新しい自分
額に暖かい手。
暖かくて、優しくて、心が落ち着く。
こんなに穏やかな気持ちは久しぶりだ。
「――っ」
目が覚め、アラームを確認する。
2月8日(土)AM7:27
久しぶりによく寝た。なんだか変わった夢を見ていた気もする。とりあえず、顔でも洗うか。
寝室のドアを開き、リビングに向かう。
ガチャッ
「おっはよー、司」
見知らぬ女が手をヒラヒラさせ、私に笑顔を向ける。
バタン
「ちょっ、ちょっとー!! なんでドア閉めるのよ」
私はドアを背にしてうずくまる。
だ、、、誰だ?!
不法侵入? でも、私の名前を知っているし、知り合いのテンションでナチュラルに話しかけていた。では知り合いか?
必死に記憶を張り巡らせた。
ガチャッ
「あんた誰だ!」
「んもぉ〜。昨日あんなに大切な話したのに忘れちゃったの?」
「……全く記憶がない」
「とりあえず、顔でも洗ってきたら? それからでも遅くはないわ」
怪しいやつではあるが、命の危険はなさそうなので、言われるがままに顔を洗いに洗面台に向かう。
そして、鏡に映る自身の姿を見て、驚愕する。
「……えっ」
真っ白な肌、胸まである金に近い明るい髪色、色素の薄い眼、長い睫毛、シュッとした鼻。
ドドドドドッ
ガンッ
「私は誰だ!!!!」
勢いよくドアを開けて、優雅にコーヒーを飲んでいる女に問う。
「あははは。もう、焦っちゃダメよ司」
鼓動の高まりがおさまらず、机を勢いよく叩き、女の目を見つめる。
女は両手を絡ませ、その上に顎を置いた。
「まず、あなたは三葉司よ。元だけどね」
「元……?」
「そして私は天使よ!」
「……はぁ?」
突然の天使宣言に、私は間抜けな声を出した。
「全然信じてないわね。まぁ、でもいいわ。あのね、天使は死期の近い人間を迎えに行く仕事があるの。そして、昨日私はあなたを迎えに行ったのよ」
体がピクリと反応する。
「……私は死ぬ予定だったのか。でも、どうして死んでないんだ?」
「死期の近い人間を天界に連れて行くか、特別な理由で生かすかは天界が決めるのよ。その天界の指令に、あなたを生かせと書いてあったの。何故かは私にもわからないわ」
自称天使は両肩をすくめた。
私は超常現象に頭をフル回転させていた。
「天界があなたを生かす理由はわからないけど、あなたは明確に生きたい理由を私に示したわ。――復讐したい相手がいる、と」
その言葉に私は目を見開き、震える体を腕で押さえ込んだ。
数秒の間を置いて深呼吸をし、口を開いた。
「なるほど。理解した」
「あら、思ったよりあっさりね。普通大混乱しない?」
「まぁ、にわかには信じられないが。見た目が変わっていることや、あんたが嘘をついてなさそうなところ。あとは、……私が言った生きたい理由に納得したからな」
馬鹿騒ぎして元に戻るなら騒ぐが、そうはならないだろう。なら、現実を受け止めてどう生きるかを考えたほうが合理的だ。
「ところで、今の私はなんて言うんだ。社会的な状況はどうなっている」
「あぁ、社会的なあれこれはよしなにやったので気にしないで。名前はね、私の従姉妹ってことで橋本司になっているわ。歳は33歳、今は無職」
「あんた天使なのに人間界の名前持ってるのか。あと、無職はどうにかしないとな。家賃払えないし……」
「私の名前は橋本セラ。人間界で生活しているわ。その方が死期を感じやすいからね。あと、職については私の働いている会社で働いてもらう予定よ」
私は顎に手を当てて考える。
「就職先があるのは助かるな。面接とかはしなくていいのか?」
「うちのグループは人が足りてなくて大変なのよ。司の経歴を話したら是非きてくれ! ってさ。結構大企業だから安心してね。とりあえず、来週の日曜日にグループ長と面接してほしいの」
「転職活動か、色々と準備しないとな」
「大丈夫、大丈夫〜! もう入社は確実で、顔合わせるだけだから」




