したのですか? 帝都コンサルと言えば、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長し、今や世界TOPコンサルの仲間入りをしているコンサル会社ですよね。その狭き門を突破し、富と名声を享受したい人は多いですよ」
血の気が引いたのがわかる。
罵声、誹謗中傷、周囲の冷たい視線を一気に思い出し、机の下の膝が震えだす。
言葉がすぐに出てこない。恐怖と怒りの感情で今にも吐き出しそうだ。
何か話さないと、と必死で感情を押し殺していた時、
「私と同じで、司も親の介護をする必要があったんですよ」
セラに顔を向けると、こちらにウィンクしてきた。
「おぉ、そうなのかい! それは大変だったね。もう親御さんは大丈夫なのですか?」
「えぇ、今は施設に入居しているので、司はフルタイムで働けますよ」
「それはよかったです。でも、もし何かあったらすぐに相談してくださいね。うちは介護や育児をしながら働く人を応援しています。有給も取りやすいので、是非活用してください」
「……ありがとうございます」
その後、会社の事業や部署・グループの目標など、一通りの説明を受けた。
「橋本さんの入社手続きは進めているので、おそらく3月末には完了します。4月から早速仕事に来てもらえますかね。初日の朝、グループメンバーを紹介しますよ」
「よろしくお願いします」
◇◇◇
オフィスを後にし、一階の広場にでる。
「どうだった? 働けそう?」
嬉しそうな顔でセラが覗き込んでくる。
「まだ働いていないからわからないけど、とりあえず、これで生活費がなんとかなると思うと安心した」
ニャーッ
「あらあら、日曜なのに珍しいわね」
「この広場には猫が住みついてるのか」
「そうなのよ。このビルはレストランも多く入っていて、平日は人の出入りも多いのよ。それで、餌をあげちゃう人も多くてね。いつの間にか住み着いちゃったみたい」
「でもね、ここの猫は二グループに分かれてるから、他のグループの猫に近づけると喧嘩するわ」
「猫も生き辛い世の中になったもんだな」
「司って猫の生まれ変わりなの?」
「バカか」
「そういえば、セラはどこに住んでんの?」
「えっ? 司の家だけど?」
「はぁ?! 今まで住んでた家があるだろ。そこはどうした」
「もう売り払っちゃった。だって司一人暮らしなのに2LDKのいい部屋に住んでるんだもん」
「いや、なんの説明にもなってねぇよ」
「これも担当の宿命みたいなものだから」
「その担当っていうのはなんなんだ」
「まぁ、追々説明するわね。それより、今日は司の就職祝いでぱーっとしましょうよ」
「じゃあ、いい肉買って焼肉したい」
「お祝いにはケーキでしょうよ!」
「甘いの好きじゃないから」
「えぇ〜!!」
頬を膨らませて、ケーキも買おうよとセラがせがむ。
誰かに自分を祝ってもらうのは久しぶりだな。
私は夕焼けに染まる空を見上げた。
これから、私の人生第二幕が始まると思うと、期待と不安で胸が高まる。
私を殺したあいつに、絶対に復讐してやる。
拳を強く握り締め、心に強く誓った。




